京大式・聖書ギリシャ語入門(18)「よい実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる」―受動態(1)―

2020年2月3日23時58分 印刷
+京大式・聖書ギリシャ語入門(18)「よい実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる」―受動態(1)―
エルサレム近郊にある預言者サムエルの墓の近くに立つイチジクの木。ルカによる福音書では、実のならないイチジクの木を切り倒すよう命じる園主のたとえ話を、イエス・キリストが語られている。(写真:Ian Scott)

皆さん、お久しぶりです! 京大式・聖書ギリシャ入門を担当しております宮川創、福田耕佑です。2020年も続けて神様の御言葉を一緒に学ぶ機会が与えられていることに感謝しています。

今回の講座では、聖書ギリシャ語における ω 動詞の受動態を扱いたいと思います。そのために今回の本文として、マタイによる福音書3章10節の後半「よい実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる」を選びました。中には「この講座ではやたら物騒な聖句を見ることが多いぞ。聖書って愛とか平和とかが中心的な主題じゃないのか?」と思われる人もいらっしゃるかもしれません。文法事項の説明のために選んではいますが、聖書にはこのようなおどろおどろしい記述がたくさん出てきます。気になった人はまず、ぜひ日本語で聖書をお読みいただきたく存じます。では、続けて聖書を学んでいきましょう!

今回もまず前回の講座の練習問題と復習を簡単にし、マタイによる福音書3章10節の後半を例題として取り上げ、ω 動詞の受動態について説明していきます。

■ 第17回の練習問題の確認

1)基本的な未来形の作り方を書きなさい。

λύω(1人称・単数・現在)「私は~を解く」の未来形の活用

  単数 複数
1人称 λύσω λύσομεν
2人称 λύσεις λύσετε
3人称 λύσει λύσουσι

となりました。これらの活用形から -σ- を取り除くと、そのまま ω 動詞の現在形の活用になりました。これが最も基本的な形になりますので、もう一度よく確認して覚えていきましょう。

αγαπῶ (-άω)(1人称・単数・現在)「私は~を愛する」の未来形の活用

  単数 複数
1人称 ἀγαπήσω ἀγαπήσομεν
2人称 ἀγαπήσεις ἀγαπήσετε
3人称 ἀγαπ>ήσει ἀγαπήσουσι

φιλῶ (-έω)(1人称・単数・現在)「私は~を愛する」の未来形の活用

  単数 複数
1人称 φιλήσω φιλήσομεν
2人称 φιλήσεις φιλήσετε
3人称 φιλήσει φιλήσουσι

σταυρῶ (-όω)(1人称・単数・現在)「私は~を十字架にかける」の未来形の活用

  単数 複数
1人称 σταυρώσω σταυρώσομεν
2人称 σταυρώσεις σταυρώσετε
3人称 σταυρώσεις σταυρώσουσι

のようになりました。②から④までは、3つの約音動詞の未来形でしたが、それぞれ -σ- の前に置かれる母音が異なり、またこの規則に当てはまらない例外的な動詞も存在します。②と④に関しては現代語の接続法の活用とかなり似ていますので、その点も確認してください!

■ 例題13(マタイによる福音書3章10節の後半)

「よい実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる」(聖書協会共同訳)

「だから、良い実を結ばない木はすべて切り倒されて、火に投げ込まれます」(新改訳2017)

ギリシャ語:πᾶν οὖν δένδρον μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸν ἐκκόπτεται καὶ εἰς πῦρ βάλλεται.

<語釈>

πᾶν [形容詞] すべての~、あらゆる~(πᾶς の中性・単数・主格)
οὖν [接続詞] (文頭ではなく2語目に置かれ)①故に、その結果、②それから、そこで
δένδρον [名詞] -ου)木
μή [小辞] (主観的な否定)~ない(英語の not、ドイツ語の nicht に当たる)
ποιοῦν [動詞] ~をする、作る(ποιῶ (-έω) の分詞、中性・単数・主格)
καρπὸν [名詞] -ου)実、果実(καρπός の単数・対格)
καλὸν [形容詞] ①美しい、②良い、優れた(καλός の男性・単数・対格)
ἐκκόπτεται [動詞] 切り取る、切り倒す(ἐκκόπτω の受動態・3人称・単数・現在)
καὶ [接続詞] ①そして、~と(フランス語の et、英語の and)、②~も(フランス語の aussi、英語の too)
εἰς [前置詞] (対格と共に)~へ、~の中へ
πῦρ [名詞] πυρός)火(πῦρ の単数・対格)
βάλλεται [動詞] 投げる(βάλλω の受動態・2人称・単数・現在)

ω 動詞の受動態

今回は受動態の現在形について学びましょう。英語やフランス語などでは、「繫辞動詞(英:be、仏:être)+過去分詞」というように複数の語を重ねて受動態を作ることが多いです。それに対して、ギリシャ語では受動態の現在形を作るのに、動詞の語尾を変化させて作ります。早速、変化表を見てみましょう。

