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ナッシュビルからの愛に触れられて

ナッシュビルからの愛に触れられて(15)ナッシュビルツアー2011 青木保憲

2018年2月6日18時03分 コラムニスト : 青木保憲
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ナッシュビルからの愛に触れられて(15)ナッシュビルツアー2011 青木保憲+
ボイストレーニングのあとで

9月上旬から10日間かけて日本を縦断し、被災地仙台にまで足を延ばしてくれたクライストチャーチクワイア一行が帰国した。総勢16人の面々は、それぞれの日本体験を楽しみ、モリース氏の死を悼みつつも彼の遺志を継ぐ働きができたことに、心からの満足を抱いていたようだ。

関西国際空港で皆とハグし、お別れの涙を流すことになったのは言うまでもない。しかし、私はそれだけで終わりではなかった。彼らが帰国したわずか4日後に、今度は日本からナッシュビルへ学生たちを連れて表敬訪問することになっていたからである。これは「ナッシュビルツアー」というイベントとして、現在も継続されている。

特徴としては、クリスチャン以外の方、特にキリスト教というものをまったく知らない方々と旅をして、本場の米国南部を体験してもらおうということである。いろんな統計を見てみても、多くの若い方がキリスト信仰を持つようになるのは、海外体験を通してであることが分かっていた。だからそういった「異文化体験」を通してキリスト教に触れることで、日本にいて「宗教としての」キリスト教と触れ合うのとは異なる「出会い」をしてもらいたいと願った結果であった。

しかし、このような企画に欠かせないのは、受け入れ先が米国にあるかということである。ビジネスライクに「短期留学」ということならいろいろあるだろうが、やはりクリスチャン家庭に、教会を通してのホームステイをさせてあげたいとなると、これはなかなか難しいと言わなければならない。

実は3月にクライストチャーチを訪問したときから、このツアーのことを打診していた。そして、こちらに関しても快諾を得ていたのである。初めてだったので、こちらもいろいろなことが分からず、とにかく低予算で、質の高いツアーを考えたいと意気込んでいた。今から考えると、かなり無謀な旅であったが、それでも10人以上の参加者があった。その内訳も、大学生が5人、教会の若者が2人、そして音楽好きな教会員が数人というなかなかよいあんばいとなった。

ツアーは9月20日から10日間。厳密には10月1日の帰国予定であった。学生たちは渡米中に秋学期の単位登録をしなければならず、各ホームステイの Wi-Fi に接続して10月からの単位を確認したというちょっとハラハラする展開もあった。

いずれにせよ、片道20時間のフライトを楽しみながら、私たちはテネシー州ナッシュビルの地を踏んだのである。今まで2回は私だけのナッシュビル入りだった。しかし3回目のナッシュビルは、学生や教会の方を連れての旅行ということで、私も働きが拡大していることを実感できた。まさかこのようなツアーが、その後7回も行われ、毎年ナッシュビル入りすることになろうとは、この時の私はまだ分からなかった。

今回のツアーメンバーは、誰もが音楽を実際にやっている者たちであったため、旅行中にどんなことをしたいかと問うと、こういった海外旅行では少し異質な答えが返ってきた。

「本場のボイストレーニングを受けてみたい」
「ギター、ピアノの弾き方を教わりたい」
「クワイア指導の方法を実際に伝授してもらいたい」

確かにミュージック・シティと自分たちで掲げるだけの「音楽の都」なので、そういったニーズを満たすことも可能であろう。早速クライストチャーチ側と交渉したところ、すべてOKを頂けた。

もちろんこれ以外にも大きな特典があった。それは、あこがれの深緑色のローブをまとい、日曜日にクワイアメンバーとして歌えるということである。これにツアーメンバーは狂喜した。総勢100人を越えるクワイアの一員として、日曜の礼拝に歌えるのである!確かにゴスペル好きにはたまらない体験であろう。

ナッシュビルからの愛に触れられて(15)ナッシュビルツアー2011 青木保憲
礼拝の終わりに
ナッシュビルからの愛に触れられて(15)ナッシュビルツアー2011 青木保憲
おいしい南部料理

このように喜んでいる彼らの様子を見て、私も1つ新しいことを学んだ。それは、やはり教会は人々に対して「あこがれを提供する」場でなければならないということである。そもそもこういったツアーを企画しようと思ったきっかけは、閉塞的で内向きな日本のキリスト教会の現状を鑑みたからである。もちろん一生懸命に伝道している。あの手この手で1人でも多くの方を教会へ導こうとしている。しかし、教会に来た方が再びその教会を訪れることがあまりない。それは、1度は頼まれてその場にやってきても、想定以上のもの、やってきた方がもっと知りたい、もっと求めたいと思わせるものがそこにないから、彼らは教会の戸口で去っていってしまうのではないか。私はそう考えた。

それなら、教会のことをまったく知らない方が、「これはすごい」「自分もやってみたい」と思わせるもの、すなわち「あこがれ」を彼らに提供できるようにしたらいいのではないか。たとえその教会は小さく、目立たない存在であったとしても、そこから米国のメガチャーチにつながり、本場のゴスペル、ジャズ、ブルースなどに触れる機会があるとしたらどうだろうか。初めての方が触れる「キリスト教」の中に、自らあこがれるものが存在するとしたら、彼らとキリスト教徒の境界を曖昧にし、敷居を低くすることができるのではないだろうか。

ナッシュビルツアーは、この私の予想がある程度は正しかったことを証明してくれるものとなった。

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◇

青木保憲

青木保憲

(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科修了(修士)、同志社大学大学院神学研究科修了(神学博士)。グレース宣教会牧師、同志社大学嘱託講師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(明石書店、12年)、『読むだけでわかるキリスト教の歴史』(イーグレープ、21年)。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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