「性の聖書的理解ネットワーク」(NBUS)は1日、国会で審議が行われている「LGBT理解増進法案」について、5月に広島で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)までに成立を目指す動きが報じられる中、今国会での成立は「時期尚早」だとする声明を岸田文雄首相に送付したと発表した。
声明は、米国や欧州各国の事例を紹介。G7の中で、日本だけがLGBTQなどの性的少数者の権利保護に関する法律がないとされていることについては、米国などの状況を踏まえた上で、このような単純な図式は当てはまらないと主張している。また、トランスジェンダーを巡る問題と各国の動向を取り上げ、同法案を考えるための視点とするよう求めている。
米国では、「平等法案」と呼ばれる性的少数者の権利保護に関する法案が、2019年と21年に連邦議会に提出されたが、いずれも下院では可決されたものの、上院では否決され、現在も成立の見通しは立っていない。声明は、米国の幾つかの州では性的少数者の権利保護に関する法律が成立しているものの、このように連邦レベルでは不成立に終わっている状況を説明。逆にここ1、2年は、性的少数者の権利保護を訴える活動家が主張する教育や医療を規制する法案が各州で多数提出されている状況を紹介している。
英国では、「性同一性障害」とも訳される「性別違和(gender dysphoria)」の治療を行う同国唯一の専門医療施設「タビストック・クリニック」が昨年、治療の問題性を指摘され閉鎖が決まったという。また、性的少数者に対する理解が進んでいるとされる北欧でも、性別違和に対する治療方針の見直しが始まっており、本人の性自認を無批判に受け入れて性転換治療を行うのではなく、まずは他の方法を探るべきだとするガイドラインが定められているという。
声明は、こうした動きの背景として、性転換治療を受けたトランスジェンダーが元の性別に戻る「ディトランジション(detransition)」の問題があると説明する。英国では、性転換治療を受けた患者の10パーセントがディトランジションするという報告もあり、「ディトランジションは、トランスジェンダー問題を考える上で欠かせない視点」だとしている。
性転換治療を受けたことを後悔している人々を支援する団体が設立されたり、性転換治療を受けた子どもたちが、その後に後悔して病院や医師を訴えたりする事例も紹介。トランスジェンダーに対する理解を深めるには、ディトランジションに至った人々の体験談にも耳を傾ける必要があると訴えている。
その上で、同法案を性急に成立させることは、「欧米で起こっているさまざまな社会問題を日本でも繰り返すことになりかねません」と警鐘。また、性的少数者に関する議論は、各国の状況と合わせ、「数千年の歴史にわたって人類を導いてきた聖書の視点が必要」だとし、新約聖書のマタイによる福音書19章4~5節を引用して、聖書は「神は人を男と女に造られたと語っています」「結婚は男女間のものであると定めています」などと伝えている。
NBUSは、性的少数者に対する社会的関心が高まる中、聖書に反する価値観や信念が急速に広まっているとして、昨年7月に設立された。設立に併せて公開されたウェブサイトには、米国の福音派指導者たちが性に関する聖書の教えをまとめ、2017年に発表した「ナッシュビル宣言」の日本語訳や、推薦する図書、ウェブサイトなどを掲載している。