【インタビュー】「現実と希望の狭間で」 会津放射能情報センター代表・片岡輝美さん

2015年3月31日18時42分 インタビュアー : 行本尚史 印刷

東日本大震災、そして福島第一原発事故から4年。同原発から約100キロ離れた日本基督教団若松栄町教会(福島県会津若松市)の会員である片岡輝美さんは、2011年7月に会津放射能情報センターを立ち上げた。以来、その代表として、講演や著書などを通し、福島から放射能に関する情報を発信している。震災・事故後4年が経過した今、福島の現状はどうなのか。「現実と希望の狭間で、その振れ幅が大きい」と語る片岡さんに、福島の地でどう思い、何を感じているのか、話を聞いた。

4年たっても依然ざわつく心

4回目の3・11を迎え、心がざわつき、やはりあの時を思い出します。地震があったこともそうですし、津波のことも、そして何よりも原発が爆発したと聞いて、またそれを見て、「ああ、もう終わっちゃった」という、あの時の恐怖感がよみがえってきます。一種のトラウマ(心的外傷)だと思います。子どももそうですが、大人の場合も同じように、尋常ではないあの瞬間を経験したので、そのショックは大きかったと思います。

もう一つ思うことは、「この4年間、何をしてきたのだろう?」ということです。これは情報センターの活動に関わっている人も、関わっていない人も同じように言います。つまり、本当にその通りだと思える復興を実感していない。私たちが思い描く復興とは、ますますかけ離れてきている。無力感というか、この4年間の動きが無駄であったのではないかという思いすら持ちます。

最近のセンターの状況としては、ここ1、2年、会津若松市でも子育てをできないと判断した人たちが、県外へ移住することが続きました。会津若松市もやはり、安心・安全宣言が事故後早くに出され、観光の地・農業の地でもあるから除染はしないという、あきれた話が始まりました。その後、市に除染をするよう求めても、いっこうにやる気配はありません。福島県なのに、県民も教育現場も危機感をすでに持たなくなっている中途半端感。一致点を見いだすことができず、移住を決意した人たちがいます。

【インタビュー】「現実と希望の狭間で」 会津放射能情報センター代表・片岡輝美さん
会津放射能情報センター代表の片岡輝美さん

甲状腺がん疑われる子どもたちのケア

一方、会津若松では、6人の子どもたちの小児甲状腺ガン、またはその強い疑いが発表されました。果たしてその子たちのケアはどうなっているか、私たちはとても気にしています。福島県は安全だと言われ、100人以上の子どもたちが小児甲状腺ガンの強い疑いと判定されても、それは原発事故との関連は考えにくいとされています。ましてや、会津は放射線量が低くて安全とされているのだから、その中でがんと診断されたら、やはり親としては揺れ動くのは間違いないでしょう。生まれながらにその病気を持っていたと言われれば、産んだ自分の責任だと母親は思うわけです。でも一方、本当に原発事故と関係ないのだろうかと思うこともあるわけです。

市役所との話し合いのときに、「小児甲状腺ガンと言われた子どもたちへの市としてのケアはどうなっているのですか」と聞いたら、「担当が違うから分かりません」と言われるのです。きちんとそれに向き合ってくださるような態勢を取ってもらいたいとお願いをしました。ただその態勢も原発事故との無関係を前提としたものであってはならないと思います。子どもたちの健康をしっかりと見守ることを、市に意識してもらいたいと思っています。

確かにある希望、しかし同時にある絶望

独りで放射能への不安を抱えている人がいるならば、その人が望む限り一緒に活動するなり、つながることができればと思っています。この丸4年間、人と人がつながることが大きな望みでした。それは信仰があってもなくても、宗教が違っても、やはり独りで抱えていける問題ではない。だから、人々のつながり、そこには大きな希望があり、喜びがあり、支えがあると思うのです。

だけどその一方で、福島第一原発は非常に危機的な状況が続いていて、毎日7千人近い作業員が被ばくしながら廃炉作業に当たっていますが、次々と困難な状況が生まれています。

私は高線量の厳しい環境で作業する人々の安全を祈ることしかできません。しかし、人間の手には負えそうもない原発事故の向こうには絶望的な状況も見えてきます。

今まで少なくとも私の経験の中では、何か困ったこととか、絶望までいかなくても、本当に心配することがあったとしても、それを何とか解決することができました。しかし、今の状態を見ると、私たちが希望を作り出そうとしても、原発サイトはかなり厳しい現実のまま。希望が絶望を小さくしていくことはあり得ないのです。

