牧師の小窓(198)坂本龍馬の姪・岡上菊栄について(その9) 福江等

2019年12月22日23時45分 コラムニスト : 福江等 印刷
関連タグ:福江等

高知博愛園の初代の園母になってほしいという要請を受けて、菊栄の胸は激しく動揺しました。菊栄にはすでに5人もの子どもがあり、家族に対する自身の責任が重くのしかかってきています。けれども家族のいない、親のいない子どもたちのことを放っておくこともできない、このような子どもたちに親の代わりになってあげたい、自分の家庭の責任を担いつつ幸薄い子どもたちの力になってあげられないものかと、思いが激しく揺れ動くのでした。

赴任先から帰ってきた夫、栄吾に、早速菊栄は北村との話の一部始終を語って聞かせました。すると、栄吾は次のように答えました。

「・・・孤児救済に当たろうなどとは、素晴らしいことよのーし。・・・けんど、菊栄、お前には5人の子どもがおるぞ。千代は生まれたばっかりじゃが。人の子を育てることもだいじじゃが、まず、わが子を責任をもって育てることの方が、親として在るべき姿ではないかえ。5人の子どもは頼みとする母親を失うて、結局、犠牲になるろうが。そりゃ無理な話ぜよ」と全く道理にかなう話をしました。痛いところを突かれ、菊栄は返す言葉が見つかりませんでした。

しかし、菊栄の心は逡巡(しゅんじゅん)しながらも、栄吾の言葉とは反対の方へ強く動いていくのでした。時がたつにつれて、菊栄の気持ちは固まっていきます。そしてその思いは「親のない子」「家庭のない子」のためにこの身を投じたい、これこそが私の天よりの使命。個人的な利害など何ほどのものぞ。「天よりの使命」が菊栄の中で抑えがたい火柱となって突き上げてくるのでした。

そしてついに、菊栄は決意を夫に告げました。すると栄吾は思いがけずすんなりと理解してくれたのでした。人が「天からの使命」に生きようとするとき、周りの者に多大な迷惑をかけます。しかし、この「天からの使命」に従って歩み出すなら、主なる神は周りの人々のことも深くご配慮し恵みをもって助け導いてくださいます。与えられた主の導きの中にまい進するなら、主はすべてのことを働かせて益としてくださるというお約束を、菊栄の生きざまは証ししてくれていると信じます。

(出典:武井優著『龍馬の姪・岡上菊栄の生涯』鳥影社出版、2003年)

<<前回へ     次回へ>>

福江等

福江等(ふくえ・ひとし)

1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001年(フィリピン)アジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)、『天のふるさとに近づきつつ―人生・信仰・終活―』(ビリー・グラハム著、訳書)など。

福江等牧師フェイスブックページ
高知加賀野井キリスト教会ホームページ
高知加賀野井キリスト教会フェイスブックページ

関連タグ:福江等

関連記事

クリスチャントゥデイからのお願い

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。記事の一つ一つは、記者や翻訳者、さらに編集者の手などを経て配信されているものです。また、多くのコラムニストや寄稿者から原稿をいただくことで、毎日欠かすことなくニュースやコラムを発信できています。

この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、読者の皆様にはぜひ、祈りと共に、毎月定期的にサポートする「サポーター」として(1,000円/月〜)、また単発の「サポート」(3,000円〜)によって応援していただきたく、ご協力をお願い申し上げます。支払いはクレジット決済で可能です。申し込みいただいた方には、毎週のニュースやコラムをまとめた申込者限定の週刊メールマガジンを送らせていただきます。サポーターやサポートの詳細、またクレジットカードをお持ちでない方はこちらをご覧ください。


コラムの最新記事 コラムの記事一覧ページ

新型コロナウイルス特集ページ

人気記事ランキング

おすすめのコンテンツ【PR】

コラム

主要ニュース