エルサレム首都認定、トランプ政権の決断とその波紋 どうして米国はイスラエルを重要視するのか(3)

2017年12月11日11時51分 コラムニスト : 青木保憲 印刷
+聖書に登場するヒゼキヤ王直筆の印を発見 エルサレム
エルサレム旧市街(写真:Paul Arps)

米国がイスラエルを支援する社会的要因、歴史的要因は前回までで概観できたように思う。「抑圧され続けてきた民族」としてのユダヤ人へ援助の手を差し伸べることは、道義的に正しいこと、と米国は捉えた。そして、前近代的で非民主主義的なイスラム国家に周りを囲まれる状況で、民主的な立憲国家として存続しようとする彼らを応援するのは、民主国家の先輩である米国の役割となる。

2013年3月にイスラエルを公式訪問したバラク・オバマ前大統領は、米国とイスラエルの共通項を挙げ、イスラエル支援の正当性を説明した。イスラエルが「自分たちの土地で自由になる」という理念のもと、世界中から移民を受け入れたことは、かつて同じように新たな土地へ理念を持って入植していった米国の歴史と重なるところがある、と捉えたのである。

しかし、このような「イスラエル観」を根底で支えている思想とは何か。それは、米国とイスラエルのみ通用する独特な「宗教的枠組み」である。今回はこのことについて言及してみたい。

6. 米国の「イスラエル観」を形成する宗教的枠組み

米国のイスラエル支援について言及している研究者は、共通して米国人特有の宗教的枠組みを指摘する。

2008年に『神の国アメリカの論理 宗教右派によるイスラエル支援、中絶・同性結婚の否認』(明石書店)を著した上坂昇氏は、イスラエルが占領地(エルサレムも含む)から撤退しないのは、そこが神から自分たち民族へ「約束の地」として与えられた土地だからだ、と指摘している。そして、これを米国の保守系キリスト教徒、すなわち福音派(この定義には多様性が含まれるが、今回はそこまで問わない)、特に80年代以降に政治化した「宗教右派」という集団が熱烈に彼らを支持していることも報告している。

マーク・アムスタッツ氏は『エヴァンジェリカルズ』の第5章で「福音派とアメリカの対イスラエル外交政策」という項目を設け、簡潔に米国人(福音派)の宗教的枠組みを伝えている。それによると、福音派はパレスチナがユダヤ教とキリスト教の発祥地であるだけでなく、イエスが生まれ、死を迎え、復活を遂げた場所であることにも力点を置いているようである。ちなみに「福音派」とは、ここでは「聖書を字義通りに受け取る信仰者」というかなり曖昧な意味合いで受け止めていただきたい。いわゆる「キリスト教保守系」ということになる。

ティモシー・ウェーバー教授は、米国人の心情を次のようにまとめている。

「キリスト教徒は、約束の地はイスラエル人のものであるのと同じくらい、自分たちのものでもある、と考えている」

この根拠となるのは、聖書の中で神がアブラハムと交わしたとされる2つの契約である。1つ目が「創世記12章1節から3節」にある次の言葉。

主はアブラムに言われた。「あなたは生まれ故郷 父の家を離れて わたしが示す地に行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民にし あなたを祝福し、あなたの名を高める 祝福の源となるように。 あなたを祝福する人をわたしは祝福し あなたを呪う者をわたしは呪う。地上の氏族はすべて あなたによって祝福に入る」

この「わたしが示す地」こそ、今のイスラエル地域であり、その中心がエルサレムとなる。一方米国は、3節の「あなたを祝福する人をわたしは祝福」するという約束ゆえに、アブラハムの子孫であるユダヤ人(イスラエル国家)を支援する者は神から繁栄が与えられることになると信じている。

もう1つの契約は、同じ創世記の17章8節である。

「わたしは、あなたが滞在しているこのカナンのすべての土地を、あなたとその子孫に、永久の所有地として与える。わたしは彼らの神となる」

この約束によると、パレスチナ地方はイスラエルから決して離されることはない。つまりこれが前提となり、米国はイスラエルを支援することが前提となる議論を展開するのである。アムスタッツは著書の中で新約聖書学者のゲイリー・バーグの言葉を次のように引用している。

