コロナパンデミックで世界が変わる 米ニューヨークで感染経験の打木希瑶子さん

2020年5月20日11時34分 執筆者 : 打木希瑶子 印刷
+コロナパンデミックで世界が変わる 米ニューヨークで感染経験の打木希瑶子さん
シャッターが降りた通り。ニューヨーク市内はまだ大通りに面した店舗も閉店中のところが多い。

クリスチャントゥデイは2002年の創立以来、多くの皆様に支えられ、5月20日で満18周年を迎えることができました。これまで長きにわたり、ご愛読・ご支援いただき、誠にありがとうございます。創立18周年を記念して、今年は新型コロナウイルスが世界を席巻している状況を踏まえ、「100年に1度のパンデミック、教会は何を問われているのか?」をテーマに企画を用意致しました。コロナサバイバー、牧師、神学校教師、大学教授、政治家、ホームレス支援者など、さまざまな立場の方から寄稿を頂きました。第1回は、米ニューヨーク在住のゴスペル音楽プロデューサーで、新型コロナウイルスに感染し回復された打木希瑶子さんの寄稿をお届けします。

注意喚起の投稿後、自身も感染

私がフェイスブックにニューヨークにおける新型コロナウイルスの被害について投稿したのは3月27日。この投稿は国内外を問わず多くの反響があり、教会の礼拝や新聞でも紹介され、フェイスブックでは千人以上の人たちにシェアされました。投稿で感染予防を呼び掛けていた私でしたが、4月5日には自分自身が発症。「あれだけ注意していたのに」と、最初はショックでしたが、「これも神様が何か私に伝えたいのであろう」と受け止め、一人で隔離生活を始めました。37・6度の熱が3日間続いたものの、私の体内の免疫が正常に機能していたようで、少しずつ回復。味覚と臭覚障害や軽いせきが残ったものの、約1カ月後には、ほぼ元通りになりました。

最もつらかったのは味覚・臭覚障害。味覚と臭覚がないので、まったく食欲が出ません。おなかはグルグル鳴っていても、何も食べようという気にならないのです。一番驚いたのは、カレーを作ってもまったく味も臭いもしなかったこと。口にしても何を食べているのか分からないという感覚は、生まれて初めてでした。味が分からないので、どれだけの塩や糖分が入っているのかも分かりません。臭いがしないので、腐っているのかどうかも分からない。見た目だけが頼りです。味覚と臭覚が正常に機能していないと、どれだけ危険かということを思い知らされた日々でした。

世界で最も被害を受けたニューヨーク

ニューヨークはご存じの通り、世界で最も新型コロナウイルスの被害を受けた地域です。5月19日現在、ニューヨーク州の感染者数(カッコ内はニューヨーク市)は35万2845人(19万1650人)、死者数(同)は2万2843人(1万6059人)。特にニューヨーク市の被害は、ご覧の通りひどいものです。カナダ国境まで広がる広大なニューヨーク州で、被害者の半数以上はニューヨーク市民であることが分かります。ニューヨーク市は、観光やビジネス、留学などで、全米だけでなく海外からも多くの人が訪れる地域です。ニューヨークと欧州諸国は、東京と比べれば約半分の距離である5~6千キロ程度しか離れておらず、 多くの人が訪問します。「米国の新型コロナウイルスは欧州から持ち込まれた可能性がある」と発表されているとおり、ウイルスを持った訪問客が、それに気付かずにニューヨークで拡散してしまったようです。

3月1日、ニューヨーク州で初の感染者が確認されたころには、もう既に感染が拡大してしまっていたと考えられます。ニューヨーク州知事はすぐにでも「外出禁止令」を出したかったようですが、なかなか調整がつかず、実際に実施されたのは3月22日でした。その間にも感染はどんどん広がり、遺体の安置所が足りなくなったり、冷蔵トラックに遺体を保存したりするほどでした。私も新型コロナウイルスにより、5人の友人・知人を失いました。 葬儀を行うこともままならず、SNSでしか友人の訃報が知らされないという悲劇は今も続いています。しかし、それでも当初懸念されていた「医療崩壊」を食い止めることができたのは、ニューヨーク州知事やニューヨーク市長の素晴らしいリーダーシップと、リーダーに懸命に協力した市民によるものだと思います。

