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心を診る

心を診る(1) 宇田川雅彦

2014年11月2日15時11分
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関連タグ:宇田川雅彦

「あ、あの、・・・なんて話しかければいいんですかね?」

入院患者のベッドから5メートル以上も離れた位置に、作業服姿の父親は困惑顔で立ち尽くしていたが、やがてそう尋ねた。「息子さんにこれからどうしてほしいですか?」と問い返すと、父親は一瞬沈黙したが、少し考えてこう答えた。「そ、そりゃあ・・・そりゃあ、もうこんなことはしないでもらいたい!」

「では、そう伝えたらいいですよ」「えっ?言っていいんですか?」「いいですよ、お父さんのその気持ちをしっかり伝えたらいいですよ」

父親は大きく息を吸い込むと、意を決したようにベッドに横たわっている青年に歩みより、胸ぐらをつかまんばかりに、30センチほどの距離まで顔を近づけて「てっ、てめえっ。馬鹿なことしやがって、この大馬鹿野郎! 二度とするんじゃねえぞ、わかったな!」と、真っ赤な顔で、力を込めて言った。精一杯、父親を演じているという不器用さは感じさせたが、覚悟を決めた、大まじめな意気込みだった。するとその途端、ベッド上から横目で父親の顔を見上げていた青年のうつろな目から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ち、蒼白だった頬が紅潮した。

ここは朝の救命救急センターの集中治療室。前夜、大量の睡眠薬を一気に服用して自殺をはかった、20歳台の青年のベッドサイドの光景だ。早朝、急を聞いて地方の実家から駆けつけた60歳台の父親と、自殺未遂をして入院患者となった孤独な青年との面会シーン。すでに青年と私の30分ほどの面接は終わっており、自殺行為に至る経緯を詳細に把握した後だ。

この親子はずいぶん健全な方だ。この父親のように、自殺未遂をした家族に向かって「なんということをしたのだ!」とぶつかっていけるような家族関係を目にする機会は、この仕事を長年していても非常に希だ。この父親はしっかりと自殺未遂の後の青年と向かい合った。このあと青年は立ち上がってふらふらと歩き、家族、医師(筆者)との三者面談をした。その席で、“堰(せき)を切ったように”とまでは言えぬまでも、前日の自殺行為に至るまでの事情と、死を選ぶまでの気持ちの推移を、再度、父親の前で少しずつ言葉にした。

このようなときにしばしば観察できることだが、苦しかった道を語るにつれて、それまで失っていた生気を取り戻していくのが分かる。人が生きていくためには、自身の苦痛を他者に理解されることがいかに必要かを教えられる場面だ。

青年は一通り話すと、家族と私に対して、二度と自殺を図るようなことはしないと約束をした。こうした面接は、家族を交えず、当方と2人だけで行うことも多い。この青年の場合、この父親を同席させた方が効果的だと感じたので、三者で面接した。

「もう危険なことはしない」。本人のこの約束の言葉をもって、救急現場における自殺未遂者への危機介入(クライシス・インターベンション)が一段落する。ほっそりした青年の背中と頑丈な父親の背中が、無言で寄り添いながら退院していく後ろ姿を見送ったのは、昼過ぎだった。青年は都会の一人暮らしを中止し、しばらく故郷へ帰ることになった。

私が年間70~100例の自殺未遂の患者を診療するようになってから、すでに15年が過ぎた。この間、1000人をゆうに超える自殺未遂者を診てきた。私はその仕事の中で、急を聞いて駆けつけた家族、あるいは入院時から付き添う家族が、最初に患者と対面するときの様子に注目してきた。

とくに患者が若年者の場合、大概の親は、すぐに言葉をかけたり感情を表したりしない。患者になかなか近寄らず、戸惑い、表情をこわばらせ、沈黙してうなだれていたりする。本人のベッドに近づけないばかりか、病室に入ることさえもできない家族もいる。中には、本人の顔を見る前に、病室のドアの外で「職場(学校)には伝えたくないのだが・・・」などと相談してくる親もいる。家ではもう見きれない、どこかへ長く入院させてほしいと頼む家族もある。これらの場面は、普段の家族関係の一端をリアルに表しているといえるかもしれない。

もちろん自殺を企てた若者の親や家族を厳しい目で見るつもりもないし、家族に責任があるということでもない。こうした家族の中には、長い間、本人と一緒に苦悩してきた家族もいるし、苦しみ、病み、荒れる本人との関係に苦慮してきた家族もいる。度重なる自殺行為・自傷行為に疲れ果てた家族も珍しくない。家族の態度から、冒頭に書いた父親が示したような熱心さが伝わってこないからと言って、責めることはできない。ただ、自殺未遂をした本人に対し、「生きていてほしい」という真剣な気持ちを家族が伝えられるかどうかには、健康な家族機能が働いているかどうかが深く関わっている。

自ら死を選ぶ人は、孤立と孤独の中で苦悩しながらも、人とつながること、そして「生きていてほしい」という熱いメッセージを、自殺行為のぎりぎり直前まで待っている。不幸にして自殺に成功してしまった人たちも、やはり決行の瞬間まで待っていたに違いない。自殺が未遂に終わった人たちは、そこから立ち上がって再び生きていくために、今こそ、家族との「絆」と、「生きていてほしい」というメッセージとを必要としているのだ。

次回へ>>

◇

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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