児童福祉法・児童虐待防止法の改正を受けて(2)連携の糸口としてのマルトリートメントの概念 千葉敦志

2019年6月25日16時23分 執筆者 : 千葉敦志 印刷
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※ 写真はイメージです。

現場はどのように向き合うべきか

現実に目を向けてみると、最近では保育所や幼稚園などから「虐待が疑われるのだが通報すべきか」「どうすればいいか」といった質問を受けることが多々あり、まだまだ児童虐待対応には、現場側の隙も多く存在していることが見て取れます。守秘義務の拡大解釈や縮小解釈により、現場連携がうまく進まなかったり、支援に失敗したりするケースも実際に起こってしまいました。このことについては、これらの隙を埋める作業を、地道に、そして継続的に実施する必要がありますが、そこに関しては、今回の児童福祉法や児童虐待防止法の改正では定義されていません。

虐待の通報は、法的には「国民の義務」と定められてはいるものの、現場の施設では「組織としての対応」であると考えている場合が多数見受けられます。虐待の通報責任は、個々人が負わされる通報責任の延長で設定されているものであり、本来的には園長であっても「あれは虐待じゃない」とか「ちょっと様子を見ましょう」という判断の権限は付与されていないのですが、そのことを理解していない場合も多く見掛けます。そのような場合、「お宅の在籍児の〇〇ちゃんが虐待を受けているという通報があり、情報を提供していただきたいのですが」という電話が、いきなり施設にかかってきて対応を検討せざるを得ないケースも見聞きします。要は、法体系がどれだけ整備されても、その内容が初動の段階からまだ周知されていないということの方が問題だと思っています。

さらには、通報を受けて市町村が設置する「要保護児童対策地域協議会」についても、その構成人員の虐待に関する知見が乏しかったり、運用についてはまだまだ手探りだったりする場合が多く、情報共有だけに終始してしまうケースも多いようです。

虐待の指向が変わってきた

さて、今回の法改正を待つまでもなく、虐待に関する情報収集については、2016年度に対して17年度の通報件数が速報値(昨年8月30日時点)で過去最多の13万件超で、約9・1パーセントの増加と報告されています。この増加の背景には、①通報義務の周知が図られてきたこと、②相談受け付け体制の強化、③虐待の定義の広がり――などの影響もありますので、一概に虐待が増えたということではありません。その一方で、1年間を通じての通報件数の割合を大きく伸ばしてきたのは、警察であり、実に通報件数の約5割を警察が行っていると報告されています。

また2008年からの虐待の報告件数における割合を見ると、身体的虐待やネグレクトが割合を減らす一方で、心理的虐待が総数の5割を超えていることが分かります。

このことは、懲戒権に定義されるような「しかる・なぐる・ひねる・しばる・押し入れに入れる・閉じ込める・禁食」などの「身体的虐待」は、関係者の周知活動などのおかげで徐々にその数を減らす一方で、「大声や脅しなどで恐怖に陥れる、無視や拒否的な態度を取る、著しくきょうだい間差別をする、自尊心を傷つける言葉を繰り返し使って傷つける、子どもがドメスティックバイオレンスを目撃する」などの「心理的虐待」に、虐待の指向がシフトしていることを示していますが、その点に関しては、踏み込むことが難しかったのかもしれません。総じて考えると、今回の改正法での力点は、身体的虐待やネグレクトなど、いわゆる「死に直結する虐待」に対しての対応が厚くされた反面、性的虐待や心理的虐待に対しての積極性はあまり感じ取れないのが私の正直な感想です。

連携の糸口としてのマルトリートメントの概念

虐待は一度発生すれば、地域に大きな影響を落とします。虐待は時代に応じて、さまざまな形態に変質していきます。そして、虐待をした保護者に取材すると、自身が行ってしまった虐待に対して「正当な理由がある」と考えていたり、自分自身もそのように育てられてきたりしたということが分かってきました。