福音派の大半は、イスラエルを精力的に支持することだけが中東紛争への適切な対応だと本能的に信じている。その姿勢は歴史とはほとんど関係がなく、政治ともあまり関連性がない。教会の会衆席に座っている一般信徒は、イスラエルを助けることが神の意思だと信じて疑わないのである。ユダヤ人は神の民で、神が彼らに約束した土地へ帰るのだ、と。

こうなると、イスラエル問題は単に「支援先(イスラエル)の問題」ではなく、「自分たち(キリスト教徒・米国)の問題」となる。神の前に立つ自分たちの信仰の問題となるのである。だから米国は、イスラエルの動向が気になるし、そして「彼らと共に歩んでいる米国」という立場を守ろうとすることになる。

余談だが、日本の牧師たち、特に戦後の宣教師によって訓育を受けた世代は基本的にこの心情をそのまま受け入れている。そして最近では、彼らの孫世代(20代から30代くらい)に再びこの傾向が強くなっている。そうなると、彼らは「トランプ、よくぞやってくれた」ということになる。

さて、上記のアブラハム契約を土台とし、さらに米国福音派が受け止めている神学的立場が3つある。1つは「置換神学」、もう1つは「契約神学」、そして最後は「ディスペンセーショナリズム」である。詳細はアムスタッツの著作を見てもらうことにして、ここでは紙面の関係上、簡潔に3つをまとめておきたい。

(1)置換神学
イエス・キリストを中心とする福音の知らせが、旧約聖書でイスラエルという特定の民に与えられた契約(旧約聖書で言及されている諸契約)をアップデートした、という考え方。ユダヤ教に対するキリスト教の優位性を主張する際に用いられる。当然ユダヤ教徒はこれを受け止めていない。しかし、ユダヤ人と米国人との親和性を高める効果はあった。

(2)契約神学
ユダヤ人は神によって選ばれた民であり、キリスト教会に与えられた新しい契約と並立するという考え方。聖書(旧約・新約)は、あらゆる立場の人間への神からの啓示と受け止める。するとイスラエル支援は、信仰の同胞を助ける働きということになる。

(3)ディスペンセーショナリズム
1862年から数回、ジョン・ダービーが英国から米国へやって来て伝えた歴史観。聖書に書かれている年代を字義通り計算すると、千年ごとに大きな区切りがあることを見いだし、それによって世の終わりが近づいてきていることを知らせている。根底に第一テサロニケ4章、黙示録16章の出来事があり、そのための「しるし」がイスラエルに起こるとする考え方。

特に(3)は、1948年のイスラエル建国と1967年の第三次中東戦争によってエルサレムが奪還されたことで勢いづいた。「聖書の預言が成就しつつある」というわけだ。

米国によるイスラエル支援。その主要因が果たして宗教性を帯びたものであるかどうか、これは議論の余地がある。福音派内で上記(1)から(3)を理由にイスラエル支援を訴える者は、全体の10パーセント未満であるとアムスタッツ氏は語る。しかし立山氏によると、クリスチャン・シオニストとその団体が3億ドルを上回る活動資金を有しているという。

またピュー・リサーチ・センター2013年の調査によると、「神がイスラエル地域をユダヤ人に与えたと思うか」とのアンケートに対し、「与えた」と回答した率が興味深い。

米国民全体では44パーセントが「与えた」と答えている。米国在住のユダヤ人全体は40パーセントである。ちなみにキリスト教徒全体では55パーセント、さらにその中でも白人福音派は驚くべきことに82パーセントが「与えた」と考えている。これらの結果から分かることは、イスラエルと最も近い距離にあるはずの在米ユダヤ人よりも、(彼らから見ると)異邦人である米国人の方が宗教的枠組みでイスラエル支援を捉えているということである。

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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