【インタビュー】「現実と希望の狭間で」 会津放射能情報センター代表・片岡輝美さん
片岡輝美さんの著書『今、いのちを守る』と、共著書『クリスチャンとして「憲法」を考える』『わたしたちのこえをのこします』『原発とキリスト教 私たちはこう考える』

震災以降、聖書の読み方が変わった

あの原発事故以来、希望を与えられているキリスト者として、この時代をどのように生きるのかと自問する日々が始まりました。聖書を読めば、人々は、その時代の危機や弾圧、課題や生命の脅かしに向き合ってきたことが分かります。もちろん、そんなに強い人たちがいっぱいいるわけではないけれど、失敗しながらも、間違いを犯しながらも、置かれた場で、精一杯生きてきた人々がいたことを知る度に、私も置かれた場で精一杯生きていきたいと思うようになり、震災以降、聖書の読み方が変わってきたのを感じています。

例えば、詩編には、「自分に迫る敵から救い出してほしい」との訴えや嘆きが編まれています。今の私の思いに重ねれば、「敵」は明らかに国家権力です。またさらに、おびただしい原発被害者・被災者がいるにもかかわらず、この4年間加害者が特定されず、日本政府も東京電力も責任を取っていないのです。再稼働や海外輸出を目論む「敵」の圧倒的な権力にあらがう人々の叫びが、詩編と重なります。

夢でお告げを受けたヨセフはマリアをたたき起こし、生まれたばかりのイエスの生命を守るために、暗闇の中を避難し、エジプトを目指しました。その姿は自主避難を決意した親たちの姿そのものです。放射能への恐れは、それを持ち得ない人々には理解できません。しかし、迫り来る危険を察知した親たちは必死で逃げてきたのです。

繰り返し罪を犯す人間は本当に愚かだと思います。しかし、どの時代でも「神の国」を思い描き、それを待ち望み生きてきたのも人間です。

安易に「何とかなる」ではなく、徹底的に絶望を

私はこの時代に生きるキリスト者として、「きっと大丈夫、何とかなる」という簡単な考えは持つつもりはありません。なぜなら、原発サイトの事実を直視し、今、再稼働を食い止めなければ、さらに悪い事態に陥る危険性もあると思うからです。何もしなければ、もっと悪い方向へ行くのです。川内原発が動かされようとしています。今後、再稼働の後、再び原発事故が起きれば、日本は絶望的な事態となります。すでに福島原発事故は日本国内だけではなく、海外にも影響を及ぼしていますが、さらにそれは悪化します。

私は、この時代に生きるキリスト者は、徹底的に絶望しなければならないと考えます。何とかなるという安易な希望は現実を見ていない。この厳しい現実に真っ正面から向き合うには、まず絶望を受け入れなければならない。そこからしか、本当にこの時代にどうやって生きていったらいいのか見えてこないような気が私にはするのです。

【インタビュー】「現実と希望の狭間で」 会津放射能情報センター代表・片岡輝美さん
片岡輝美さんが共同代表を務める「子ども脱被ばく裁判の会」の井戸謙一弁護士が、福島の親たちに送るメッセージが記されたブックレット『怖がっていい 泣いていい 怒っていい いつか、さいごに笑えるように』。会津放射能情報センターで配布している。

教会も社会的な問題に目を背けてはいけない

私は、教会こそ、社会的政治的な課題に取り組むべきだと思います。「配慮」によって取り組みや対話を避けるのであれば、私はその判断に問い掛けたい、「イエスはそのような生き方をしたのですか」と。

そのことに関わらないと判断した時点で、もう私はその事柄を容認していると思うのです。教会の中では原発のことには関わらない、話し合いもしないといったら、もうそれは、具体的にいえば、自分たちには原発が必要だということになるのです。

私は一キリスト者として、言わなければいけないと思うし、言える場があるのだったならば、言っておかなければいけないと思います。「やはりあの時、言えば良かった、やれば良かった」という後悔は、二度としたくないのです。「生命を守りたい」という思いから生まれる言葉や行為は、実は非常にシンプルでもあり、それは、まさに創造主から与えられた生命を最後まで生き抜くことになると信じています。

片岡輝美(かたおか・てるみ):1961年、福島県生まれ。2011年、「放射能から子どものいのちを守る会・会津」と「会津放射能情報センター」を設立し、代表となる。福島の約200人の親子が子どもの人権回復を求めて福島地方裁判所に提訴した「子ども脱被ばく裁判の会」の共同代表。

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