「行動は祈りの一部」家族法・憲法学者でクリスチャンの清末愛砂・室蘭工業大学大学院工学研究科准教授

2016年5月28日21時22分 記者 : 行本尚史 印刷
+「行動は祈りの一部」家族法・憲法学者でクリスチャンの清末愛砂・室蘭工業大学大学院工学研究科准教授
本紙のインタビューに応じる清末愛砂准教授=21日、札幌市内で

北海道にある室蘭工業大学大学院工学研究科の家族法・憲法学者でクリスチャンの清末愛砂准教授。改憲を進めようとしている安倍政権と日本国憲法、そしてキリスト教について、7月10日に投開票が行われるとみられる参議院選挙を前に何を思うのか。21日、清末准教授が講演者の一人として登壇した北海道クリスチャンセンター(札幌市)での講演会の後、同市内で話を聞いた。

清末准教授は、自民党の改憲草案における国家緊急権・緊急事態条項の危険性を必死な思いで伝えたいと語るとともに、日本国憲法24条(家族内での両性の平等・個人の尊厳)の改憲にも気を付けなければならないと語り、24条の大切さを強調した。

同准教授は、クリスチャンの祈りと行動、自らが関わってきたパレスチナに無関心なクリスチャンに対する悔しさ、戦争についての反省と平和主義、教会やキリスト教団体での働きについて語った上で、最後にひと言、「本当に、キリスト者であることが、私の活動の中心ですから」と話した。

インタビューの主な内容は以下の通り。

必死な思いで伝えたい国家緊急権・緊急事態条項の危険性について

清末准教授:今、憲法に関して一番まずいと思っていることは、やはり国家緊急権の問題です。これは、フッと湧いた話ではなくて、特に自民党が2011年の3・11以降、その動きを加速させてきたものです。ただ、それ以前から、改憲は彼らの第一目標でした。国家緊急権は、全ての権力を手に入れることができるものですから、もしも私が自民党のトップクラスにいれば、国家緊急権を憲法に入れておきたいと思うことでしょう。

もうここまで出てきたとなると、かなり総仕上げに近い段階にまで来ています。今年の正月に入ってから、安倍首相は改憲意欲をむき出しにしていますので、本当にこの1年、1年半が勝負です。日本国憲法が施行された1947年5月3日以降、最大の危機を迎えていると思っています。

今日の講演では、国家緊急権、すなわち緊急事態条項について30分ぐらい解説しました。しかし問題は、その危険性があまり伝わっていないことです。

憲法関係の平和運動はこれまで、憲法9条を守るということに集中してきました。それはとても価値があって、当然のことだと思います。日本国憲法の中には国家緊急権がないわけですから、発想が及ばなかった。改憲というとすぐに9条だというイメージがありました。

けれども、9条以上に怖いのは、実は国家緊急権を入れることなのです。その危険性がまだ伝わっていないと思う。それを今、必死な思いで伝えたい。

改憲勢力によって議席を取られてしまったら、国会で発議が通れば国民投票できます。国民投票は危険だと思っています。国民投票では、基本的にマイノリティーの声が生きませんから。民意を反映するためのものだとよく間違える人がいますが、実は違います。国民投票は、強い者のための投票です。ですから、今の状況が怖いのです。

憲法24条(家族内での両性の平等・個人の尊厳)の改憲にも気を付けて

もう一つ盲点があると思っています。それは、憲法24条の改憲です。その視点は、平和運動の中でもなかなか持てないのです。憲法といえば、平和主義の9条や前文には関心がいくのですが、24条というのは本当に、憲法学者を含めてもあまり興味がない。

ただ、家族法の学者たちは評価しています。家族法は24条で変わりましたから。しかし、自民党はこの24条が大嫌いで、変えたくてしようがない。だから今狙われているのです。

怖いのは「24条だったら注目もない分、改憲されてもいいのではないか」と思われてしまうことです。せっかく家族内での両性の平等・個人の尊厳というものをうたい、家族の中にいっぱいある差別・暴力を否定し、公的な分野ではなくて私的な分野における差別・暴力の克服を導くための条文なのに、その重要性がなかなか共有されていません。ですから24条に関しては、改憲といってもあまり関心がないと思うのです。

