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新・景教のたどった道

新・景教のたどった道(20)唐代の漢訳書・その1『序聴迷詩所経』(1) 川口一彦

2019年10月30日11時39分 コラムニスト : 川口一彦
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関連タグ:川口一彦
新・景教のたどった道(20)唐代の漢訳書・その1『序聴迷詩所経』(1) 川口一彦
武田杏雨書屋所蔵『敦煌秘笈』(大阪)

今日、私たちが見ることのできる景教資料の漢訳書の最古のものと考えられるのは、紀元600年中ごろに書かれた『序聴迷詩所経』と『一神論』でしょう。『序聴迷詩所経』(イエス・メシア経と呼ばれる)は、イエス・メシアの降誕と洗礼、十字架と復活の記事、マタイの福音書5章から7章の山上の説教部分が多く引用されていることから、その名が付けられたと考えます。

新・景教のたどった道(20)唐代の漢訳書・その1『序聴迷詩所経』(1) 川口一彦

635年に最初の宣教師、阿羅本が中国の都西安に来て太宗皇帝に会い、翻訳書殿という所でシリア語から3年にわたり漢訳していきました。まだこの時代には景教という表現表記は生まれていませんので、書名の冒頭には「大秦景教・・・」という漢語表記はありません。「大秦景教」の用語は745年ごろから付けられ始めます。

『序聴迷詩所経』の著作者や著作場所と著作年は不明です。黄色の紙や毛筆書体から見て敦煌ではないかと考えます。発見者はフランスのポール・ペリオで、敦煌の千仏洞から1900年代初期に発見し、中国のある人物から1917(大正6)年に京都帝国大学講師富岡謙蔵(1873~1918)の所蔵となり、1923年に高楠順次郎の所蔵となり、1931(昭和6)年には東方文化学院京都研究所が『一神論』と合わせて出版しました。原書とも体裁は黄紙の巻軸で、書体、行文とも似ていて同一著者の作といえます。本書の行は170行で、両書併せて405行。

新・景教のたどった道(20)唐代の漢訳書・その1『序聴迷詩所経』(1) 川口一彦

現在の所蔵は、大阪の武田科学振興財団杏雨書屋であり、筆者は実物を2度見学しています。

一部に京都西本願寺所蔵といわれ、親鸞が読んだともいわれたニュースは、間違いでしたので訂正します。従って、親鸞が読んでいない故に、悪人正機説は景教から出てはいないと考えます。また本書には悪人正機説の教えに似たものは見当たりません。

本書の前半は聖書の教理で、後半はイエス伝です。当時の宗教用語や儒教思想を取り入れた部分が見られ、それは翻訳者が現地の事情に詳しくなく、精通していないことが分かります。協力者がいたとしても最初の翻訳には不明な部分があることは当然といえましょう。

例えば「メシア」の漢語表記を見れば、題名に「迷詩所」とあり、本文には「迷師訶」、「弥施訶」(この表記が多い)があり、イエスにしては「序聴」、「移數」、「移鼠」など、表記の統一性がなく、また父なる神を「天尊」、「世尊」と混同しています。後々に景浄が書いた『尊経』や『景教三威蒙度讃』は「阿羅訶」と統一して書かれ、それは著者がそのことを理解して書いていると考えます。

内容は順次紹介していきますが、前半では信徒の守るべきことの3点、天尊を畏れ、皇帝を恐れ、父母を怖れて生きることが述べられ、儒教の教えの影響があるのか、あるいはローマ書13章の、上に立つ者を怖れる教えを書いたのか、入唐する前に書かれたとしても、新約聖書の影響があると考えます。

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※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
旧版『景教のたどった道―東周りのキリスト教』

◇

川口一彦

川口一彦

(かわぐち・かずひこ)

愛知福音キリスト教会(日曜と火曜集会)ならびに名古屋北福音キリスト教会(水曜集会)の宣教牧師。フェイスブックで「景教の研究・川口」を開設。「漢字と聖書と福音」「仏教とキリスト教の違い」などを主題に出張講演も行う。書家でもあり、聖書の言葉を筆文字で書いての宣教に使命がある。大学や県立病院、各地の書道教室で書を教えている。基督教教育学博士。東海聖句書道会会員、書道団体以文会監事。古代シリア語研究者で日本景教研究会代表。特に、唐代中国に伝わった東方景教を紹介している。著書に『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』など。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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