つまり、虐待は「遺伝的に文化として」次世代へ無批判なまま引き継がれてきているということを意味します。そこで、今起こっている虐待の根は3世代ほど前の社会情勢に種を見いだせるというのが、虐待問題の理解の本流になってきました。ですから、120年後の虐待を防止するために、今さまざまな人たちが連携していくことが強く求められています。そのため、各世代に向けた専門家が連携しながら、養育に関する情報を周知し、また、その技術を守り育てていくことが必要となります。

最近、虐待を考える動きの中で、「虐待を誘引する要素」の研究などを受けて、「マルトリートメント(不適切な養育)」という概念が提唱され始めました。

マルトリートメントについては、「学術の動向」(2010年4月号)の特集「望ましい子どものこころの育ちと環境を実現するために〜マルトリートメント(子ども虐待)と子どものレジリエンス:奥山眞紀子」の中で、下記のように紹介されています。

マルトリートメントとは強者としての大人と大人の養育がなければ生き抜けない弱者としての子どもという権力構造を背景とした子どもへの重大な権利侵害を指す。CDC(米国疾病管理予防センター)の定義では、マルトリートメントとは18歳未満の子どもに対する全ての子ども虐待とネグレクトを含むとされ、良くある形として以下の4タイプを挙げている。この4タイプは日本の「児童虐待防止等に関する法律」でも用いられている。

1.身体的虐待(physical abuse):叩いたり、蹴ったり、激しく揺さぶったり、やけどさせたり、その他の外力を与えることにより、子どもの身体が傷害されることである。

2.性的虐待(sexual abuse):子どもを不適切な性的行動に巻き込むこと。性的な接触やレイプだけではなく、性的な写真を撮ったり他者の性行為やそのビデオなどを見せるなどの形の虐待もある。

3.情緒的虐待(emotional abuse):子どもの自己評価や情緒的な健康の発達を妨げるような行為であり、恥をかかせる、拒否する、孤立させる、愛情を与えない、差別する、恐怖を与える、過度の発達的なプレッシャーを与えるなどの行為が含まれる。直接の身体的暴力は受けていなくても、兄弟への虐待や配偶者間暴力や高齢者虐待などの家庭内での暴力を目撃する状況におくことも心理的虐待に当たる。

4.ネグレクト(neglect):子どもにとって必要なケアを与えないことである。必要なケアなの内容によって、食事のネグレクト(適切な食事を与えない)、衣服のネグレクト(年齢や気候に合った衣服を与えない)、清潔のネグレクト(清潔を保たない)、監督のネグレクト(危険から守る監督をしない)、教育のネグレクト(学校へ行かせない)、医療ネグレクト(必要な医療を与えない)などがある。怠慢でケアが与えられない場合も、特別な信念や宗教によって必要なケアを与えないこともネグレクトである。

また、この4類型を要保護(レッド)、要支援(イエロー)、要観察(グレー)の3段階に分け、それぞれの段階に則した支援を展開することが、今の基本スタンスとなります。ニュースなどで取り上げられているケースは、要保護段階の対応を誤ったケースであることが分かります。(続く)

児童福祉法・児童虐待防止法の改正を受けて(2)連携の糸口としてのマルトリートメントの概念 千葉敦志
養護教諭のための児童虐待対応の手引』(文部科学省)では、マルトリートメントについて「『大人の子どもへの不適切なかかわり』を意味しており、児童虐待の意味を広く捉えた概念」と説明している。それによると、要保護、要支援だけでなく、要観察までを含めたものが、マルトリートメントとされる。(図:同書第2章「児童虐待の理解」コラム欄より)

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千葉敦志

千葉敦志(ちば・あつし)

1970年宮城県生まれ、青森県在住。日本基督教団正教師(無任所)。教会付帯施設の認可保育所の施設長として、保育所の認定こども園化を実施。施設長として通算10年間、病後児保育事業などを立ち上げたほか、発達障害児や身体障害児の受け入れや保育の向上に努め、過疎地域の医療的ケア児童の受け入れや地域の終末期医療を下支えするために、教会での訪問看護ステーション設置などを手掛けた。児童福祉の制度研究とその実践および講演活動を行っている。現在はこれまでの経験に基づいて「保育所等訪問支援事業」を行う保育支援センターを立ち上げ、乳児・幼児・児童の福祉の底上げ、施設の支援に奔走している。

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