「宗教」と「ビジネス」の新たな接点を提示する 小原克博著『世界を読み解く「宗教」入門』

2019年1月9日14時58分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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小原克博著『ビジネス教養として知っておきたい 世界を読み解く「宗教」入門』(日本実業出版社、2018年10月)

「宗教」の守備範囲を広げ、実生活との距離を縮めることに役立つ良書

本書『ビジネス教養として知っておきたい 世界を読み解く「宗教」入門』は、私の恩師である小原克博教授(同志社大学神学部)が、東京で開催された「同志社講座」の一つとして担当した「ビジネスパーソンのための宗教講座―世界とビジネスを新しい視点で見るために」が原案となっている。そのため「研究書」ではなく、宗教に関する知識がほとんどない人、特にビジネスの世界で生きている人向けに書かれている。

小原氏は本書の狙いを次のように語る。

「本書はむしろ、ビジネスという営みそのものを外部(非日常)の視点から対象化し、そこに異質なものの見方を持ち込むことを目指しています。(中略)『日常』に対してしんどさを感じている、あるいは、慣れ切った『日常』を再活性化したいと願っている人には、『非日常』の視点が、ときとして役立ちます。本書は、宗教という素材を駆使して、その視点を提供したいと考えています」

本書は全5章で構成されている。各章で語られる中身はいわゆる「宗教」の教義であったり、歴史であったり、または現行の集団構成図であったりする。それだけでも大いに刺激的で、一般の日本人が知り得ないような宗教的トリビアが満載となっている。しかし本書の特徴は、各宗教のベーシックな部分を列挙するに留まらないで、そのトリビア的な知識を私たちの現実社会をひもとく「新しい切り口」として論を展開しているところにある。

一見、私たちとは無関係に思える宗教的世界観やしきたりが、実は「何気ない日常」を構成する基本要素となっていることを本書は指摘する。例えば、第3章の4つ目のトピックで言及されているユダヤ教の「安息日」は、キリスト教に受け継がれることで、私たちが日曜日を休日として過ごす習慣の原点となっていることが語られている。さらに、人はどうして「安息」を取る必要があるのか、そもそも「休む」ということの意義とは何か、と取り挙げる問題が普遍化されていく。

論を進めていくうちに、今度は逆に「当たり前の日常」に対して、あえて視点をずらして考える必要性が語られていく。宗教性に満ちたグローバルな視点から私たち日本人の生活を見るなら、世界の人々にとっての「非日常」を、日本人が「当たり前」として生きている姿が浮かび上がってくる。小原氏はこれを「地獄絵図」と表現している。地獄かどうかはさておき、日本人以外の視点に立つことで気付かされる「新たな視点」こそ、本書最大のうま味であることは間違いない。

具体的には、トピックの最後で言及される「過労死」や「中高生の部活動問題」である。これらについて「戦後の日本のビジネスモデルは長い間、休日にも無頓着に働き続けるマッチョなビジネスパーソン像が理想とされてきました」と指摘し、高度経済成長期に美徳とされた価値観が、本格的な少子高齢化時代に突入しても通用するのか、と疑問を呈している。「若い頃から『休む』ということの積極的意味を味わうことなく大人になって」いく社会と小原氏は語っているが、まさにこれこそ私たち戦後生まれの日本人が「当たり前の日常」として享受してきた価値観である。これが今、大きな社会問題を引き起こしている。しかし行政機関や多くの識者はこれらを小手先の技術で解決しようと躍起になっているように筆者は思う。

しかし「当たり前」の歪(いびつ)さに気付かせ、改善へ向けた抜本的な方向転換を示唆できるのは、時代の最先端を行く科学技術や高名な識者の理論ではなかった。数千年の歴史を経る中で世界に浸透した諸宗教(ユダヤ教やキリスト教)の大原則ともいうべき「安息日」という概念であったのである。

小原氏はこれを次のようにまとめている。

「不自由への忍耐を要求する世界に隷従することなく、複数の世界を渡り歩く自由は、充足した安息の内にこそ宿るからです」

このような筆致で各章が斬新なアイデア(しかし実は諸宗教が地道に訴えてきたこと)で満ちている。もちろん私たちにとってなじみのない宗教の原理原則を理解することもできる。そしてその原則を私たちの生活(日常)に適用させる示唆にも富んでいる。

従来「ビジネス書」というと、「いかに儲けるか」「どのような心構えがビジネスの成功につながるか」といったような、既定路線をいかに速く進むことができるかという分野に特化していたように思う。しかし本書は、ビジネス書の「ビジネス」の中身を吟味するという意味でも大いに読む価値があると言えよう。

さらに、小原氏も指摘しているが、一見すると無関係に思える「宗教」と「ビジネス」の新たな接点を提示するという意味で、宗教界にとってもある種「良き知らせ(福音)」となるであろう。宗教の、ひいてはキリスト教の存在価値が、形而上学的・主観的領域(魂、霊的世界)のみならず、私たちに卑近な「現実社会」においてこそ、これからは重要視されるという方向性は、一牧師として私も大いに首肯するものである。

ぜひ一人でも多くの人に読んでいただきたい一冊である。

■ 小原克博著『ビジネス教養として知っておきたい 世界を読み解く「宗教」入門』(日本実業出版社、2018年10月)

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会研修牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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