ベルギーは、その地理的・歴史的背景から、欧州でも特に複雑な国の一つである。ローマ帝国の時代から、ラテン系とゲルマン系の文化が交錯する境界線に位置し、南部のワロン人(主にフランス語話者)と北部のフラマン人(オランダ語系フラマン語話者)の対立や分断が根深く残っている。言語と文化の違いは、単なる地域差にとどまらず、経済政策・政治制度・教育・宗教的意識にまで影響を与え続けており、国家の統一に関する議論もしばしば起こっている。
この複雑さに拍車をかけているのが、移民の急増と多文化化なのだ。特にイスラム系移民の存在感が高まり、ブリュッセルをはじめとする都市部では、人口の過半数が移民系住民で占められている地域もある。こうした社会の構造変化は、ベルギー国内の宗教状況にも大きな影響を与えている。
近年、ベルギー社会では急速な世俗化が進行しており、無神論者および非宗教者が全人口の3割超を占めるとされている。国民の約5割がカトリックと自認しているものの、定期的にミサへ通う者は7%前後に過ぎず、信仰は形骸的なものにとどまっているケースが多い。プロテスタント系の教会もまた会員数の減少に直面しているが、移民系福音派教会やペンテコステ系教会では、活気ある信仰が見られる。
特筆すべき変化の一つは、2006年に始まった聖書協会による全国的な聖書啓発活動だ。1960年まで、カトリック教会が自由な聖書読解を抑制してきた歴史がある一方で、フランス語聖書協会とフラマン語聖書協会が共同で新しい翻訳聖書を紹介し、各地の教会や学校を通じて神の言葉への関心を促進したのである。
ベルギーは宗教的・文化的に複雑な国家であるが故に、教会が一致と和解の模範となることが極めて重要だ。キリストの体としての教会が分裂を越えて協力し合い、神の言葉に根ざした希望と平和を提示できるように、今後のベルギーにおける福音的な聖書信仰のために祈ろう。
■ ベルギーの宗教人口
カトリック 47・7%
プロテスタント 1・3%
無神論者 32・1%
ユダヤ教 0・4%
イスラム 4・4%
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