コロナパンデミックで世界が変わる 米ニューヨークで感染経験の打木希瑶子さん
ニューヨーク市内のマクドナルド。店内に入ることは禁止されており、テイクアウト専用の窓口から注文するかオンライン注文、またはウーバーイーツ(UberEats)などの配達のみとなっている。

起きたのは暴動ではなく「愛」の行為

私は当初、「外出禁止令」が発令されれば、暴動が起きるのではないかと思っていました。職を失い、その上、外出もできないとなると、市民の怒りやストレスが爆発すると思ったのです。しかし、私の予想はまったく外れていました。暴動どころか、市民から出てきたのは怒りではなく、多くは愛でした。レストランが閉店すると知った客は、職を失うであろうウェイターたちに「少しでも足しになれば」とチップを多めに置きました。スーパーの行列にお年寄りや妊婦、障がい者がいれば、人々は積極的に「お先にどうぞ」と声を掛けます。家の近くのコインランドリー前のベンチには「必要な人はどうぞご自由に」と、近所の人たちが缶詰などを置いていたこともあります。警察は、住民たちがルールを守り、安全に過ごしているかを確認するために24時間態勢でパトロールしています。

また、ニューヨーク州知事やニューヨーク市長は、連日住民たちのために会見を行って最新情報を伝え続けています。細部にわたるまで何が起きているかを把握し、問題が起これば対処できるように動いています。私の携帯電話にも1日に数回、ニューヨーク市からテキストメッセージが送られてきます。これは登録すれば、誰でも受け取ることができます。「家庭内は安全ですか?」「毎日3食用意していますので、必要な人は利用してください」「外出するときはマスクを忘れずに」などです。新型コロナウイルスに襲われたニューヨークはすぐに「経済的な問題は後。まずは市民の命を守る」という方向性を即座に決定し、行動を起こしました。その決断力と行動力の速さは見事でした。経済的な保証も約束されたため、市民は安心して「Stay Home(自宅待機)」を実行しました。4月に最悪の事態が待っているといわれていましたが、これも市民の自宅待機が功を奏し、予想よりも早く感染者数・死者数が減少してきました。

いつの頃からか毎晩7時になると、マンハッタンを中心にニューヨーク市民は窓を開けて数分間拍手をし、医療機関などで働いている人々のために感謝の気持ちを示すようになりました。最初は拍手だけだったのですが、手が痛くなるので最近はラッパやタンバリン、マラカス、笛などの楽器を使うようになりました。車に乗っている人は、クラクションを鳴らします。声援もあります。毎日やっているので、何となくこれが始まると、「あー、今日もみんな無事で過ごせて良かったなあ」と思うようになりました。

コロナの「おかげ」できれいになった空気

確かに、このコロナパンデミックは経済的には大変な損失をもたらし、好きなことができないという不満や、健康に対する不安をもたらしています。しかし先に書いたように、このパンデミックを通して米国内だけでなく、世界中で良いことも生まれてきています。新型コロナウイルスに感染して起こるのは肺炎ですから、きれいな空気が重要です。皮肉なことに、「ロックダウン」といわれる都市封鎖や外出自粛によって、私たちが呼吸するのに必要な空気がきれいになってきているといわれています。CNNは「世界の都市の大気汚染、ロックダウンで異例の改善」(4月25日付)と報じました。記事には次のようにあります。

汚染が世界で最も深刻な都市として名指しされることの多いインドのニューデリーでは、3月23日~4月13日のPM2・5濃度が昨年より60%も低下。期間中、汚染指数が「不健康」なレベルにあった時間数の合計は、全体の68%から17%に激減した。

