国連で世界人権宣言が採択されてから75周年を迎えた10日、日本カトリック正義と平和協議会は、全てのいのちと人権を守るためとして、死刑廃止を求める声明を発表した。声明は、死刑執行の明確な停止を求めるとともに、死刑廃止国際条約の批准に向けた具体的な取り組みを直ちに開始するよう要請している。
声明は、現代のカトリック教会の死刑に対する姿勢について、「国家による最大の人権侵害である戦争と並んで死刑も、人格の不可侵性と尊厳への攻撃にほかならず、自由、正義、平和を破壊する要因として許容できない刑罰であると教えています」と説明。「世界中から死刑を廃止するために働くことは、カトリック教会の使命なのです」としている。
また、冤罪被害者の救済措置である再審が認められ、現在その公判が開かれている確定死刑囚の袴田巌(はかまだ・いわお)さん(87)にも言及。元プロボクサーの袴田さんは、1966年に起きた一家4人が犠牲となった強盗殺人事件で死刑を言い渡されたが、一貫して無罪を主張。2014年に初めて再審が認められて釈放されるまで、48年にわたり収監され続けた。
声明は、収監中に洗礼を受け、カトリック信徒となった袴田さんについて「私たちの兄弟」と呼称。袴田さんの人生は、「死刑はその執行方法のみならず、存在自体が残虐性と非人道性を有した刑罰だという現実を突き付けてきます」とし、「この世に死刑のある限り、人権が守られることは決してありません」と訴えている。
声明は、同協議会のウェイン・バーント会長(那覇教区司教)、エドガル・ガクタン担当司教(仙台教区司教)らの連名で、岸田文雄首相、小泉龍司法相、上川陽子外相の3人に宛てて出された。
世界人権宣言は、1948年12月10日の第3回国連総会で採択された基本的人権の尊重の原則を定めた宣言。多くの犠牲者を出した二度の世界大戦を経て、人権の保障が世界平和の基礎であるという考えに基づき、人権の保障をうたった最初の国際的な宣言として採択された。
採択日の12月10日は「世界人権デー」とされ、毎年記念されている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、75回目の世界人権デーに寄せたメッセージで、現在の世界は「道に迷いつつあります。紛争が激化し、貧困と飢餓が増大し、不平等が深刻化しています」と指摘。世界人権宣言は、「緊張の解消や、世界が切望する安全と安定の創出に資する、共通の価値観とアプローチに対する道筋を示しています」と述べ、その重要性を語った。