京大式・聖書ギリシャ語入門(16)「心を尽くし、魂を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」―未来形(1) 宮川創・福田耕佑

2019年11月4日22時54分 印刷
+ 京大式・聖書ギリシャ語入門(16)「心を尽くし、魂を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」―未来形(1) 宮川創・福田耕佑
パピルス46、チェスター・ビーティー図書館(アイルランド・ダブリン)、コリント信徒への手紙二11章33節~12章9節

皆さん、こんにちは! 続けて京大式・聖書ギリシャ入門を担当させていただいております、宮川創、福田耕佑です。まず、先の台風により罹災された方々にお見舞い申し上げます。主の慰めがありますよう心よりお祈り申し上げます。

今講座では、マタイによる福音書22章37節を扱います。もちろん文法事項を優先して聖句を選んでおりますが、その都度必要な御言葉が与えられているのではないか、とひそかに思っています。

まずは前回の講座の練習問題を簡単に復習し、例題11(マタイによる福音書22章37節)を取り上げ、ω 動詞と約音動詞(άω 型)の未来形について取り上げていきます。

■ 第15回の練習問題の解答

1)次の新約聖書の一節を日本語に訳しなさい。

ἀποδεκατοῦτε τὸ ἡδύοσμον καὶ τὸ ἄνηθον καὶ τὸ κύμινον

意味は、

「あなたたちはミント、イノンド、クミンを十分の一ささげている」

でした。少しずつ復習してまいりましょう。

 <語釈>

ἀποδεκατοῦτε [動詞] ~を十分の一ささげる(ἀποδεκατώ (-όω) の2人称・複数・現在)
τὸ [冠詞] 中性・単数・主格、対格と(第11回をご覧ください)
ἡδύοσμον [名詞] はっか、ミント(ἡδύοσμον の単数・対格)
ἄνηθον [名詞] イノンド、ディル(ἄνηθον の単数・対格)
κύμινον [名詞]  クミン(κύμινον の単数・対格)


■ 約音動詞(2)について

前回の練習問題に登場した動詞 ἀποδεκατώ は όω 型に属する約音動詞でした。復習のために「約音」について書きますと、これは連続する複数の母音が母音連続を解消するために1つの母音に融合したり、また複合母音を生じたりする現象を指しました。それでは όω 型に属する約音動詞 σταυρῶ (-όω) の活用を下に見ていきましょう。

σταυρῶ (-όω) (1人称・単数・現在)「私は~を十字架にかける」の活用

  単数 複数
1人称 σταυρ -ό+ω σταυροῦμεν -ό+ομεν
2人称 σταυροῖς -ό+εις σταυροῦτε -ό+ετε
3人称 σταυροῖ -ό+ει σταυροῦσι ό+ουσι

となりました。2人称単数と3人称単数で -οῖ- の形が出現してくるところが注意点でした。他にも約音動詞には άω 型と έω 型があり、約音には全部で3つのパターンがありました。主によく使われるのは άω 型と έω 型ですが、どのような仕組みで動詞が活用しているのかを知っておくと、これから先に過去形や完了形などの複雑な動詞の形が出てくるときに便利ですので、体系的に整理していければと存じます。

ἀποδεκατοῦτε は表によると、2人称複数になり、「あなたたちが~を十分の一ささげる」になりました。そしてここで何をささげるのかという目的語が3つ、τὸ ἡδύοσμον と τὸ ἄνηθον と τὸ κύμινον でそれぞれ「ミント、イノンド、クミン」が来ました。ですので ἀποδεκατοῦτε τὸ ἡδύοσμον καὶ τὸ ἄνηθον καὶ τὸ κύμινον 全体で、「あなたたちはミント、イノンド、クミンを十分の一さげている」となりました。詳しい解説は、前回の講座を参照していただければ幸いです。

2)第3変化名詞 βασιλεύς(ευ 幹)の曲用を書きなさい。

  単数形 複数形 意味
主格 βασιλεύς βασιλεῖς -が
属格 βασιλέως βασιλέων -の
与格 βασιλεῖ βασιλεύσι(ν) -に
対格 Βασιλέα βασιλεῖς -を

第3変化名詞はとても複雑で種類が多いので、出てきたその都度少しずつ紹介します。前回の講座で一般的な第3変化名詞の語も紹介しましたので、そちらも併せてご覧ください。前回の復習は以上になります。

■ 例題11(マタイによる福音書22章37節)

「心を尽くし、魂を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」(聖書協会共同訳)

「あなたは心を尽くし、いのちを尽くし、知性を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい」(新改訳2017)

ギリシャ語:Ἀγαπήσεις κύριον τὸν θεόν σου ἐν ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ ψυχῇ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ διανοίᾳ σου:

