細胞も人も、使命があってこそ生きる

2012年12月17日09時10分 印刷
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+出版記念講演会トークセッションの様子(2012年12月12日、東京都千代田区で)

12日、お茶の水クリスチャンセンター(OCC)で「使命を生きるということ―真のホスピス緩和ケアとがん哲学外来からのメッセージ(青海社)」出版記念講演会が行われた。

同著は淀川キリスト教病院名誉ホスピス長柏木哲夫氏と順天堂大学医学部病理・腫瘍学講座教授樋野興夫氏の共著となっている。同著では今年5月26日に開催された第一回「がん哲学外来―お茶の水メディカル・カフェin OCC」での樋野氏の講演、および「お茶の水メディカル・カフェ開設記念講演会」での柏木氏の講演を土台とした双方の対談内容およびエッセイがまとめられてある。

同日は樋野氏と柏木氏による講演会、および久米小百合氏を交えたトークセッションが開催された。

同著では治療医学が主流である一方、ホスピス緩和ケアやがん哲学外来が本流であるとして、医療の本流における患者に対する親切な対応と苦痛の緩和について論じられており、 自分の命を何のために、どう使うのかを共に考えさせる内容となっている。

がん治療においては抗がん剤治療が主流である一方、緩和医療が本流であることが語られている。同著によると、病院で治療しても治らない病気のひとつであるがんで亡くなる人の84パーセントが病院で亡くなっており、自宅で亡くなるがん患者は7パーセントにすぎないという。

教師、友人を通して教会へ、自然に洗礼

樋野氏と柏木氏は共にクリスチャンであり、末期医療の現場に携わってきた。樋野氏は予備校時代のクリスチャンの教師を通して、また柏木氏は大学時代熱心なクリスチャンの友人に教会に誘われたことがきっかけでクリスチャンとなるに至っている。

柏木氏はキリスト教との出会いについて、「人生を大きく変えたというよりも、自分の基本形成であった」と述べており、樋野氏は自身の尊敬する新渡戸稲造、内村鑑三、南原繫、矢内原忠雄の思想との出会いにおいて、キリスト教は切り離せないものであり、「ひとり静かに学ぶ中で信仰を得て、洗礼に至るのは自然なことだったと思う」と証ししている。

なお、樋野氏が開設した「がん哲学外来」にはクリスチャンがよく相談に来るという。教会で相談せず、「がん哲学外来」に来る理由として、「(一部の教会が)相談をする雰囲気ではない」、日本の教会で相談するとすぐ、「お祈りしましょう」と言われるなどの理由が挙げられているという。教会で「メディカルカフェ」を行うことについても、樋野氏はマイナス(患者)×プラス(牧師)=マイナスとなるため、最初から「説教をしてあげます、相談にのってあげます」という姿勢では行えず、これは「教会と病院の両方の問題に共通している」と指摘している。

柏木氏もいわゆる牧会カウンセリングにおける一部の日本の牧師の問題として相談に行った教会員が気持ちを打ち明けることができないうちに、聖書が開かれ説教されてしまうとき、「(教会員が)心を開けていないから、その教えが入ってこない」ことを指摘している。

医療の世界でも同様に救急医療を終えた段階からは「人間的な心のケア」が重要となるという。

「寄り添う」ためには「人間力」が必要

柏木氏は心のケアを行うにあたって「励ますというのは、人を外から動かそうとすることです。寄り添うというのは、相手から逃げ出さずに空間を共にしなければなりません。
励ますのは上から下への働きかけであるのに対し、寄り添うというのは、横からの働きかけになります」と述べ、「寄り添う」ためには「人間力」が必要であると説いた。

柏木氏は「人間力」について、「聴く力」、「共感する力」、「(相手を)受け入れる力」が大事であると述べた。またユーモアの力について、「ユーモアとは愛と思いやりの現実的な表現です」と説き、つらい状況にもかかわらず笑うことが必要であることを指摘した。

両者は宗教者の役割について、「つらいときの支えや寄り添い、悲しみを背負う」ことが大事であると指摘している。

東日本大震災について、阪神・淡路大震災の遺族ケアにも関わった柏木氏は、「(阪神・淡路大震災と)共通しているのは、突然の思いがけないことで家族を失った、その悲しみの中にあるということ」である一方、異なる点として「ふるさとに帰ることができないたくさんの人がいる」こと、「多数の行方不明者が残されたままとなっている」こと、そして「原発事故という人災があった」ことを挙げている。

柏木氏はこのような心のケアを必要とする現場において、「支えるケア」「寄り添うケア」さらには魂の痛み(スピリチュアルペイン)を背負える神の力が存在することを伝えて行く必要性があると著書の中で述べている。

がんの末期における人間の特徴として柏木氏は「元気なときは魂に『衣』が着せられていますが、末期になると衣が剥げ落ちて、魂がむき出しになります」と述べ、良き死を迎えるにあたって、「地位、名誉、財産、家族」のような「横からくる心の安心」は本当の意味で魂の慰めにはならず、「神、仏、超自然的な力を受け止めるのは魂であり、魂に平安があることが平安な死に必要です」と説明した。

正常細胞が減少、異常細胞が増殖する日本社会に懸念

記念講演会で柏木氏はイザヤ書46節4節を引用し、「今必要になっているのは、魂に対する配慮ができる宗教の力です。つらさや悲しみを背負うことが出来る人が必要です」と述べた。

著書の中で、樋野氏はがん細胞について「自らの使命、つまり真の目標を見失った細胞です。細胞間のコミュニケーション不足によってがんは選択的に大きくなるということもできます」と説明している。樋野氏の研究テーマのひとつは、がん細胞を「使命に立ち返らせる」ことであるという。

「がん哲学」を展開する樋野氏は一方で日本社会について「正常細胞が減少、あるいは劣化し、異常細胞が増殖して、『がん』として大きくなる方向へとあるようにも思えます。使命を自覚して任務を果たす人間が減り、使命を見失い、制御のとれない人間が増えつつあるのではないか。だからこそ、一人ひとりが使命に立ち返ることが必要です」と指摘している。

同著の購入はこちら

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著者略歴

樋野興夫(ひの・おきお)氏:順天堂大学医学部病理・腫瘍学講座教授。1954年、島根県生まれ。「新渡戸・南原基金」第一回「新渡戸・南原賞」、アスベスト・中皮腫外来」で東京都医師会賞など受賞。「われ21世紀の新渡戸とならん」がん哲学 (to beシリーズ)」「がん哲学外来の話~殺到した患者と家族が笑顔を取り戻す」などの著書がある。

柏木哲夫(かしわぎ・てつお)氏:金城学院学院長。大阪大学名誉教授。淀川キリスト教病院名誉ホスピス長。1965年大阪大学医学部卒業。朝日社会福祉賞、保健文化賞など受賞。「心をいやす55のメッセージ」「癒しのユーモア―いのちの輝きを支えるケア」「いのちに寄り添う。 ホスピス・緩和ケアの実際」「死にざまこそ人生」などの著書がある。

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