λύω「私は~を解かれる」の受動態・現在の活用

  単数 複数
1人称 λύομαι -ομαι λυόμεθα -όμεθα
2人称 λύῃ -ῃ λύεσθε -εσθε
3人称 λύεται -εται λύονται -ονται

以上のようになります。現代語の活用とかなり似ていますが、2人称単数は現代語既修者にとっても見慣れない形であり、また1人称単数と3人称単数と見比べてもかなり変わった形になっています。こちらを説明しますと、人称単数も λύ-ε-σαι で λύεσαι となるはずですが(確かに現代語ではこの形になりますね!)、母音と母音に挟まれた -σ- が脱落して、λύ-ε-αι となり、連続した母音が約音として λύ-ῃ となり最終的に λύῃ となりました。

また、1人称複数でもアクセントの移動が起こっていることに注意してください。これは、ギリシャ語のすべての単語で後ろから3つ目までの音節にしかアクセントが置けないことに起因しています。例えば1人称単数の λύομαι ですと、

λυ-ο-μαι

のように音節に分けることができ、本来アクセントのある λύ の音節が後ろから3つ目の音節にあり、そのまま λύομαι で構いません。次に問題になっている λυόμεθα ですが、

λυ-ο-με-θα

のように音節に分けることができます。ご覧の通り全部で4つに分けられます。そして本体ですとアクセントは λύ- のところにありましたが、これは今の音節の数では後ろから4つ目の音節になってしまい、後ろから3つ目までの音節にしかアクセントが置けないというルールに反してしまいます。ですので、アクセントが一つ後ろにある3つ目の音節に移動して

λυ-ό-με-θα → λυόμεθα

になります。活用形の紹介の中での注意点は以上になります。具体的な用例や使用方法は本文の解説の中で触れていきたいと思います!

■ 本文の解説①

ギリシャ語:πᾶν οὖν δένδρον μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸν

πᾶν [形容詞] すべての~、あらゆる~(πᾶς の中性・単数・主格)
οὖν [接続詞] (文頭ではなく2語目に置かれ)①故に、その結果、②それから、そこで
δένδρον [名詞] -ου)木
μή [小辞] (主観的な否定)~ない(英語の not、ドイツ語の nicht に当たる)
ποιοῦν [動詞] ~をする、作る(ποιῶ (-έω) の分詞、中性・単数・主格)
καρπὸν [名詞] -ου)実、果実(καρπός の単数・対格)
καλὸν [形容詞] ①美しい、②良い、優れた(καλός の男性・単数・対格)

まず2単語目の接続詞 οὖν から見ていきます。こちらの接続詞は「だから・・・、その結果・・・」という形で前文と今回の本文をつないでいます。自分で聖書ギリシャ語や古典ギリシャ語の文章を書くことは滅多にないとは思いますが、こちらの接続詞は文頭に置くことができませんので注意してください。ですが日本語に訳す際は文頭に持ってきて訳した方がよいでしょう。

次に文の主部となる塊に移りましょう。まずこの塊の核となる部分は πᾶν δένδρον で「すべての木が」になります。そしてこの「すべての木が」を修飾するのが μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸν になります。次はこの塊を説明していきます。

まず μή ですが、こちらは否定辞で、英語の not、ドイツ語の nicht に当たる単語です。ギリシャ語には οὐ と μή の2種類の否定辞があります。οὐ は多くの場合、客観的な否定で直接法の否定に用います。つまり、大雑把にいえば、事実として述べている直説法の動詞が用いられた文の否定に用いられます。それに対して μή は多くの場合、主観的な否定、または名詞や形容詞的に用いられる語の否定で、接続法や分詞、そして不定詞などの否定に用います。今回の例文では、μή は ποιῶ の分詞形である ποιοῦν にかかっており、そういった理由で οὐ ではなく μή が来ています。そしてこの ποιοῦν ですが、まだ習っていない動詞の分詞形で、「~を作る、~をする(名詞)」という意味で形容詞的に中性・単数・主格形に活用しています。分詞については後々の講座で学んでいきます。

次は「~を作る、~をする(名詞)」を意味する分詞 ποιοῦν の、この「~を」に当たる部分を見ていきます。今講座では詳しく説明できませんが、ποιοῦν はもともと「~をする、~を作る」を表す ποιῶ から作られていますので、「~を」にあたる目的語を一つ取ることができます。そしてその目的語がそれぞれ「実、果実」と「良い、美しい」を表す καρπὸν καλὸν、つまり「良い実を」になっています。それぞれ曲用に関しては第11回を参考にしてください。

ここまでをまとめると、以下のようになるでしょう。

μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸνよい 実を 作ら ない

のように、ちょうど日本語の構造とまったく逆に並んでいます。そしてこの4語の塊は「良い実を作らない~」として形容詞のように働く塊になっています。そしてこの塊がかかる名詞の πᾶν δένδρον とセットで並べてみますと、

πᾶν δένδρον ← [μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸν]:すべての木が ← [良い実を作らない]

となり、全体として中性・単数・主格で形容詞の塊である μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸν が同じく中性・単数・主格の名詞 πᾶν δένδρον にかかる構造になって、「良い実を作らない全ての木が」という意味になっています。2つの塊が性・数・格において一致していることをよく確認してください。

■ 本文の解説②

ギリシャ語ἐκκόπτεται καὶ εἰς πῦρ βάλλεται.

