Skip to main content
2025年6月15日20時35分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(5)祖父の遺言

2022年4月20日16時00分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
  • ツイート
印刷
労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

こうしてイースターの礼拝も終わり、集まった人々が互いにあいさつを交わし、しばし懇談の時を持った後帰っていってから、ユリウス・ルップはシュミット家の者たちを送っていくために会堂を出た。パウパア広場を横切ろうとしたとき、その目に映ったのは拳銃を手にし、広場を取り囲んでいる政府の警官の姿だった。近くで見ている者に聞いてみると、社会主義の過激派分子がこの近くに潜伏しているのだという。

「このところ政府は左翼の人間の行動に敏感になっていますからね。おじいさん、気を付けてくださいよ」。コンラードは祖父に忠告した。ユリウス・ルップは笑うと、彼の肩を叩いた。

事件はその後起きた。向こうから15、6歳くらいの少年が駆けてくると、いきなりユリウス・ルップに抱きついた。その後ろから2、3人の警官が追ってきた。

「助けておくれよ。おれ、手紙を届けにきただけだからさ」。少年はべそをかいて言った。体が小刻みに震えていた。ユリウス・ルップは少年を後ろにかばいながら、できるだけ穏やかに警官に尋ねた。「この子がどんな悪さをしたんですかな?」

「われわれは今、社会主義者たちの集会を取り締まっているんですがね」。一人が言った。「ベルリンで活動している社会主義者リープクネヒトの配下の者がこのケーニヒスベルクに潜伏しているという報告があったので見張っているところです」。「やつらはどうやら、秘密文書のやりとりをしているようなんですな」と、別の者も言った。

「この少年を問い詰めたところ、手紙を持っていることが分かったので逮捕しようとした途端、こいつは警官の一人に石を投げつけてけがを負わせ、そのまま逃げたんですよ」

「助けてくれよう。おれ、本当に手紙を預かっただけだからよう」。少年は泣き出し、ユリウス・ルップの腰にますます強くしがみついてきた。彼は警官に少年を許してやってほしいと懇願した。――とその時、恐慌をきたした少年は隙を見て駆け出した。

「待て! 止まらないと撃つぞ!」一人の警官が銃をかまえて叫び、続いて発砲した。それより早く、ユリウス・ルップは両手を広げて行く手を遮った。銃弾は彼の心臓に命中し、血が流れ出して見る見る道路を染めていった。

「おじいさん!」そばにいたケーテは夢中で駆け寄り、抱き起こした。「おじいさん、しっかりして!」彼の分厚い眼鏡は飛んでしまって、チョッキの胸からは血が滝のように吹き出していた。シュミットは急いで救急車を呼ぼうとしたが、もはや手遅れであることが分かった。

そのとき、ユリウス・ルップはケーテを見つめ、土色になった唇を動かした。彼女は屈み込むと、その耳を彼の口に付けた。

「・・・ケーテ、私の愛する子。才能は義務だといつか・・・言ったな。どうかおまえの才能を・・・惨めな労働者を救うために・・・使うんだよ。・・・私の最後の・・・頼みだ」。「分かったわ、おじいさん、そうします」

ケーテは祖父のぶこつな手をしっかりと握りしめて答えた。ユリウス・ルップは、そのままこと切れた。彼の葬儀は「自由宗教派」の教会員の手により、しめやかに行われた。

ユリウス・ルップの死は、シュミット家の家族の運命を大きく変えることになった。カール・シュミットはユリウス・ルップの志を継ぐために左官屋を廃業し、「自由宗教派」の牧師になった。そして一家はそろってケーニヒス街からプリンツェン街に引っ越し、そこに教会を作った。コンラードはベルリンに帰ったが、大学を卒業すると、祖父の死を無駄にしないために「社会民主党」の中央機関紙「フォアヴェルツ紙」の編集部で働くことになった。これは「社会民主党」の議員カール・ループクネヒトの口利きだった。

そんなある日、母のケーテ・ループが健康を害し、医者の勧めで温泉に行くことになったので、ケーテと妹リースベストが付き添っていった。彼女たちは帰りにエルクナー駅で降り、姉ユリイが嫁いだホーフェリヒター家を訪問した。ユリイは祖父の非業の死を心から悲しんでいた。

一同がユリウス・ルップをしのんで思い出話をしていると、隣に住むゲルハルト・ハウプトマンという作家修業中の青年が遊びに来た。このときは気付かなかったが、このハウプトマンとの出会いこそが将来ケーテに大きな影響を及ぼすのである。

*

<あとがき>

ユリウス・ルップは、素晴らしい説教、優れた聖書註解、そして何よりもその温かな人格故に多くの人々から慕われていました。しかし、悲劇は突然やってきました。彼は日頃モットーにしていた通り、最も小さな兄弟の一人を助けるために、犠牲の死を遂げたのでした。

彼は誰よりも愛していた孫のケーテに遺言を残します。「才能は神から託された義務だということを忘れるな」と。この言葉を胸に、彼女は画家としての険しい道を歩む決意をするのです。

ユリウス・ルップの死は、家族それぞれが歩む道をも変えてしまいました。父カール・シュミットは義父の後を継いで牧師となり、兄コンラードは最下層の人々と寄り添うために社会主義者が作る新聞社の記者となりました。そして彼の友人である劇作家ゲルハルト・ハウプトマンとの出会いは、ケーテの版画家としての道を開くきっかけとなったのでした。

実に、一粒の種は死んで豊かな実を結ぶことになったのです。

<<前回へ     次回へ>>

◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
  • ツイート

関連記事

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(4)この最後の者にも―ユリウス・ルップの説教

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(3)最も小さな兄弟の一人にしたこと

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(2)虐げられる職人たち

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの

  • アフリカ奥地に神の愛を―リビングストンの生涯(最終回)先生はお祈りしているのだよ

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(5)時の賛歌 臼田宣弘

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 日本人に寄り添う福音宣教の扉(224)音楽が支える聖霊による祈り 広田信也

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • ワールドミッションレポート(6月12日):ベルギーのために祈ろう

  • ワールドミッションレポート(6月14日):スイス 信仰で買ったトラクター、ローレン・カニングハムとYWAMに託された農場の奇跡

  • ワールドミッションレポート(6月15日):ベラルーシのために祈ろう

  • 花嫁(27)絶えず喜んでいなさい 星野ひかり

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • フランクリン・グラハム氏、ゼレンスキー大統領と面会 和平求め祈り

  • 淀橋教会、峯野龍弘主管牧師が引退し元老牧師に 新主管牧師は金聖燮副牧師

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

編集部のおすすめ

  • 四国の全教会の活性化と福音宣教の前進のために 「愛と希望の祭典・四国」プレ大会開催

  • イースターは「揺るぎない希望」 第62回首都圏イースターのつどい

  • 2026年に東京のスタジアムで伝道集会開催へ 「過去に見たことのないリバイバルを」

  • 「山田火砂子監督、さようなら」 教会でお別れの会、親交あった俳優らが思い出語る

  • 日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.