世界はわが教区―ジョン・ウェスレーの生涯(3)潔い生活への招き

2020年11月4日18時02分 コラムニスト : 栗栖ひろみ 印刷
+世界はわが教区―ジョン・ウェスレーの生涯(1)猛火から救われて
ジョン・ウェスレー(1703~91)(画像:Frank O. Salisbury)

高等学校を卒業したウェスレーは、オックスフォードのカーディナル・カレッジに入学した。彼は相変わらずよく勉強したが、決して無口で偏屈な勉強家ではなく、友人との会話を楽しみ、極めて自由に大学生活を送っていた。しかし、経済的には苦しく、やっと授業料は払えたものの、日常生活は誰もが驚くほど窮していた。

友人たちは、部屋に閉じこもりがちの彼を気遣ってたまには町に出掛けようと呼び掛けたが、彼は勉強があるから――と苦しい言い訳をして断るのだった。すると、こんな彼の生活状態を察した親友のチャールス・デラモットは、友人たちと共に彼を食事に誘い、寮の食堂では味わえないおいしい料理を振る舞ったのだった。

そんなある日のこと。ウェスレーが昼食にも夕食にも姿を現さないので心配した友人たちが部屋を訪ねると、彼はふとんをかぶって寝ていた。前の日から何も食べていなかったのだった。デラモットが追求したので、仕方なくウェスレーは、食費が底をついたこと、郷里の両親も食うや食わずの生活をしているので、送金を頼めるような状況にないことを打ち明けたのだった。

「そうだったのか。なぜもっと早く話してくれなかったのだ」。富豪の商人の息子であるデラモットは、自分が必要だと言って実家からかなりの金額のお金を送ってもらい、それをそっくりウェスレーに与えたのだった。彼は心から感謝してこの友人の好意を受けたが、後になって少しずつこのお金を返済したといわれる。

そんなある晩のこと。寮の2階のウェスレーの部屋を誰かがコツコツと叩くので開けてみると、大学の門番が立っていた。

「あんた、ウェスレーさん? この手帳が門の所に落ちていましたよ」。そう言って、門番は懐から黒い手帳を取り出して渡してくれた。「ありがとうございました。落として困っていたところです」。ウェスレーが礼を言うと、彼は父親のような口調で言った。「こんな大切なもの、これからは紐でもつけておきなさるといい」。そして立ち去った。

この時から、ウェスレーはこの門番と親しくなり、いろいろと話をするようになった。そのうちに、この男が生まれこそ卑しく、学問も受けていなかったが、素晴らしい信仰を持っていることに気が付いた。彼は、いつの間にか夜になると門番小屋を訪れ、語り合うのが楽しみになった。

「さあさ、こっちへお入んなさい」。門番は、彼がいつ訪れても親切に招き入れ、1つしかない椅子を勧め、自分は床にしゃがんで話をするのだった。その椅子は、片足が取れていた。

「聖書にはな、こう書かれています。『あなたの若い日に、あなたの造り主を覚えよ。悪しき日がきたり、年が寄って、「わたしにはなんの楽しみもない」というようにならない前に、また日の光や月や星の暗くならない前に…そのようにせよ』とね」

門番は諭すように言うのだった。「あなたくらい若い時は、一番いい時です。でも、今しっかり勉強しておかんと、あっという間に時は過ぎてしまいますよ」。ウェスレーは、驚いて門番を見つめた。「わしは学問もなく、お金も一文もない哀れな男ですが、感謝でいっぱいです。このとおり、神様がこの懐にあふれるばかりのお恵みを下さっていますから」

「あなたはよく聖書を読んでいらっしゃるんですねえ。いつ勉強されたんですか?」「わしは字が読めませんし、書くこともできません。ずっと前からこの教会にご奉公して日曜日がくるごとに庭の草取りや掃除をしながら牧師先生がお話をされるのを聞いて、それを覚えたんですよ」。ウェスレーは、また感動した。

「わしはほんのわずかなパンと水がありゃ生きていけますのでお金は頂かないことにしましたよ。その代わり、一生死ぬまでここに置いていただけますんで、はい。皆さん親切にしてくださいますし、わしほどの幸せ者はおりませんです」

ウェスレーは、初めてその時、貧しい小屋の中を見回した。椅子と毛布と、粗末なベッドの他何一つなかった。この人は何も持っていないけれどもこんなにも心が豊かで、あふれるばかりの感謝と喜びを持って生活しているのだった。彼はこの時、はっきりと悟ったのだった。自分は神の前に潔(きよ)い生活をするために召されているのだということを。

<あとがき>

ウェスレーはある人物と出会うまでは、潔い生活をするということがどういうことであるか分かりませんでした。彼はある時、手帳を落としたことから、わざわざこれを宿舎まで届けに来てくれた大学の門番と親しくなります。この門番は学問もなく、お金も一銭も持っておらず、貧しい小屋で生活させてもらう代わりに門番として雑役をしている男でした。

しかし、彼はあふれるばかりの感謝でその顔が輝き、神の恵みを何とかして人に伝えたくてたまらない――といった様子でした。そして彼は、隣人に対して精いっぱいの親切な行為をすることでそれを証ししていたのです。ウェスレーは、この門番から無言の感化を受け、こうした潔い生活を自分もさせてもらいたいと強く願い、やがてその招きに応えるべき一歩を踏み出すのです。潔い生活を信仰の土台とすることこそ、後に彼が設立するメソジスト教団の信条そのものとなったのでした。

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栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。12年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。その他雑誌の連載もあり。

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