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混血児の母となって―澤田美喜の生涯

混血児の母となって―澤田美喜の生涯(最終回)母の心

2017年8月22日06時34分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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関連タグ:澤田美喜

ホームは次第に大きくなり、グルー大使の寄付で建てたベビー・ハウスに続いて、幼児のための住居が3棟、ジョセフィン・ベーカーとアリス・ジョーンズ夫人からの贈り物である男子寮が2つ、丘の上に建てられた。また、カンタベリー大司教からの援助によって、見晴らしのよい丘の上の平地には、中学校と男子、女子の職業学校が建てられた。

そこをのぞくと、女の子は世の中に出ても困らないようにと、洋裁、料理、生け花、美容、編み物といったさまざまな技術を身につけるために、熱心に教師について学んでいた。また、木工作業をやっている男子の教室からは、つちの音が高らかに響いてくるのだった。

ホームの門を入った所には、教会、幼稚園、小学校が並び、ここにあの「ドクター・バナードス・ホーム」に勝るとも劣らない施設として、美喜の生涯かけた理想が完成したのだった。

ある時、美喜がアメリカの養父母の所を訪れると、母となった人がこう言った。「私はこの子を育て、深い愛情を持ちました。片腕を切られても手放せません。その愛情を私に譲ってくれた日本のお母さんに感謝のしるしを届けてください」

そして、小さなリボンのかかった箱を渡した。美喜はそれを大切に持って日本に帰り、早速生みの親に届けることにした。

その母は、ある料理屋で働いていたが、迷惑そうな顔をして、何の用かと尋ねた。「子どもさんのことで――」「もうあの子は手放しました。今じゃ遠くに養女に行って、あたしとは何の関係もありません」

しかし、美喜が育ての親から預かった箱を手渡すと、彼女は震える手で箱にかけられたリボンをほどき、中を開けた。すると、バラの花の造花と一緒に、木彫りの小さな額が出てきた。そこに、ラケットを抱えた健康そうな少女がにっこり笑っている写真がはめ込まれていた。

「これがあの子・・・」。母親はしばらく食い入るようにそれを見つめていたが、やがてぴたりと美喜の前に両手を突くと、額を畳にこすりつけた。それから、溢れる涙とともに、はるかかなたに向かって手を合わせた。

「アメリカのお母さん、ありがとうございます。ありがとうございます」。そうつぶやき、涙に濡れた顔を上げて言うのだった。「私の所に置いておいたら、この子はこんなに幸せになれませんでした」

そして、両手でしっかり額を抱えて子どもに語りかけた。「よかったねぇ、おまえ。アメリカで幸福になって。母さんはうれしいよ」

これが、母の心であった。子を思う母の気持ち――それは、世界中どこでも同じであり、どんな人の中にも母としての思いはあることを、美喜は思うのだった。

同じような例を、彼女は幾つも見た。生後1週間にもなる子どもが門の前に捨てられていたが、その子の懐に「情け深いお方へ。この子をお願いします――生活に疲れた母より」と書かれた紙切れが入っていた。そして、それは涙のにじんだ跡があり、筆跡も乱れていた。

また、駅に置き去りにされた乳児の懐にも、「このかわいそうな子の葬式に使ってくださいまし」と涙のしみだらけの手紙が押し込まれ、千円札が折りたたんで入っていた。どんな母でも、1度おなかを痛めた子を忘れることはできないのである。

初めはあざけりの気持ちで美喜のやることを見ていた人々も、ようやくその仕事の貴さを理解し始めた。また、国内においても人種的偏見というものが少しずつ薄れてゆき、マスコミも好意的に「エリザベス・サンダース・ホーム」のことを報道するようになった。澤田美喜は、1960(昭和35)年、アメリカでエリザベス・ブラックウェル賞を受け、1963(昭和38)年には37年度朝日賞を受賞した。

*

かくして、「エリザベス・サンダース・ホーム」は国内外のすべての人の共感を得、温かな支援のうちに大きく成長していった。ホームで巣立った子どもたちは、たくましく海を渡り、各国に移住して、そこでよき市民として明日の世代を担っていこうとしていた。

1980(昭和55)年5月。美喜はすべての仕事をなし終え、しばしの休息をとるために、マジョリカ島に旅行をした。しかし、過労の積み重なりから旅先で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。彼女の遺体は、あんなにも愛した混血児たちの手により静かに埋葬された。79歳であった。

*

<あとがき>

エリザベス・サンダース・ホームは、国内外の協力者に支えられ、ようやくその根を日本の荒地に下ろすことができました。混血児たちをアマゾンに移住させる傍ら、美喜は里親になってくれたアメリカの養父母の所を訪ねることを忘れませんでした。

そして、血はつながっていなくても、両親と子どもが共に本当に幸せになっている姿を見て心から満足し、神に感謝するのでした。そして、彼女は強い確信を与えられます。それは、いかなる事情があろうと、また生活上の理由から子どもを手放さざるを得ない状況になったとしても、子どもの幸せを願わない母親はいない――ということでした。この「母の心」こそ、世界中の女性に与えられている神からの贈り物なのです。

今回で「澤田美喜の生涯」は終わりになります。多くの方々の励ましとお祈りを心から感謝いたします。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。派遣や請負で働きながら執筆活動を始める。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。動物愛護を主眼とする童話も手がけ、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で、日本動物児童文学奨励賞を受賞する。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。編集協力として、荘明義著『わが人生と味の道』(2015年4月、イーグレープ)がある。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:澤田美喜
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