戦争を知っている世代のクリスチャンの中には、覚えておられる方もいると思うのですが、大日本帝国時代にはキリスト者も戦争に協力させられました。戦時中、宗教に対する国家の統制は相当なものでした。その中でキリスト者も結局は戦争に協力していったという、大きな反省があるはずです。でも、それが若い世代にまでなかなかつながっていないのだと思います。

今のような国家緊急権導入という話は、明らかに戦争体制を総仕上げのような状況までもってくるものです。国家緊急権は国によっても違いますが、軍事体制を拡大するときに、また戦争や武力紛争とかなり密接に結び付く形で使われるのです。ですから、国家権力が緊急事態を言い出せば、戦争や軍国主義の拡大を疑ったほうがいいでしょう。過去の例ではドイツもそうでした。

そういう意味では、日本のクリスチャンもこの国の市民であって、体制に動員される存在だということを考えておいたほうがいいと思うのです。戦時中、相当にやられましたからね。私たちクリスチャンはマイノリティーで数が少ないですから。

国家総動員法が過去にはあったわけで、安倍政権のいう「一億総活躍」というのを聞くと、もう本当に大日本帝国時代と同じではないかという感じがするのです。その中に確実にクリスチャンは入りますからね。

私は、あるクリスチャンの集会で、単に祈っていても変わらないと、はっきり言ったのです。こんなこと言ったら怒られてしまいますか(笑) 。祈りの中には行動が入るのです。私も普通に祈ります。祈った後に考えて、聖書から学んだことを実践し、実社会においてきちんと行動していくことも祈りの延長だと思います。祈りと行動はセットなのです。

私はそれを、自分の友人の牧師から学びました。彼女は非常に社会的な牧師なのですが、私が「祈っているだけじゃ何も変わらないわ。行動しなきゃ」と言ったときに、「行動は祈りの一部なのです」と教えてくれました。

パレスチナに無関心なクリスチャンに対する悔しさ

パレスチナの中には、割合としてはそんなに多くなくても、一定数のクリスチャンがいます。例えばベツレヘムという町の住民の半分ぐらいはキリスト者ですし、すぐ隣のベイトサッフールは圧倒的にクリスチャン人口が多いです。でも、当然ですよね。三大宗教の聖地なのだから、そこにはクリスチャンが当然いるわけです。

イスラエルが物理的な軍事攻撃を行うときは、別にムスリムに対してやるわけではなく、パレスチナ人全体に対してやるわけです。そこでムスリムなのかそれともクリスチャンなのかと分けることは全く意味がなくて、ただあそこにいるパレスチナ人、アラブ人たちがどんな思いをしているのか、どれだけひどいことをされているのかを、なぜクリスチャンは考えないのかと私はずっと思ってきました。

私たちは、聖書を通してパレスチナのことを知っているはずです。例えばベツへレムは、私だって小さいときから知っています。そのベツレヘムという町が、2000年代初めなどにはものすごい攻撃を受けていました。でも、何も言わない。

現地のクリスチャンは、世界のクリスチャンに対して発信していたはずなのです。自分たちがこんなにやられているのに、なぜ無関心なんだって。私の中では、そういうことがクリスチャンに対する悔しさなのです。

安倍政権と日本国憲法に関してクリスチャンに伝えたいこと

—(昨年9月に北海道クリスチャンセンターで)日本キリスト教婦人矯風会が主催した清末先生の講演会のチラシ(PDFはこちら)の中にはイスラエル・パレスチナ問題に関わる中で、キリスト者の責任を考えるようになったことが書かれていましたが、安倍政権と日本国憲法に関して、クリスチャンに伝えたいこと、訴えたいことはありますか?

清末准教授:ありますね。私たちクリスチャンは、日本の侵略戦争に加担しました。それからだいぶたって時間がかかりすぎたにせよ、反省をしていかなくてはいけなくなった。でも、少なくともはっきりしているのは、日本のクリスチャンがあの戦争体制に組み入れられて従っていったことの反省も含めて、日本国憲法があるということです。日本国憲法は、私たちの信教の自由の権利も守っています。

日本の平和主義は、あのアジアの2千万ともいわれる、私たちの侵略戦争によって亡くなった一人一人の犠牲の上に生まれたものだと思うのです。ですから、その戦争に関わった者たちは、絶対に平和主義を何としても伝えていかなきゃいけないと思うのです。ですからそれを変えるような動きに対しては、きちんと物を言わなくてはいけない。そうでないと、結果的に私たちの生活を、信教の自由を含めて否定することになってしまうのです。

