教皇回勅『ラウダート・シ』の意義と足尾・水俣・福島 キリスト教から環境倫理をどう考えるか? 同志社でシンポ(2)

2015年7月15日10時31分 記者 : 土門稔 印刷
+キリスト教から環境倫理をどう考えるか? 同志社大でシンポジウム(2)
講演する和田喜彦氏(同志社大学経済学部教授)=11日、同大今出川キャンパス(京都市)で

続いて和田喜彦氏(同志社大学経済学部教授)が、環境経済学の立場から「環境問題と良心─足尾鉱毒事件、水俣病、福島原発の教訓」と題して講演した。

田中正造の生涯

足尾鉱毒事件のため帝国議会議員を辞し、生涯を被害者の救済運動にささげた田中正造は、キリスト教に改宗はしなかったものの、聖書の教えの影響を強く受け、住民救済運動のエネルギーを得ていたという。臨終の際に枕元に残った財産は、小石3個、新約聖書、鼻紙、日記3冊、帝国憲法とマタイ伝の合本だけだったとされている。しかし同時に当時のキリスト教徒たちが自己の救済のみを求めて、社会運動にあまり協力しないという批判も残していたという。

田中は、日本が誇る非暴力エコロジー運動の先駆者として世界的に有名で、「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さず」と述べた言葉は、キリストの隣人愛の実践者として、海外では伝記も出版されるなど広く知られ、評価されているという。またその思想は多くの弟子たちに引き継がれ、住友財閥の別子銅山(愛知県)公害対策制定など、その後の公害運動の背後には必ず被害者の住民運動があり、和田氏は、その先駆者は田中であったと述べ評価した。

水俣病から福島原発事故へ

戦後、熊本県で起きた水俣病事件では、1956年に5歳の少女が歩行障害で入院し、熊本大学医学部が原因として日本窒素の工場から排出された有機水銀(メチル水銀)が原因だと指摘したが、政府・財界・一部の学者が原因物質をもみ消すキャンペーンを行い、政府は12年後にようやく原因物質が有機水銀であると認めた。しかし裁判は今も続き、水俣病の認定申請者約1万8000人に対し、認定者はわずか2273人(2012年現在)とされ、全体では20万人の被害者がいるといわながらも、いまだに政府による包括調査は一度も実施されていないという。和田氏は、これは「国家による『未必の故意』である」とし、福島原発事故でも同じことが繰り返されているのではないかと述べた。

そして、和田氏は、繰り返される公害事件には6つの共通パターンがあると指摘した。

  1. 被害発生はまず、植物や魚、小動物などに前兆的な影響が出、その後人間にも健康被害が発生する。
  2. 原因物質が特定されかけるとそれを否定したり、原因は別にあると主張したりする者が現れ、原因が曖昧になる。また被害の発生そのものを否定する言説が流布される。
  3. 健康被害が認定されても過小評価される(チェルノブイリ、水俣病、イタイイタイ病)。
  4. コスト・ベネフィット論が動員され、被害額を大きく上回る経済的利益が生じるので多少の被害には目をつぶるという結論になる(経済至上主義)。
  5. 被害は一様に広がるのではなく、社会的弱者、マイノリティー、途上国、子どもに押し付けられる。
  6. 加害企業や責任者、研究者が十分責任を取らないままうやむやとなる。

和田氏は、これらは足尾鉱毒事件や水俣病事件、そして福島原発事故後の東京電力、ゼネラル・エレクトリック社(GE)、学者、政治家、官僚の対応に共通するものだと指摘。科学技術開発に付随する環境汚染・人権侵害を防止するために、新しい科学技術の長期的社会環境影響評価の実施と監視、官僚・政治家・学者・企業人の憲法遵守の誓約と、守れなかった場合に責任を問える体制をつくることの必要性を語った。また、日本国憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という規定を尊重した、「良心教育」の全国、世界への発信が必要だと述べた。そして、教皇フランシスコが『ラウダート・シ』を発して普遍的なメッセージを発信したように、日本の事例から世界に普遍的なメッセージを投げ掛けることができるのか、と問いを投げ掛けた。

小原氏、和田氏の講演ののち、パネルディスカッションと会場からの質疑が行われた
2人の講演の後、パネルディスカッションと質疑が行われた。左から、小原克博氏(神学部教授)、和田喜彦氏(経済学部教授)、和田元氏(理工学部教授)。

その後、原子力技術の専門化である和田元氏(同大理工学部教授)も交えての質疑が行われた。会場からの「環境問題が起きたとき、国家や大企業に対して、市民はどう対抗していくことが可能か?」という問いに対し、小原氏は自身の実際の経験から、「地域の力が落ちていると、行政は古くからの住民と新しい住民を分断させ、対立させようとする。普段からの隣人関係があるかどうかが重要。新旧の分断を越えて課題を共有し、力を結集する。環境問題においても普段からの地域の力が重要だ」と答えるなど、熱心な議論が交わされた。

最後に小原氏は、なぜこの日、「良心」をテーマにしたかについて次のように語った。

「日本ではこれまで、社会問題が起きたとき、学際的に研究者が垣根を越えて、共に議論し考えるということがあまりなかった。しかし“良心”という言葉を使う中で、ばらばらに見ていたものを付ける接着剤のように隣接概念を使うことで、神学、経済学、理工学の研究者が同じ問題を共に考え議論することができる。このような動きを続けていく中で、大学の研究者から社会への問題提起を続けていきたい」

キリスト教から環境倫理をどう考えるか?:(1)(2)

■ シンポジウム「環境問題と良心─未来世代のために今考えなければならないこと」の動画

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<出典> 日本:厚労省、世界:WHOJohn Hopkins CSSE

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