ἐκκόπτεται [動詞] 切り取る、切り倒す(ἐκκόπτω の受動態・3人称・単数・現在)
καὶ [接続詞] ①そして、~と(フランス語の et、英語の and)、②~も(フランス語の aussi、英語の too)
εἰς [前置詞] (対格と共に)~へ、~の中へ
πῦρ [名詞] πυρός)火(πῦρ の単数・対格)
βάλλεται [動詞] 投げる(βάλλω の受動態・2人称・単数・現在)

次に後半部、ἐκκόπτεται καὶ εἰς πῦρ βάλλεται の部分を見ていきましょう。ここは「本文の解説①」で見た主部の部分の述語に当たります。まず一つ目の動詞、ἐκκόπτεται から見ていきましょう。こちらの動詞が今回のテーマとなっている受動態です。まず、この動詞の能動態の形は ἐκκόπτω「切り取る、切り倒す」で  で終わり、かつ  の上にアクセントが来ていない普通の  動詞です。この動詞の受動態・1人称・単数・現在形が ἐκκόπτομαι となり、上記で学んだ表を参考にしていただき、ἐκκόπτεται が3人称・単数・現在に当たることが分かります。そして意味が受動態になることによって「切り取る、切り倒す」から「切り取られる、切り倒される」と受け身の形に変化します。次に「そして」を表すおなじみの接続詞 καὶ が続いています。

次に同じく受動態の動詞を含む塊 εἰς πῦρ βάλλεται が続きます。先に εἰς πῦρ は「火の中に、火へ」を意味する前置詞と対格の名詞の塊です。前置詞 εἰς の基本的な用法に関しての解説は、第4回をご覧ください。そして、ἐκκόπτεται と同じく βάλλεται も ω 動詞 βάλλω「投げる」を意味する動詞の受動態です。βάλλω の受動態・1人称・単数・現在形が βάλλομαι で、3人称単数形で βάλλεται に活用し、受動態になったことで、意味が「投げる」から「投げられる」に変化します。ですので、εἰς πῦρ βάλλεται の塊で「火に投げ込まれる」という意味になっています。そして εἰς πῦρ と βάλλεται の位置を変えて並び替えると、次のようになります。

<ἐκκόπτεται> καὶ <βάλλεται εἰς πῦρ>:「切り倒され、そして火に投げ込まれる」

となります。通常、受動態や受け身形と言いますと、誰によってその行為がなされたのかを表す「~によって」などの表現が受動態の動詞にセットで置かれている場合が多いですが、今回の場合では置かれていません。たいていの場合は「~によって」を表す表現は「ὑπό+属格」で表現されることが多いです。

■ まとめ

最後に例文全体をもう一度見てみましょう。

πᾶν οὖν δένδρον μὴ ποιοῦν καρπὸν καλὸν ἐκκόπτεται καὶ εἰς πῦρ βάλλεται の直訳は、

「だから、良い実を作らないすべての木は切り倒され、そして火に投げ込まれる」

となります。「良い実を作らない」という表現は少し日本語として不自由ですので、「良い実を結ばない」として修正しますと、「だから、良い実を結ばないすべての木は切り倒され、そして火に投げ込まれる」となるでしょう。οὖν の訳し忘れにご注意ください(笑)。

■ 練習問題

1)次の文章を訳しなさい。ただし、文の主語は「良い実を作らないすべての木は」とする。

ἐκκόπτεται καὶ εἰς πῦρ βάλλεται.

今回の講座は以上になります。年末年始からさまざまなニュースがありましたが、2020年も主イエス・キリストの恵みと平和が皆様の上に注がれるよう祈ります。次回も受動態の練習を続けていく予定です。お楽しみに!(続く)

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宮川創

宮川創(みやがわ・そう)

1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。

福田耕佑

福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在、テッサロニキ・アリストテリオ大学訪問研究員。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論 ―『禁欲』を中心に―」(東方キリスト教世界研究〔1〕2017年)、またギリシア語での主な論文に "Ο Καζαντζάκης και ελληνικότητα(カザンザキスとギリシア性)"、"Ο Νίκος Καζαντζάκης απω-ανατολική ματιά(カザンザキス、極東のまなざし)"(2019年)など。

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