日本の政治家の中にはクリスチャンがいます。ああいう反省なきクリスチャンが増えると、また私たちは全く同じことをやります。政権の中枢に、クリスチャンがけっこういるわけです。

私、清末愛砂は、死ぬまで24条を離しませんでしたと言ってくれと、いろんな人に話しています。それぐらいに24条が好きです。絶対に取られたくありません。

―矯風会でのご講演でも、テーマが24条でしたね。

清末准教授:割と最近、キリスト教の団体が24条のことで私を呼んでくれます。他のところは24条となると普通の護憲運動でも呼んでくれません。矯風会とか日本基督教団性差別問題連絡会といったところが呼んでくれます。

―日本基督教団性差別問題連絡会の主催で、全国会議が北海道で行われたのは今年の1月でした。

清末准教授:24条の改憲は戦争と結び付いているので、家族主義をあれだけ強く今の改憲でやろうとしている。ものすごく家族ベースの憲法に変えたがっています。それは社会福祉の切り捨てですし、家族をお互いに監視しろという体制を家族の中に再び作るわけです。家族の中で統制していくやり方は、大日本帝国と同じです。

ですから憲法24条と緊急事態法を彼らが押さえてしまうと、国家的に統制できて、家族の中も統制できる。あれはセットなのです。なかなかそれがセットだとみんな言いませんが、セットのうちに必ずやるのです。

―北海道では、例えばYWCAでも憲法カフェの講師として24条のことをお話しになるんだそうですね。

清末准教授:そうなのです。私が島根から室蘭工業大学に赴任したのは2011年10月でした。赴任してちょっとしてから日本平和学会の友人経由で、YWCAから憲法講座を担当してくれないかと依頼を受けました。それが、24条のことを北海道で話すようになったきっかけでした。

―女性が多いですか?

清末准教授:多いです。矯風会は女性の人権についてずっと活動を続けていますし、YWCAもすごく頑張って平和活動と女性の問題に取り組んでいますから、当然なのかな。

―クリスチャンの男性にも気付いてほしいですか?

清末准教授:そうですね。でも、日本基督教団性差別問題連絡会の全国会議では、見た目は男性に見える人がそれなりに多かったですよ。

―最後に、皆さんに伝える、ひと言は?

清末准教授:本当に、キリスト者であることが、私の活動の中心ですから。

―今日は貴重なお話をありがとうございました。

清末准教授:ありがとうございました。

清末愛砂(きよすえ・あいさ):2011年10月から室蘭工業大学大学院工学研究科准教授。1972年山口県出身。専門は家族法、憲法学。著書に『母と子でみる パレスチナ 非暴力で占領に立ち向かう』(草の根出版会、2006年)。最近の共著書に『これでいいのか!日本の民主主義 失言・名言から読み解く憲法』(現代人文社、2016年)、『安保法制を語る!自衛隊員・NGOからの発言』(現代人文社、2016年)、「アフガニスタンでは、どうだったの?」戦争をさせない1000人委員会編『すぐにわかる戦争法=安保法制ってなに?』(七つ森書館、2015年)、「21世紀の『対テロ』戦争と女性に対する暴力」ジェンダー法学会編『講座 ジェンダーと法 第3巻 暴力からの解放』(日本加除出版、2012年)などがある。また、論文に「女性間の分断を乗り越えるために 女性の活躍推進政策と改憲による家族主義の復活がもたらすもの」(日本平和学会編『平和研究』第45号「『積極的平和』とは何か」早稲田大学出版部、2015年、65−83ページ)など多数(一覧はこちら)あり。そして、「戦争をさせない1000人委員会」が、2016年4月に作成したリーフレット「いよいよ改憲?緊急事態条項ってなに?」(PDFはこちら)の中では、「緊急事態条項とは何でしょうか?」という記事を執筆している。さらに、キリスト教会やYWCA、日本キリスト教婦人矯風会や市民集会などでも、講演会などでの依頼を受けて講師を務めてきている。学生時代に受洗。母教会が閉鎖されたため、現在は室蘭知利別教会に通う。

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