<語釈>

ἀγαπήσεις [動詞] ~を愛する(ἀγαπῶ (-άω) の2人称・単数・未来)
κύριον [名詞] 主人、主、先生、閣下(κύριος, -ου の単数・対格)
τὸν [冠詞] 男性・単数・対格と
θεόν [名詞] 神(θεός, -οῦ の単数・対格)
σου [代名詞] あなたの(2人称・単数・属格)
ἐν [前置詞] (与格と共に)~において、~の中で、~によって(第3回をご覧ください)
ὅλῃ [形容詞] すべての(ὅλος,-η,-ον の女性・単数・与格)
τῇ [冠詞] 女性・単数・与格と
καρδίᾳ [名詞] 心(καρδία, -ας の単数・与格)
καὶ [接続詞] そして
ψυχῇ [名詞] 息、魂(ψυχή, -ῆς の単数・与格)
διανοίᾳ [名詞] 理解、思考、(考える能力としての)心(διάνοια, -ας の単数・与格)

■ 未来形(1)

今講座では動詞の未来形について学びましょう。新約聖書にそれほど多くの用例があるわけではありませんが、重要な文法事項の一つです。今回はまず基本となる ω 動詞の未来形を確認し、次に約音動詞(άω 型)の未来形について見ていきましょう。

λύω(1人称・単数・現在)「私は~を解く」の未来形の活用

  単数 複数
1人称 λύσω -σ+ω λύσομεν -σ+ομεν
2人称 λύσεις -σ+εις λύσετε -σ+ετε
3人称 λύσει -σ+ει λύσουσι σ+ουσι

のようになります。簡単に述べるなら、動詞の語幹と活用語尾の間に σ を挟めば出来上がりです。また確認のために現在形と比較してみましょう。

λύω(1人称・単数・現在)「私は~を解く」の現在形の活用

  単数形 複数形
1人称 λύω λύομεν
2人称 λύεις λύετε
3人称 λύει λύουσι

このように ω 動詞の λύω で現在形と未来形を比較するならば、動詞の語尾の前に未来の σ が置かれると覚えると簡単かもしれません。また未来形には、語幹の末尾にある子音と未来形の σ が融合して、見かけ上特別な形に見える幾つかのパターンと、一部の不規則な動詞もありますが、それらは出てきたときに学びましょう。それでは次は約音動詞(άω 型)を見ていきましょう。

ἀγαπῶ (-άω)(1人称・単数・現在)「私は~を愛する」の未来形の活用

  単数 複数
1人称 ἀγαπήσω -ή-σω ἀγαπήσομεν -ή-σομεν
2人称 ἀγαπήσεις -ή-σεις ἀγαπήσετε -ή-σετε
3人称 ἀγαπήσει -ή-σει ἀγαπήσουσι -ή-σουσι

のように、ἀγαπῶ の ἀγαπά-ω の 幹末の -α- の部分が -η- に延長されています。そして残りは ω 動詞と同じく -σω 以下の未来の語尾が接続されています。現代ギリシャ語をご存じの人はよく見たことある形が出てきたな、と思われるかもしれません(笑)。

ω 動詞と約音動詞(άω 型)の未来形の活用について紹介しましたが、文中では主に、①単純に未来のことや、②これから未来に行いたい意志を表しますが、今回の例題11で見ていくように、③「命令法」的な用法もあります。それでは早速、例題11を見ていきましょう。

■ 本文の解説(1)

ギリシャ語:Ἀγαπήσεις κύριον τὸν θεόν σου

ἀγαπήσεις [動詞] ~を愛する(ἀγαπῶ (-άω) の2人称・単数・未来)
κύριον [名詞] 主人、主、先生、閣下(κύριος, -ου の単数・対格)
τὸν [冠詞] 男性・単数・対格と
θεόν [名詞] 神(θεός, -οῦ の単数・対格)
σου [代名詞] あなたの(2人称・単数・属格)

まずは文頭の ἀγαπήσεις ですが、先ほど学んだ約音動詞(άω 型)の未来形の活用をご覧ください。この表の中では、2人称単数に該当します。ですので、まずは単純に未来形として「あなたは~を愛するだろう」としておきます。

次に κύριον τὸν θεόν σου の説明に移りましょう。まず κύριον ですがこれは κύριος の対格で「主を」と訳すべきものです。次に後ろからこの「主を」に対し「同格」となる対格の塊 τὸν θεόν σου が続いており、「あなたの主を」という意味になります。

聖書ギリシャ語では「~の」という所有を表す表現が2種類あります。1つ目は ἐμός(私の)や σός(あなたの)という所有形容詞を性・数・格に合わせて活用させ、定冠詞の後ろ(属性的位置)に置きます。そして、この定冠詞と所有形容詞の2語が1セットになって、修飾する名詞の前か後に来ます。例を示しますと、

εἰρήνην τὴν ἐμὴν = τὴν ἐμὴν εἰρήνην 「私の平和を」(第8回参照

となります。このうち後者のパターン(τὴν ἐμὴν εἰρήνην)は、英語やフランス語などの my father や ton père のように名詞の直前に所有形容詞が来ています。ただし、ギリシャ語では、英語やフランス語と違って my や ton に当たる所有の言葉があったとしても、定冠詞が残ることに注意してください。ちなみに、イタリア語では、la mia casa「私の家」など、ギリシャ語のように、定冠詞+所有形容詞+名詞の組み合わせが可能です。

