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イエス伝

「イエス伝」(47)・・・イエスの十字架上での七つのことば 平野耕一牧師

2010年10月5日10時24分
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関連タグ:平野耕一

【イエスの十字架上でのことば・・・第1】

「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです」

イエスと一緒に二人の強盗が、一人は右に、一人は左に十字架につけられたということで、イエスが聖人として十字架につけられたのではないことが明らかである。犯罪人たちの真ん中につけられたということは、極悪な犯罪人として十字架に釘づけられたということだが、全世界の罪を負ったのだから、極悪な犯罪人として扱われるのは当然だろう。

十字架を囲む人々は、イエスをののしり、笑いものにする。「もし、神の子なら、自分を救ってみろ。十字架から降りて来い」「彼は他人を救ったが自分を救えない」「今、十字架から降りてもらおうか。そうしたら、われわれは信じるから」「もし、神のお気に入りなら、いま救っていただくがよい」「ユダヤ人の王なら、自分を救え」とイエスを辱めることばが浴びせ掛けた。

そのとき、聞く者の心を揺さぶることばがイエスの口から発せられた。「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです」

イエスをあざ笑う者の中には、十字架刑をもくろんだ祭司長たち、民衆をそそのかした律法学者たち、冒涜罪でイエスを訴えた人々、暴虐な裁判を行った議員たち、鞭を打った兵士たち、二人の犯罪人たち、イエスを見捨てた弟子たちもいた。「彼らをお赦しください」は、それら全ての人たちを含んでいるのだ。

【イエスの十字架上でのことば・・・第2】

「まことに、あなたに告げます。あなたはきょう、わたしとともにパラダイスにいます」

十字架につけられた犯罪人の一人は「あなたはキリストではないか。自分と私たちを救え」とあざ笑った。人間はどこまで極悪なのだろうか。自分は殺人の罪を犯して刑を受けているのに、イエスを嘲笑しているのだ。

ところが、もう一人が彼をたしなめて言った。「おまえは神をも恐れないのか。おまえも同じ刑罰を受けているではないか。われわれは、自分のしたことの報いを受けているのだからあたりまえだ。だがこの方は、悪いことは何もしなかったのだ」

彼はお願いする。「イエスさま。あなたの御国の位にお着きになるときには、私を思い出してください」それに応えて、イエスの第2のことばが発せられた。

「まことに、あなたに告げます。あなたはきょう、わたしとともにパラダイスにいます」

このイエスの一言は、キリストの救いとは何かを明らかにしている。

1. 信じるだけで救われる。救いのための唯一の条件は信じることだ。人間の善行や功績は一切問われない。信じるとは、この強盗のように自分の罪を悔い改め、救いのために全面的にイエスを信頼することなのだ。

2. どんな人でも救われる。殺人犯でも赦されたのだから、神の広大な恵みが包むことのできない罪はないのだ。

3. 死後はパラダイスに入る。「あなたはきょう」、つまり最後の息を引き取った次の瞬間に、私たちはパラダイスにいるのだ。

4. 救いは永遠です。一度天国に入ったら、出たり入ったりするものではなく、そこは永遠の住まいなのだ。

【イエスの十字架上でのことば・・・第3】

「女の方。そこに、あなたの息子がいます」

十字架上の第3のことばは母マリヤに関するものだが、十字架のそばで母マリヤをエスコートしている若者、最年少の弟子ヨハネに母マリヤとの間に養子関係を結ばせたのだ。

母マリヤはイエスが人々から見捨てられ、あざけられ、極度の苦しみが加えられても、イエスを信頼し続け、すぐそばでイエスを見守り続けた。母マリヤの存在がどれほどイエスを慰め、励まし、耐え抜く力を与えたことだろうか。まさしく水の枯れた砂漠の一滴の水でした。

しかし、愛してやまない母の老後の世話をすることができない。人間イエスとしては、一大使命のためとはいえ母を残していくということはやはりつらかったのだ。それで、最も信頼を置いている弟子ヨハネに母を託した。

イエスは、母と、そばに立っている愛する弟子とを見て、母に「女の方。そこに、あなたの息子がいます」と言われた。それからその弟子に「そこに、あなたの母がいます」と言われた。その時から、この弟子は彼女を自分の家に引き取った。

イエスは母を愛し、敬まった。十字架の極度の苦しみの中にも、母のケアを忘れることなく、最善のはからいをしたのだ。

【イエスの十字架上でのことば・・・第4】

3時ごろ、イエスは大声で、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と叫ばれた。これは、「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。

残る十字架上の4つのことばは、最後の息を引き取る数分前になって発せられたものだが、朝9時に十字架につけられ、午後の3時になった。

第4番目のことばは、激しい叫び声だった。恐らくこのことばを耳にした者を震わせ、その心に刻み込まれたのだろう。聖書は、このことばだけはアラム語のまま掲載している。「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」、「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味だ。

肉体の極限の痛み、それに加えて、イエスの魂には全世界の罪の重荷が置かれた。その瞬間、神から見捨てられたと実感し神から切り裂かれた痛みを魂に感じた。イエスは孤独だった。人々からも神からも見捨てられたと感じたのだ。

