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混血児の母となって―澤田美喜の生涯

混血児の母となって―澤田美喜の生涯(8)岩崎家の没落

2017年6月17日14時33分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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関連タグ:澤田美喜

戦争は終わったが、敗戦国の日本のそれからの歩みは厳しいものであった。大企業は次々と潰され、特定の企業が利益を得ることのないように一族はバラバラに分けられ、個人の財産は没収されてしまった。しかも、「進駐軍」と呼ばれるアメリカ兵が日本に駐屯するようになり、彼らは次第に身勝手な横暴ぶりを発揮するようになったのである。

岩崎家も悲惨な運命をたどることになった。父の久弥は戦犯としてその財産をすべて没収され、毎日司令部から若い将校たちがやって来ては家中かきまわし、宝石や家具類を車に積み込んで持ち去った。また、トラックに有価証券を積み込み、庭にコカ・コーラの空き缶やキャンディーの包みを散らかしたままで、倉庫から珍しい昔の道具や絵などを引っ張り出し、くじ引きで分け合った。

しかし、久弥は大切な家具が運び出され、持ち去られても平然として眺めていた。「みんな出しておしまい。この人たちは物を持ち去る以外に何1つできないのだ」。彼は、家の者にこう言い聞かせていた。

将校たちは、岩崎家が持っている小岩井の農場から馬を残らず売り払わせてしまった。「ヘイ、ベイビー」。彼らはガムをかみながら、美喜の顔を見てはからかった。そして、彼女が小さな頃から大切にしていた裁縫箱や着物までも、珍しそうに抱えて行った。

彼女が奪い返そうと飛びかかると、その手を久弥は抑えて言った。「この人たちが恥を知る時がやって来る。今は我慢をし」

そして、それから間もなく「折半居住(せっぱんきょじゅう)」という屈辱的な日々が始まった。その頃、進駐軍は焼け残りの西洋家屋を見つけては、強硬手段によって占領し、住み始めた。岩崎家も住居の一部を彼らに提供しなくてはならなかった。

彼らのだらしない生活は、目に余るものがあった。昼も夜も部屋の電気はつけっぱなし。引っ切り無しに石炭をたくので、部屋はむっとしていた。のべつまくなしにジャズをかけ、パーティーをやり、酒を飲んでは男女入り乱れて騒いでいた。

台所をのぞくと、日本では見ることのできない白いパン、バター、キャンディーなどが山のように積まれ、驚いたことには、手のつかないままのパンの残りやコンビーフ、砂糖やチーズなどが残飯の中に捨てられていた。こんな中で、30年以上も久弥に仕えてきた使用人のうちで2、3人が良い給料を出す進駐軍に走り、屋敷を出て行ってしまったのである。

「満足なことをしてやれなくなったのだから、生きていくために別の人に仕えるのをとがめてはならないよ」。涙を流して悔しがる美喜に、久弥はこう言った。

岩崎家の庭の片隅には林があって、昔から不忍(しのばず)の池から飛んで来るおしどりの巣があった。これを久弥は大切にして、自分で行って餌をまいたり、わらを散らしておいたりしていたが、そのおしどりがねぐらに帰る頃を見計らって、将校たちはパンパンとピストルで撃ち落とし始めたのである。

「ああ、また1羽殺された」。久弥は目をつぶって悲しそうにつぶやいた。「生あるものに何とむごいことをするのだ」。将校たちは奇妙な声を上げながら、美喜たちの住む家の小さな台所を振り返り、わざと血まみれの鳥を掲げて見せた。美喜は思わず両手で顔を覆った。

(戦争は、負けた国の人も、勝った国の人も、同じように惨めにします)。その時、彼女の耳にあのガルシア夫人の言葉がよみがえった。

貸した洋館からは、毎日浮かれ騒ぐ声が聞こえていたが、ある時、酒に酔った将校たちに乱暴されようとした若いアメリカ人女性が美喜たちの部屋に飛び込んできた。

「出て行け! ここは売春宿ではない!」。その時、父の久弥は恐ろしい形相で外を指して叫んだ。その威厳に押されたように、彼女は入り口の所に立ちすくんでいた。

「おまえたち日本人は無神論だと聞いている。神を信じていないんだから、こうした行いも黙って見ていられるだろう?」。1人の将校が、たどたどしい日本語で言った。すると、久弥はきっと居住まいを正し、彼を見据えて言った。

「それならば、おまえたちキリスト教国の人間は、こういうことをする権利があるというのか。私はキリスト教徒ではないが、そのくらいのことは分かっている。殺すなかれ、姦淫するなかれ、隣人の家をむさぼるなかれ――この掟のうち、何1つおまえたちは守っていないではないか」

将校たちは、何も言わずに立ち去った。

*

<あとがき>

敗戦後、日本国民はさまざまな苦渋をなめなくてはなりませんでした。その1つとして財閥や大企業の家族は、「折半居住」という法令に従い、その住居の半分を無料で進駐軍兵士に提供しなくてはならなかったのです。

美喜たちの住む家にも、進駐軍の兵士たちがやって来て、部屋を占領し、目を覆うようなだらしのない生活を始め、貴重品を全部持って行ってしまいました。この時、父親の岩崎久弥は実に立派な態度でこの苦難を受け入れたのでした。

兵士たちは久弥をばかにし、日本人はキリスト教徒でないから何をしても罪の意識にとらわれることはないだろうと言います。これに対して、彼はこう言うのです。

「それならば、おまえたちキリスト教国の人間は、こういうことをする権利があるというのか。私はキリスト教徒ではないが、そのくらいのことは分かっている。殺すなかれ、姦淫するなかれ、隣人の家をむさぼるなかれ――この掟のうち、何1つおまえたちは守っていないではないか」

この言葉は、進駐軍兵士の心を打ち、彼らを恥じ入らせるのに十分でした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。派遣や請負で働きながら執筆活動を始める。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。動物愛護を主眼とする童話も手がけ、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で、日本動物児童文学奨励賞を受賞する。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。編集協力として、荘明義著『わが人生と味の道』(2015年4月、イーグレープ)がある。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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