次に2つ目のパターンは現代ギリシャ語と同じ用法で、人称代名詞の属格形をとにかく修飾したい名詞の後ろ(述語的位置)に置きます。こちらも例を示しますと、

τὴν εἰρήνην μου「私の平和を」
τὴν εἰρήνην σου「あなたの平和を」

となります。今回登場している τὸν θεόν σου「あなたの主を」の「あなたの」は、この2つ目の修飾パターンに当たります。実際、聖書の中では両パターンとも出現しますので、しっかり両方押さえていければと存じます。

というわけで、ここまで全体を整理しますと、

Ἀγαπήσεις κύριον [τὸν θεόν σου]

「あなたは愛するだろう」「主を」=[あなたの神を]

となり、ひとまず「あなたは、あなたの神である主を愛するだろう」となります。ですが未来形の項目の最後で説明したように、未来形には「命令法」的な用法があり、ここでは文脈的に「あなたは、あなたの神である主を愛しなさい」となります。

■ 本文の解説(2)

ギリシャ語:ἐν ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ ψυχῇ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ διανοίᾳ σου

ἐν [前置詞] (与格と共に)~において、~の中で、~によって(第3回をご覧ください)
ὅλῃ [形容詞] すべての(ὅλος,-η,-ον の女性・単数・与格)
τῇ [冠詞] 女性・単数・与格と
καρδίᾳ [名詞] 心(καρδία, -ας の単数・与格)
καὶ [接続詞] そして
ψυχῇ [名詞] 息、魂(ψυχή, -ῆς の単数・与格)
διανοίᾳ [名詞] 理解、思考、(考える能力としての)心(διάνοια, -ας の単数・与格)

ここでは大きく「ἐν 与格」という構造が2回繰り返され、それぞれ καὶ(そして)で結ばれています。まずは1つ目の「ἐν 与格」を見ていきましょう。

まず前置詞の ἐν ですが、こちらは第3回で与格を伴って「~において」という塊を形成すると学びましたが、今回は「~で、~によって」という手段の用法で取りましょう。そして与格の名詞として ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου「あなたのすべての心に」が来ています。所有を表す「あなたの」に関しては、本文の解説(1)で説明した通りです。そして「すべての」を表す ὅλος という形容詞ですが、これは冠詞を伴う場合は常に冠詞の前に置かれますが(述語的位置)、意味的には常に名詞を修飾します(属性的)。少々まどろっこしい言い方になってしまいましたので図解すると、

ὅλος+冠詞+名詞:すべての名詞

という意味になります。ですので、この与格の塊 ὅλῃ τῇ καρδίᾳ で「すべての心に」という意味になり、ἐν ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου 全体で「あなたの心すべてによって」という意味になります。そして残りの καὶ(そして)でつながれた2つの塊もまったく文法的には全く同じ構造です。つまり、

ἐν ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου 「あなたのすべてによって」
καὶ
ἐν ὅλῃ τῇ ψυχῇ σου 「あなたのすべてによって」
καὶ
ἐν ὅλῃ τῇ διανοίᾳ σου 「あなたの思考力すべてによって」

となり、これら3つを合わせると「①あなたのすべてによって、そして②あなたのすべてによって、そして③あなたの思考力すべてによって」となります。

ここまで聖句を読みながら、διάνοια の訳語は個人的に特に難しいなぁと思い、「これは『思考回路』などと訳すのが、センスがあるのでは? 確かに『再臨されるイエス・キリスト』に『今すぐ会いたい』という気持ちもついでに表せるし、いいのではないか」と思いましたが、やめておきました。すみません、もちろん冗談です(笑)。

■ まとめ

最後に例文全体をもう一度見てみましょう。

Ἀγαπήσεις κύριον τὸν θεόν σου ἐν ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ ψυχῇ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ διανοίᾳ σου の直訳は、

「あなたは、あなたの心すべてによって、そしてあなたの魂すべてによって、そしてあなたの思考力すべてによって、あなたの神である主を愛しなさい」

となります。この言葉は旧約聖書からの引用であり、「心」「魂」「思考力」としたそれぞれの単語が文脈上、また神学的にどのような意味を持つのか、あるいは元のヘブライ語との関係はどうなのかといった問題は、注解書や神学書に委ねたいと思います。

■ 練習問題

1)次の新約聖書の一節を日本語に訳しなさい。

Ἀγαπήσεις κύριον τὸν θεόν σου

2)ω 動詞 λύω の未来形を書きなさい。

  単数形 複数形
1人称    
2人称    
3人称    

今回の講座は以上になります。次回も聖書本文の解説に取り組みながら、続けて未来形(2)として未来形の話をできればと存じます。(続く)

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宮川創

宮川創(みやがわ・そう)

1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。

福田耕佑

福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在、京都大学大学院文学研究科現代文科学専攻博士後期課程、日本学術振興会特別研究員(DC1)。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論―『禁欲』を中心に―」『東方キリスト教世界研究』第1号など。

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