十字架は絶望的な孤独でもあるが、イエスに襲いかかった全人類の罪は神との関係を断絶したのだが、イエスは底なしの穴に落ちて行くような孤独を経験されたのだ。

まことに、彼は私たちの病を負い、私たちの痛みをになった。

だが、私たちは思った。

彼は罰せられ、神に打たれ、苦しめられたのだと。

しかし、彼は、私たちのそむきの罪のために刺し通され、

私たちの咎のために砕かれた。

あなたも厳しい孤独を経験していますか。「誰からも理解してもらえない」「誰も自分の心の声に耳を傾けてくれない」「誰とも心を交わすことができない」「心と心の触れ合いは全くない」しかし、イエスはあなたに向かって言われるでしょう。「わたしはあなたの孤独を理解することができる」と。

【イエスの十字架上でのことば・・・第5】

「わたしは渇く」

5番目のことばは「わたしは渇く」日照りの中で6時間も十字架につけられ、多量の血が流されているので、渇くのは当然だろう。

しかし、 イエスが渇いていたのは水分だけではなかったのだ。

1. 神を求めて渇いていた。一人の詩人は告白しました。

鹿が谷川の流れを慕いあえぐように、

神よ。私のたましいはあなたを慕いあえぎます。

私のたましいは、神を、生ける神を求めて渇いています。

どうしてここで鹿が渇くことが取り上げられているのでしょう。鹿の喉の粘膜はセロファンのようなものだ。渇くとぴったりくっついて離れなくなり、渇きが満たされないと、鹿は窒息してしまうのだが、鹿は命懸けで谷川の流れを慕いあえぐのだ。イエスも同じように、生ける神を求めて渇いていた。

2. 全世界の魂に渇いていた。

イエスがこれほどの苦しみと辱めと孤独を味わわれたのは、人々の魂の救いのためでした。もし魂の救いが起こらなければ十字架の苦しみは無意味になってしまう。十字架上のイエスが全世界の魂を求めて渇いているのは当然だが、それは今日でも変わらない。

【イエスの十字架上でのことば・・・第6】

「完了した」

第6番目のことばは「完了した」であった。神の救いの計画が成就した、という意味である。人類が罪を犯したときに救いの計画がすぐに立てられ、その計画が歴史の中で進展を続けてきたのだが、ついに十字架において完了したのだ。この完了を宣言されたイエスの心は、痛みの中でも喜びに溢れていたに違いない。

天における栄光、栄華、尊厳を捨てて地上に下り、馬小屋で生まれ、貧しき大工の子供として育てられ、彼自身大工となり、3年間の伝道の末に十字架で神の計画のすべてが終了し、救いは完成した。すべては、この日、この時のためであった。

イスラエルの民は数千年にわたって、神殿で羊や牛や山羊を毎日殺しては、神に捧げていた。年ごとに祝われる過ぎ越しの祭りには、実に数千頭にも及ぶ羊が殺され、数カ月後のあがないの日にも、数え切れない動物の血を流しイスラエル国民の一年の罪をあがなった。

イスラエル人なら誰でもあがないが完成していないことを知っていた。完成したなら、動物の血を捧げることは終わったはずなのだ。イエスは動物の血ではなく、罪汚れのない血を一度だけ流して、全世界の全人類の罪を解決してしまった。イエスがあれほど苦しまなければならなかった理由がここにある。あがないは成就した。後は、彼から罪のゆるしを受け取るだけなのだ。

【イエスの十字架上でのことば・・・第7】

「父よ。わが霊を御手にゆだねます」

最後となることばは「父よ。わが霊を御手にゆだねます」だった。第4番目の「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか」と比べて考えてみよう。

1. 呼び掛け。「わが神」と「父よ」の違いがある。全世界の罪の重荷を実感し、神から見捨てられ、切り裂かれた時の呼びかけは「わが神」でした。父との一体感は喪失し、孤独な魂が激しく神に叫んでいる。あがないが完了したと知り、最後に息を引き取るとき、父との一体感は戻ってきた。きっとバプテスマを受けた時のことばが聞こえてきたのだろう。

「あなたは、わたしの愛する子。わたしはあなたを喜ぶ」

イエスは最後の瞬間、喜びに溢れ、栄光に輝く父の笑顔を見たに違いない。その一体感のゆえに、再び「父よ」と叫ぶことができたのだ。

2. 「どうしてわたしをお見捨てになったのですか」と「わが霊を御手にゆだねます」を比べてみよう。すべてのつながりを失った不安におののく魂の叫びの代わりに、絶対的信頼の中に深く安息している魂を見る。イエスは自分にもサタンにも最終的勝利を勝ち取ったのだ。それは、最後まで父なる神への信頼を貫き通すことによってである。

イエスは神から出て神へと帰られた。父のふところを離れて地上に下ったが、御手にゆだねて天上に昇られたのだが、「わが霊を御手にゆだねます」というこのことばこそ、イエスの勝利宣言だった。

福音書は人間としてのイエスの姿を克明に描いているが、イエスは人間のあるべき本来の姿であり、人間としての生き方を見せてくれているのだ。それは、神を信頼して生きるという生き方である。

私たちの頭では到底理解できないことが、人生には起こる。誤解も嘆きも戦いもあれば、苦しみも辱めも孤独も経験する。人間イエスが示した生きざまは、まさに次のみことばのとおりだ。「心を尽くして主に拠り頼め。自分の悟りに頼るな。あなたの行く所どこにおいても、主を認めよ」イエスは、十字架という苦しみの極限ですら、神に信頼できることを私たちに示してくれたのだ。

◇

平野耕一(ひらの・こういち):1944年、東京に生まれる。東京聖書学院、デューク大学院卒業。17年間アメリカの教会で牧師を務めた後、1989年帰国。現在、東京ホライズンチャペル牧師。著書『ヤベツの祈り』他多数。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:平野耕一
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