シンポジウム「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」 TCU共立基督教研究所と明学キリスト教研究所が共催(1)

2015年3月26日17時03分 記者 : 行本尚史 印刷
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第1部のトマス・ヘイスティングス博士による基調講演を聴く会場の様子=14日、明治学院大学白金校舎(東京都港区)で

東京基督教大学(TCU)共立基督教研究所と明治学院大学キリスト教研究所は14日、明治学院大学白金校舎で、シンポジウム「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」を開催した。研究者や生協・教会関係者ら約100人が参加し、日本国際基督教大学財団主任研究員のトマス・ヘイスティングス博士が基調講演を行ったほか、3人のパネラーがそれぞれの視点から発題を行った。

このシンポジウムは、東京基督教大学が米ジョン・テンプルトン財団の助成を受けて3年かけて行う研究プロジェクトの一環として行われた。このプロジェクトは、東日本大震災後の日本の宗教的ミニストリーの理論と実践を柱としたもので、通算で3回のシンポジウムを行う。第1回目となった今回は、賀川豊彦(1888〜1960)とその妻ハル(1888〜1982)を取り上げた。

賀川思想の21世紀的継承を

コーディネーターを務めた東京基督教大学共立基督教研究所所長の稲垣久和教授は、第1部の初めにあいさつをし、シンポジウムの開催趣旨について、「献身100周年の2009年にさまざまな賀川関係のイベントが行われた。その中で、21世紀に向けての新たな賀川解釈が出てきた。それを踏まえつつ、今日、新たな一歩を踏み出したいというビジョンを掲げている」と説明した。

そして、「どういう形で賀川先生の働きを継承していくか。それは戦後の市民思想と市民社会運動との関連で位置づける。具体的には、市民的公共性を形成していく、いわゆる『新しい公共』の中で、賀川思想の根幹にある『友愛と連帯』、そして『平和な市民社会』の21世紀的、特に日本を舞台にした思想形成をやっていきたいと思う」と述べた。

また稲垣氏は、「『新しい公共』の先駆的な市民活動家が賀川豊彦・ハルであった」と結論を先取りして述べ、「『新しい公共』を本格的に担う担い手を育てる、われわれ自身がまずそのような形で意識化していく、これを賀川思想から私たちは学びたいと思う」と述べた。

シンポジウム「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」 TCU共立基督教研究所と明学キリスト教研究所が共催(1)
コーディネーターを務めた東京基督教大学共立基督教研究所所長の稲垣久和教授

さらに稲垣氏は、格差社会の原因は資本主義の内的矛盾であり、資本主義は格差社会を生み出してしまうと述べた。そして、これを何をもって変えていくかが、今日、賀川思想が問い掛けている大事な問題であると述べた。

その上で稲垣氏は、「賀川は協同組合運動の強力な推進者であった。資本主義の競争社会に対抗する新しい連帯経済の必要を説いていた賀川思想は再吟味される必要がある」と語った。また、「私は賀川思想の発展として、創発民主主義という名称で、労働組合や協同組合、今日のNPO活動などのさまざまな中間集団がコミュニティーの自治活動と連携するタイプの参加型民主主義を主張してきました」と述べた。

最後に稲垣氏は、「これは市民社会形成の突破口になる。全てを国家(公)に依存するということではなくて、公共、つまり市民社会の力、自治の力、自治と協同によってそれを作っていく時代に入っているのではないか。これは賀川思想を21世紀的に継承するということの原点になる」と結んだ。

3つの次元で全てのものを全体的に見た賀川

第1部では、元東京神学大学教授(実践神学)で賀川豊彦記念松沢資料館の研究員でもあるヘイスティングス博士が、「あらゆるものを全体から見る姿勢—『科学的神秘論者』と『芸術家』である賀川豊彦」と題して基調講演を行った。

ヘイスティングス博士は、「一言で言うと、近代自然科学に関する極めて珍しい瞑想作である著書『宇宙の目的』を作り出した賀川という人は、キリスト教の『贖罪愛の論理』を軸とする人格主義的経験観、『生命芸術への驚異』を軸とする生命主義的宇宙観、『連帯責任の意識と実践』を軸とする倫理観という3つの次元を絶えず包括して、あらゆるものを全体から見る姿勢を満たし、トラウマに満ちた生涯を、大衆伝道と社会改造にささげた世界の偉大なる芸術家・科学的神秘論者でありました」と語った。

ヘイスティングス博士は、「確かに体系的であるよりも断片的な形であった」としつつも、「大正期に入って、賀川の三角的福音理解が明確になってきたのです」と言い、「この全体論的なアプローチによって、賀川は近代精神における意識と精神の分裂を乗り越えようとしました。キリストの贖罪愛とそれに伴う連帯責任意識は賀川の思想の軸でありますが、しかも彼の贖罪の理解は、個人の救いだけに重点を置くものではなく、宇宙的なものであります」と語った。

ヘイスティングス博士はまた、賀川が米国のメソジスト哲学者・神学者であったボーデン・パーカー・バウンについて言及している晩年の自伝『わが村を去る』を紹介。賀川は、17歳でバウンの人格主義の影響を受けることになるが、バウンの弟子であるエドガー・シェフィール・ブライトマンの第一弟子が、マーティン・ルーサー・キング牧師であった。ヘイスティングス博士は、キング牧師自身が人格主義的立場にあることを述べていたと言い、「20世紀においてキリスト教世界が生み出した人たちの中で、キング牧師と賀川豊彦は人格主義において接点があるということは、日本ではもう少し勉強する必要があると思います」と語った。

シンポジウム「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」 TCU共立基督教研究所と明学キリスト教研究所が共催(1)
第1部で『宇宙の目的』の英訳書を手に基調講演を行うトマス・ヘイスティングス博士

そしてヘイスティングス博士は、「賀川の人格主義的経験観、生命主義的宇宙観、日本の土着型のキリスト教倫理観を総合する三角福音理解は、確かに日本のキリスト教史における極めて珍しい独自なものでありますが、しかし20世紀の日本の社会のさまざまな領域において大きな貢献を残したキリスト教の大衆伝道者と社会改造者、科学的神秘論者と芸術家であった賀川という人を、『忘れることができないし、忘れてはいけない』と思います」と述べ、その最後の引用部分が故隅谷三喜男・東大名誉教授の言葉からの引用であると付け加えた。

ヘイスティングス博士は最後に、「全意識的に発達して、全人類が、世界平和に協力し、戦争に使用するエネルギーを世界共同体の組織運動に回し、余剰勢力を発明発見に回すことができるならば、人類の幸福これにすぐるものはないと私は思う」という賀川の言葉を、その著書『宇宙の目的』から引用して講演を結んだ。(続く

■ シンポジウム「21世紀に甦る賀川豊彦・ハル」:(1)(2)

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