【インタビュー】クリスチャン政治学者・千葉眞ICU特任教授(7):非戦型安全保障

2015年4月15日12時08分 インタビュアー : 行本尚史 印刷

千葉氏:それからもう一つ、この延長線上ですが、憲法平和主義の今日の問題というのは、私は安全保障があまりはっきりしていなかったということだと思うのです。安倍政権が付け入る隙を作っているというので、非戦型安全保障構想ということが、これからすごく大事になるのではないかなと思っています。

その関連で、「たがが外れたような世界 vs. 平和憲法一非軍事型安全保障を模索して」。これは平和研究所のニュースレターに出る私の原稿ですが、その1ページの下の方で安倍政権の「積極的平和主義」を批判しています。一つは、「積極的平和」という概念は、ノルウェーの平和研究者の(ヨハン・)ガルトゥングらが言ったように、平和研究では、社会正義とか協働とか衡平とか共生というか、単に戦争や対立・紛争がない状態ではなく、社会の中に正義が、あるいは平等が実質的に実現されている状態というような意味です。ですから、長い間平和研究で一生懸命語ってきた「積極的平和」を、われわれは positive peace と英語で言うのですが、安倍さんの背後にいるブレーンでしょうね、proactive peace を「積極的平和」というように(訳して言っている)。朝日新聞(2月8日朝刊)で早稲田大学法学学術院教授の長谷部(恭男)さんがこの間書いていた論点ですが、私も前から気がついていました。「積極的平和主義」ということは勝手ですが。学問の世界で、政治学や国際関係学、平和研究の中で長年培われてきた意味・内容を全く無視して、ただ形の上だけで、名称だけで言って、内容はというと結局、軍事力を強化して、軍事的安全保障、抑止力を強化して、日米同盟を強化するという、「馬を増やす」ほうですよね。何で平和主義なのか・・・。

(ジョージ・)オーウェルが、『1984年』(早川書房、1972年、新訳版は2009年)という小説の中で、double think(二重思考)とか――double standards のことですが――、double speak(二重語法)というように言って批判していることがあります。オーウェルが描いた全体主義的な世界では、「戦争は平和である」というように、支配者が気軽に大上段から言える世界になっている。「隷属は自由である」と。「だから、あなたは隷属だと言って、不平不満を言うのではなく、これが自由なのだから従いなさい」。戦争をやっているのに平和な社会がほしいという民衆がいれば、「戦争こそ平和の基礎であり、平和なのだから、あなたがたは文句言うな」というのが出てきます。だから、言葉の操作、ちょっと悪く言えば、言葉のペテン以外の何物でもないわけです。これはやはり、われわれは語っていかないといけないのかなと思うのです。

それとやはり、軍事的安全保障というのはある意味で時代遅れになっていて、本当は非戦型・非軍事的な安全保障を世界は冷戦以降持っているのです。それがここに書きました「共通の安全保障」と「協力的安全保障」という概念です。

最近、新聞にも出てくるOSCE(欧州安全保障協力機構)というのがあります。それがこの間、ウクライナに入っていったり、その前はクリミアに入っていったり、何とか戦いを止めさせて平和な話し合いで問題解決しようということで、結構頑張っています。命を危険にさらしながらやっているものがあり、そこで彼らは冷戦期には共通の安全保障、今は協力的安全保障というやり方の非軍事の安全保障を一生懸命言っています。軍隊ばっかりでは平和にならないと。

NATO(北大西洋条約機構)というのが軍事的な安全保障です。しかし結局、NATOで米ソの冷戦は終わらなかったのです。それで1970年代半ばにCSCE(OSCEの前身)が起こって、各国の閣僚や大使クラスが1カ月に1回か、1週間に1回ぐらいの会合を必ずジュネーブかウィーンで開いたのです。東側陣営と西側で。それが信頼醸成になり、情報の交換をし、例えば、軍事的な演習をやるときには互いに情報を共有するなど。それがよかったのですね。ホットラインもできましたし、何かあったときにすぐに対話に入れるようにして、信頼醸成・平和外交・軍縮、それをずっとやったのです。これは、NATOの「北風政策」よりも「太陽政策」です。太陽政策の方が、冷戦を終わらせたのではないかという議論、研究が今盛んです。

そのことを考えれば、安倍首相がやっている軍事的安全は周回遅れのことをやっていて、結局東アジアがまだ冷戦構造を持っているからなのですが、別のやり方がないのかなと。憲法9条に見合った平和な9条型の安全保障をやはりつくっていく責任が日本政府にはあるし、そういう議論を政治学とか平和研究とか憲法学はやっていかないといけないのかなと、この間少し話したのです。

そしてまさに今、安保法制の議論が国会に上程されようとしています。それでこの間、樋口(陽一)先生(東北大学名誉教授、憲法学者)・山口(二郎)さん(法政大学教授、政治学者)を中心に、15〜16人の会合を開いて、いま大事だからやはり本を出そうと。一つは8月革命70周年にあたって、もう一度憲法9条からそれに見合った安保法制を考えるという。私も、積極的平和主義批判と欧州で生じた非戦型の安全保障について書けそうだからということで、書くことになりましたが、7月ぐらいには本が出ると思います。そこで十数人の憲法学者と政治学者が書くことにしたのです。

こういうような形で平和憲法の理念を現実に移す(ことは)、本当はもっともっと前にやっておかなければいけなかったのに、学者の怠慢であり、政治家の怠慢だったろうと思うのですが、護憲勢力もやってこなかったのですよね。今こそ遅ればせながらやろうということで、ちょっと考えています。(続く:殺人と戦争の二重道徳、キリスト者の役割

◼︎ 千葉眞ICU特任教授インタビュー:(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)

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