他にも、ソウル(韓国)やロサンゼルス(米国)、ロンドン(英国)、マドリード(スペイン)、ローマ(イタリア)で大気汚染が改善されたことが伝えられています。

コロナパンデミックで世界が変わる 米ニューヨークで感染経験の打木希瑶子さん
1ドルショップのチェーン店。日本の100円ショップのような店で、少しでも出費を控えようと利用者が多く、いつも開店から閉店まで行列ができている。

エッセンシャルワーカー、変わる仕事のスタイル

経済的な損失は世界各国でいわれていますが、果たしてこれは私たちにとって本当に損失だけなのでしょうか。確かに多くの人が職を失い、収入が得られなくなりました。しかし、増えている仕事もあるのです。医療機関やIT業界での仕事は確実に増えています。オンラインでの買い物や出前のオーダーが増えたために、配達員の仕事は増えています。オンラインショップの代表的企業「アマゾン」は、前年の同じ時期に比べて、今年1月から3月までの売り上げが26パーセントも大幅増となったそうです。

さらにコロナパンデミックを通して、生活するのになくてはならない仕事と、そうではない仕事も振り分けられました。米国では「エッセンシャルワーカー」という言葉が日常的に聞かれるようになりました。エッセンシャルとは、私たちが生活を営む上で欠かせないことを意味します。医者、看護師、介護士、清掃員、販売員、配達員、運転手、教師、公務員、農業従事者、工事現場の作業員などです。この世の中で「最低限必要な仕事」が明らかになったのです。

しかし、これらの仕事の中には「最も必要な仕事」であるにもかかわらず、給料が安かったり、地位が低かったり、危険な仕事として見られていたものもなかったでしょうか。コロナパンデミックは、エッセンシャルワーカーが充実していれば、私たちは安心して暮らせるということを証明しました。医者や看護師が増えれば、患者一人一人に向き合う時間も長くなるでしょう。介護士や教師が増えれば、一人一人にもっと細かく目が行きわたるでしょう。清掃員が増えれば、常に職場も学校も公園も清潔で安全になるでしょう。農業従事者が増えれば、常に新鮮な食べ物を口にすることができるでしょう。配達員が増えれば、人々は時間を有効に使うことができますし、高齢者や病人、小さなお子さんがいるお父さん・お母さんには心強い味方となるでしょう。公務員をサポートする仕事が増えれば、市民への対応も丁寧になり、安心できる社会を作っていけるでしょう。工事現場の作業員が増えれば、インフラも充実することでしょう。

多くの人が自宅勤務となったことで、オフィスへの通勤が本当に必要かどうかも、明らかになりました。会議もオンラインで行うと用件だけで済み、時間が短くなったという人がいます。通勤がなければ、子育てしながら自宅で仕事をすることもできます。自宅勤務だと余計な電話が鳴らないし、同僚との無駄話もないので、自分のいつもの仕事量を半分以下の時間で済ますことができているという人もいます。通勤時間もいらないし、通勤ラッシュや渋滞もないので、1日に2時間ほどプライベートの時間が増えたという人もいます。

大活躍する教会と苦境に立たされる教会

教会の働きも変わりました。もともと地域社会への貢献を重んじていた教会は、コロナパンデミックの中で重要な役割を果たし、大活躍しています。集会は行うことができなくても、地域の人々に食事や日用品を提供したり、精神的につらい人たちのために電話やオンラインで相談を受け一緒に祈ったり、情報提供をしたりしています。インターネットを以前から活用していた教会は、礼拝や祈祷会、聖書勉強会などもスムーズにオンラインに移行できました。つまり、どんな状態であっても「愛」を隣人に惜しみなく提供することができているのです。これにより、教会に対する信頼度は高まり、教会員からの献金は減ったものの、それ以外の人々からの寄付が集まっています。パンデミック収束後、このような教会はより発展するでしょうし、教会やクリスチャンに対する好感度は大いに高まるはずです。

