フランス南東部リヨンで9月初め、イラク人難民のキリスト教徒の男性が、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」でライブ配信中に刺殺される事件があった。
殺害されたのは、アシュール・サルナヤさん(45)。キリスト教徒が多い中東の少数民族であるアッシリア系のイラク人で、過激派組織「イスラム国」(IS)による迫害のため、イラクから逃れてきた。幼い頃から足に障がいがあり、車椅子で生活をしていた。
サルナヤさんはこれまで、ティックトックのライブ配信で、イスラム教に批判的な発言を頻繁に行っており、ネット上のコメントや匿名の電話で殺害予告を受けていたという。
事件はサルナヤさんの自宅アパート付近で、9月10日午後10時半前に発生した。目撃者によると、容疑者はサルナヤさんを待ち伏せし、首を刺したという。
地元紙「ル・プログレ」(フランス語)によると、容疑者はサルナヤさんの頸(けい)動脈を切り、逃走した。緊急隊が到着したときには、サルナヤさんは既に心肺停止の状態で、蘇生措置を取れない状態だったという。
「(事件翌日の)木曜日午前もオンラインで見られる(サルナヤさんのライブ配信)動画には、顔に血が付いた被害者が映っている。親族によって本人だと確認されており、鼻と口から出血しているのがはっきりと分かる」と同紙は伝えている。
同紙によると、目撃者はAFP通信に対し、容疑者と見られる人物が現場から立ち去る様子を捉えた動画を見せ、「黒い服を着て、フードをかぶった人物が現場を去る後ろ姿の人物が殺人犯だと説明した」という。
その後の報道(フランス語)によると、イタリア南部アンドリアで10月2日、欧州加盟国内で有効な逮捕状が出されていた容疑者が逮捕された。容疑者は、北アフリカのアルジェリア出身の男(28)で、抵抗することなく逮捕された。現在アンドリアの刑務所に収監されており、フランスへの移送が検討されている。
男は、9月12日にバスに乗ってミラノ経由でイタリアに到着し、その後、ローマへ移動して南部に向かったという。
「欧州のキリスト教徒に対する不寛容・差別監視団」(OIDAC)によると、サルナヤさんはISからの迫害を逃れるため、2014年にイラクを出国し、フランスで妹と一緒に暮らしていた。サルヤナさんはオンラインでアラビア語のキリスト教メッセージを頻繁に投稿しており、イスラム教徒のSNSユーザーから嫌がらせや攻撃を受けていると語っていたという。
OIDACは、「フランスの多くのキリスト教団体がこの殺人を非難し、中東のキリスト教徒が安全に信仰を実践し、尊厳を持って生きられるよう求めている」と強調。サルナヤさんが迫害から逃れてフランスまで来た経緯を考えると、今回の事件は想像を絶するものだと述べた。
カトリック系のCNA通信(英語)によると、リヨンのアッシリア・カルデア人協会のジョルジュ・シャムーン・イシャク会長は、サルナヤさんについて、「とても親切で、控えめで、深い信仰心を持つ人でした。彼はキリスト教信仰について話すのが好きでした」と話している。