神学書を読む(60)黒人音楽とキリスト教の切っても切れない関係 『リズム&ブルースの死』『アレサ・フランクリン リスペクト』

2020年4月16日14時17分 執筆者 : 青木保憲 印刷

ゴスペルの歴史をひもとくならば、当たり前だが宗教性豊かな米国におけるキリスト教の多様性に行き着く。同時に、アフリカ系米国人(以下、黒人と記す)がいかに苦難の歴史を通ってきたか、という事実に直面せざるを得ない。さらに黒人たちの歩みをつぶさに調べるなら、実は19世紀以降の世界の音楽シーンを牽引してきたのが、ブラック・ミュージックであることに行き着くだろう。

今回取り上げるネルソン・ジョージ著『リズム&ブルースの死』と、デイヴィッド・リッツ著『アレサ・フランクリン リスペクト』は、黒人文化が米国はじめ、世界で大衆化していく時代をフォーカスしている。そしてその中心に常に教会があり、キリスト教があったということをはっきりと描いている。それは、この「神学書を読む」シリーズでこれまでに取り上げたジェームズ・M・バーダマン、里中哲彦著『はじめてのアメリカ音楽史』や、山下壮起著『ヒップホップ・レザレクション ラップ・ミュージックとキリスト教』でも触れられていたことである。しかし今回の2冊は、特に黒人たちの霊的ホームであるキリスト教会と彼らの文化とのシンクロニシティー(共時性)をストレートに描き出している。

このシリーズの融通無碍(むげ)さを端的に表すことになるだろうが、今回はキリスト教とブラック・ミュージックの関係について考えさせられる2冊を紹介したい。

■ ネルソン・ジョージ著『リズム&ブルースの死

神学書を読む(60)黒人音楽とキリスト教の切っても切れない関係 『リズム&ブルースの死』『アレサ・フランクリン リスペクト』
ネルソン・ジョージ著、林田ひめじ訳『リズム&ブルースの死』(早川書房、1990年)

本書で衝撃的なのは、著者のネルソン・ジョージがイントロダクションで語る次の言葉だろう。

リズム&ブルースという言葉は1940年代に生まれた。ゴスペル、ビッグバンド・スウィング、ブルースなど、ブラック・ミュージックのいくつかのジャンルが合体し、新しいテクノロジー、とくにエレクトリック・ベースの一般化を土台として誕生した。前へ前へと突き進むような活気にあふれた新しい種類のポピュラー・ミュージックを指す言葉として登場した。10年後、それは黒人起源であることを隠すためにロックンロールと呼ばれるようになり、やがてソウル、ファンク、ディスコ、ラップなどの派生的なスタイルがR&Bをルーツとして生まれた。(29ページ)

ここに挙げられた音楽ジャンルを「全く聴いたことがない」という現代人がいるだろうか。恐らく皆無といっていいだろう。そう考えると、20世紀半ばから現在に至るさまざまな音楽ジャンルは、その多くが黒人文化を背景にし、彼らの歴史と連動して新たな音楽が生み出されてきたことが分かる。

同じページには、次のようにある。

しかし"リズム&ブルース世界"という場合には、それは音楽よりも幅広い何かを指している。R&Bだけでなくすべてのブラック・ミュージックはつねに、共通の政治的、経済的、地理的条件から生まれたブラック・コミュニティーにとって不可欠の構成要素(そして私にいわせれば力強いシンボル)であった。

そういった意味で、本書は米国民でありながら虐げの歴史を歩まなければならなかった黒人たちの葛藤と努力、そして(善悪の区別ではない)感情の発露が、音楽という視点で描き出されている秀作である。

そして彼らが常に自らの「ホーム」として受け止めていたのが教会であったことは、特筆に値するだろう。その在り方を示す好例が、次に取り上げるアレサ・フランクリン(1942~2018)の評伝である。

■ デイヴィッド・リッツ著『アレサ・フランクリン リスペクト

神学書を読む(60)黒人音楽とキリスト教の切っても切れない関係 『リズム&ブルースの死』『アレサ・フランクリン リスペクト』
デイヴィッド・リッツ著、新井崇嗣(たかつぐ)訳『アレサ・フランクリン リスペクト』(シンコーミュージック・エンタテイメント、2016年)

本書は、音楽評論家にしてアレサの友人であったデイヴィッド・リッツの著作である。邦訳書である本書は500ページを超え、巻末に掲載されているディスコグラフィーは、恐らく「アレサ・フランクリン・コンプリート」といってもいいものだろう。「アレサ」と言えば、恐らく全米で知らぬ者はいない。日本においても熱烈なファンは多く存在する。「ソウル・クイーン」の異名を持つ彼女は、ジェームズ・ブラウンらと共に1960年代半ばから70年代にかけて一世を風靡(ふうび)した「ソウル・ミュージック」の大御所として知られている。

だが意外なことに、彼女がゴスペルでデビューしたことや、公民権運動をマーティン・ルーサー・キング牧師と共に推進したC・L・フランクリン牧師の娘であることなど、知る人は多くないという。本書は、彼女がいかに教会やゴスペルを大切にし、ショービジネスの中で生きる不安定さの支えとしてきたかについて、つぶさに知ることができる。彼女が教会で収録した「史上最も売れたゴスペルアルバムの一つ」と数えられている1972年の名作「アメイジング・グレイス(邦題:至上の愛)」について、リッツはアレサの兄セシルの言葉をこう伝えている。

僕はあれをヒット作以上の存在と考えています。(中略)改めて指針とするべきものを必要としていた。そんな時代に、僕らはアレサの手を借りて再び神へと向かえた、この愛なき世界においてつねに揺らぐことのない、善を促す唯一の力へと。(279~280ページ)

私たちは現在、手元のスマホにどんな曲でも簡単にダウンロードでき、それを試聴することができる。特に日本人の場合、洋楽は歌詞よりもサウンド面がクローズアップされ、「今ここにある形」としての音楽ジャンルの中で評されることが往々にしてある。しかし、その背後に米国の黒人たちの歴史が存在し、さらにその歴史を紡ぎ出す原動力としてキリスト教が存在していることに、多くの日本人は思い至れない。

だからこそ、今回紹介したような書物を手にすることはとても大切なことである。歴史神学の視点からこれを解説するもよし、説教の例話として取り上げるもよし。人々となかなか直接触れ合えず、ネット越しにスクリーンを通して情報をやりとりせざるを得ない今だからこそ、私たちは自分たちが手にしている「作品」のルーツにキリスト教的な背景があることを知るべきではないだろうか。

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会牧師、同志社大学嘱託講師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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