しかし、教会内の儀式だけを重んじていた教会や、これまでインターネットを活用していなかった教会は、正反対の道をたどっています。「礼拝ができない=献金が集まらない」からです。礼拝がメインで地域社会への働きに力を入れていなかった教会は、教会運営のための財源を失ってしまいました。集会を禁止する命令が出ても、それを無視して礼拝を行う教会もあり、逮捕される牧師まで出てしまったことも記憶に新しいと思います。

コロナパンデミックで世界が変わる 米ニューヨークで感染経験の打木希瑶子さん
小売店の入り口。「店内ではマスク着用をお願いします」という手書きの張り紙が貼られている。

気付かされた「当たり前」の恵み、社会のゆがみ

コロナパンデミックで今、世界中の人が最も感じていることは、今まで「当たり前」にあったことが、実は素晴らしい恵みであったということではないでしょうか。よく考えてみてください。私たちがコロナパンデミックに襲われるよりもずっと前から、この地球上ではさまざまな問題が起きていました。不安定な政治情勢や災害などによる食糧危機、餓死、伝染病、不十分なインフラ、貧困、差別、家庭内暴力(DV)、また先に言った環境問題などもそうです。この地球上にはたくさんの問題があったにもかかわらず、私たちの多くはそれらのことに目を背けてきてしまったのです。それなのに、コロナパンデミックが起きて自分たちの生活に問題が起きたら、急に大騒ぎをしています。私たちは何と自分勝手なのでしょう。大きな問題はコロナパンデミックが起きるずっと前からありました。私たちは、自分たちの生活が失われて初めて、それらに目を向ける機会を与えられたのです。

私たちは、気付かないうちに「一部の人だけが裕福になる」というピラミッド社会を作ってしまいました。オックスファム(世界90カ国以上で貧困問題に取り組む国際協力団体)の世界の不平等に関する年次報告書によると、「世界の最富裕層2153人は、最貧困層46億人よりも多くの財産を保有している」といわれています。つまり、貧困は世界からなくすことが可能なのですが、私たちが仕組みを変えようとしていないのです。神様は、そのような世界を作ってしまった私たちに「考えを改めろ」と言っているように思います。

方向転換を始めたリーダーたち

それに気付いた富裕層が、今回のコロナパンデミックを機に財産を寄付し始めています。彼らは全員「コロナパンデミック後、世界は同じではない」と言っています。実業家でもあるマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長は、新型コロナウイルス対策に協力するため、最大1千万ドルを拠出するとニューヨーク州知事に申し出ました。ツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は新型コロナウイルス対策に10億ドル、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ会長兼CEOは治療薬の開発に3億ドル、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは米国のフードバンクに1億ドル、他にも多くの実業家たちが自分の財産を社会のために使うことを決めました。

聖書は「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」と教えています。これはビジネスリーダーたちに対しては、「利益ばかりを追求するのではなく、社会に貢献できなければ、一流とはいえない」と言っているようにも聞こえます。世界のビジネスリーダーのトップたちは、既に方向転換を始めたのです。

コロナパンデミックにより、大切な人や仕事を失った人たちがいます。アジア人差別がひどくなった国や地域もあります。しかし、そういった悲しみを通さなければ、私たちは「一番大切なこと」を思い出せなくなってしまっていたのかもしれません。

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打木希瑶子

打木希瑶子(うちき・きょうこ)

米ニューヨーク在住のゴスペル音楽プロデューサー。米国のスピリチュアル音楽レーベル「Pure Soul Music」の代表も務め、アジア人として初めて全米最大級のゴスペルコンテストの審査員に選ばれる。日本の「オレンジゴスペル」の企画者でもあり、ゴスペル音楽を使って「子ども虐待防止 オレンジリボン運動」の啓発にも協力している。米ニューヨーク・ハーレムのベテル・ゴスペル・アセンブリー教会で、日本人訪問者のためのバイブルクラスを担当。毎年、100人近い日本人が教会を訪問している。2016年秋からは、毎週水曜日午後10時(日本時間)にオンラインでのバイブルクラス「国際人としての常識“聖書”を学ぼう」を開催している。講演・執筆活動への依頼、その他のお問い合わせは、info@nyhcllc.com まで。

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