9日、世田谷烏山区民センター(東京都世田谷区)で信教の自由を守る日記念講演会が開催され、牧師で宗教改革研究者の渡辺信夫氏(89)が「第一の敗戦と第二の敗戦―3.11からみえてきたもの」と題して講演を行った。講演を主催した日本キリスト教会東京告白教会は毎年2月11日、8月15日の近くに、聖書を通して教えられたことを分かち合い、共に考えて戦っていくべきことについて地域の人の中に出て行って講演会を開いている。
1945年太平洋戦争敗戦時に23歳で海軍少尉であった渡辺氏は、自身の戦争体験を証し、海上で輸送船の護衛に当たっていた間、実際に死を覚悟していたこと、また抽象的に漠然と「死」について考えるのではなく、具体的に自分の死について覚悟するとき、死というものが無意味で無残であり、戦死した事実を海軍省が「壮烈な戦死を遂げた」と事実と全く無関係な作文が作られることについて「死後に私の死をいじくって別のものに仕立てられるということに耐えられないと感じました」と証しした。
「戦争は人を死なせるだけではなく、死の意味を偽り、美化している」と指摘し、戦時中キリスト者であった渡辺氏は、戦時の自身の信仰について「軍国主義の中で危険視されない程度に骨抜きにされていた。死を美化してしまうことを受け入れてしまういいかげんさ、自分自身の思想についていいかげんであった」と証しした。
渡辺氏は「戦中も大量の死と破壊に満ちていたが、戦後も同じく大量の死と破壊が社会に満ちていた」と感じてきたことを伝えた。多数の死者が生じた戦中に海軍少尉として輸送船の護衛艦で指揮を執っていた渡辺氏は、「自分自身が今日こそ死なねばならぬと覚悟する機会」が戦争体験の中で生じ、そのことが、生き方を転換されるほどその後の人生への影響を及ぼしてきたという。それまで「戦争で死ぬための生き方」をしていたのが、「生かされた人間として生かされただけの生き方を『平和ならしむる者は幸いなり』と聖書が語っているように、平和のために奉げる生へ」と戦後に方向転換するに至ったという。
渡辺氏は戦中の敗戦までの自身の考え方の誤りについて「国家の存在を大きいものとして考え過ぎた」こと、「自分の信ずることを曖昧にし、NOと言うべきところでNOと言わない自分がいた」ことを挙げ、「きっぱりそれまでの姿を捨てて生きなければ、戦争に生き残った意味がない」ことを悟ったという。
二度と国家の過ちには与しないことを心に決めた渡辺氏は、戦前の自身が積んできた学問が粗雑で偽りであったことを反省し、「これまで考えて来たことの何が間違っていたのか、自分でえぐり出していかなければならない」と覚悟し、自分の思想と思考の再検討を行うに至ったという。
戦後、神学を学び始めた渡辺氏は「これで良いと思っていた判断のいい加減さを叩き直す訓練を行い、自分をごまかす歩みを悔いて、逆の歩みができるように努めた」という。さらにキリスト教を論じている人たちのいい加減さにも気づくようになったという。敗戦にあって、この敗戦は軍事的な敗北であるだけでなく、むしろ精神的な敗北であるということも益々見えてくるようになり、「明治維新以来の日本国家の方向が誤っていました。それが敗戦という結果となりました。国全体が誤った方向に進んでいくときに、その方向に調子を合わせていたのが、日本のキリスト教であったと確認しました。そして方向の間違いを考えないクリスチャンが今も多いという事は事実だと思っています」と伝えた。
また戦後の戦争責任について、「他の人の失敗の追求よりも先に、私自身の失敗を究明することが重要である」と考え、「自分の戦争責任」に焦点を置いて考えたという。日本のキリスト教はこの間違いを掘り起こして摘発することを怠ってはならないと感じてきたという。渡辺氏は「戦争の時からずっと敗北感が続いてきました。自分自身に関しては、自分を打ちたたきさえすれば、決意した事は何とかやり遂げられると思いますが、自分以外の人を変化させる点ではほとんど何も出来なかったと思います。戦争の中でやっていたごまかしが戦後も続いています。そういうごまかしに気づかなかったわけではありませんでしたが、『やがては良くなるであろう』という楽観が入り込んで、闘いは鈍ってきました。信念はどうにでも作文できます。戦争末期に『徹底抗戦』を論じていた人たちがいますが、そのような『信念』をもって平和のために尽くすと言っている人もいるわけです。『信念があるから貫く』ということでは、貫けないものがあるという事をますます強く感じるようになってきています」と述べた。
次ページはこちら「悲しみが経済的繁栄にすり替えられた第一の敗戦」
クリスチャントゥデイからのお願い
皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。
人気記事ランキング
-
世界のクリスチャン700万人が参加、テクノロジー駆使した25時間集会「Gather25」
-
バチカン、教皇フランシスコの写真公開 2月の入院後初めて
-
癒やしの勝利を求めて祈ろう 万代栄嗣
-
シリアの「キリスト教徒虐殺」は根拠ない 現地人に危険もたらすと迫害監視団体が警鐘
-
罪とは都合の良い言葉である(その1) マルコ福音書14章27-31節
-
パリ外国宣教会、所属司祭らによる性暴力の報告書を公表 日本でも被害訴える声
-
篠原元のミニコラム・聖書をもっと!深く!!(218)聖書と考える「119エマージェンシーコール」
-
日本キリスト教病院協会、新会長に笹子三津留氏
-
ナイジェリア4州でラマダン中に学校閉鎖、キリスト教系も 「危険な前例」と批判の声
-
キリストを待ち望む 岡田昌弘
-
パリ外国宣教会、所属司祭らによる性暴力の報告書を公表 日本でも被害訴える声
-
シリアの「キリスト教徒虐殺」は根拠ない 現地人に危険もたらすと迫害監視団体が警鐘
-
日本キリスト教病院協会、新会長に笹子三津留氏
-
鈴木結生著『ゲーテはすべてを言った』 牧師の息子が書いた芥川賞受賞作
-
バチカン、教皇フランシスコの写真公開 2月の入院後初めて
-
ナイジェリア4州でラマダン中に学校閉鎖、キリスト教系も 「危険な前例」と批判の声
-
癒やしの勝利を求めて祈ろう 万代栄嗣
-
世界のクリスチャン700万人が参加、テクノロジー駆使した25時間集会「Gather25」
-
狭山事件で冤罪訴えた石川一雄さん死去、86歳
-
聖書のイエス(5)「もしあなたがたが盲目であったなら」 さとうまさこ
-
カトリック作家の曽野綾子さん死去、93歳
-
日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請
-
鈴木結生著『ゲーテはすべてを言った』 牧師の息子が書いた芥川賞受賞作
-
教会で斬首されたキリスト教徒70人の遺体見つかる コンゴ東部北キブ州
-
熱心な仏教徒の青年が救われた実話がベースに 伝道用トラクトを無償提供
-
バイセクシャルの黒人女優シンシア・エリボがイエス役に 配役巡り批判の声も
-
パリ外国宣教会、所属司祭らによる性暴力の報告書を公表 日本でも被害訴える声
-
リック・ウォレン牧師、十字架にまつわるSNS上の政治的投稿を削除し謝罪
-
「苦しみ」と「苦しみ」の解決(2)見える困難に「苦しみ」を覚えるメカニズム 三谷和司
-
レント初日の「灰の水曜日」 ドライブスルーで灰を授ける教会も