Skip to main content
2025年7月12日10時33分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
新日本語訳聖書記念連載

ヘボンと日本語訳聖書誕生の物語(最終回)エピローグ―炎の遺書

2019年2月6日16時13分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
  • ツイート
印刷
関連タグ:ジェームス・カーティス・ヘボン

祖国アメリカに帰ったヘボンは、イーストオレンジに小さな家を買ってクララと共に静かな日々を過ごしていた。子どもや親戚もなく、故郷の人々の中に見知った顔を一つも見いだせなかった。彼は時折依頼を受けて出かけるほかは、ほとんど毎日読書をして過ごし、外に出ることはなかった。

不思議なことに、日本ではあれほど快活で機知に富み、どんな人ともすぐに笑顔で会話のできる彼が、アメリカに帰るや寡黙になり、めったに微笑を見せなくなった。たまに日本での思い出話が出ると、その顔が輝き、少しはあの事、この事を語ったが、その後はじっともの思いにふけるのだった。彼は日本のことを何か気にかけているのだ――と、クララは気付いた。何を心配しているのだろう?

1905(明治38)年のある日のことだった。日銀総裁の高橋是清(これきよ)がニューヨークからはるばる汽車に乗ってニュージャージー州イーストオレンジにヘボンを訪ねた。90歳になったヘボンは、高橋の来訪を聞くと、きちんとフロックコートを着て、ややあぶなげな足取りで階段を降りてきた。

「オオ、高橋サン、ヨク来テクレマシタ」。彼は久しく使わなかった日本語であいさつし、彼を抱擁した。「先生、お元気そうで何よりです」。高橋は恩師のしわくちゃな手を握った。ヘボンの目に、クララ塾に初めて来て、きちんと手を突いて教えを乞う12歳の和喜次の姿がよみがえり、思わず微笑した。

「先生、私は公務の間にも、先生から昔教えていただいた聖書の物語や賛美歌を思い出すんですよ」。彼は言った。それから、彼のもの問いたげな目は、室内から奥の部屋に向けられた。

「クララ先生は、お元気でしょうか?」。ヘボンの顔は曇った。「妻は入院しています。会ってももう何も分からないでしょう。彼女は脳神経が壊れていますから」。高橋は痛ましそうにしばしうなだれていたが、顔を上げると言った。

「日本は変わりました。文化の向上は驚くべきものがあります。それが日本を良い方向に導くのか、悪い方向に導くのか分かりませんが、先生が訳してくださった聖書はどんなに世の中が変わろうとも、絶対的な価値観を示してくれるでしょう」

それから、2人はしばらく語り合った。「また、お会いしましょう」。「この地上で許されなければ、天の父の家で」。ヘボンは右手で天を指した。

しかしながら、これが師弟の最後の対面となった。日本に帰国した高橋は、2・26事件に巻き込まれ、陸軍の若い将校に射殺されてしまったのだった。

クララの容態は日を追って悪化していった。かつて成仏寺前で頭を強打された後遺症から頭痛、不眠、神経障害に長らく悩まされてきたが、日常生活にも支障をきたすようになったことから、ずっと入院生活を送っていた。

そして、高橋の訪問があった翌年の3月3日。駆け付けて手を握るヘボンの顔も分からないまま、彼女は病院で最期を迎えたのだった。

*

一人残されたヘボンは、96歳まで生きたが、最後は枯木が朽ち果てるように静かに逝ったと伝えられている。それは1911(明治44)年9月21日未明のことであった。

彼はすでに天に国籍を持つ多くの人々に守られ、導かれつつ、神の住居目指して飛び立とうとしていた。しかし、彼は一瞬ちゅうちょして、後にしようとする地上を振り返った。

その時、初めて彼は、自分が気がかりに思っていたものが何であるかを悟った。彼は日本の未来を担う若者たちに向かって、大声であるメッセージを叫んだ。それは炎となって燃え上がり、渦を巻きながら暗い地上に落ちていった。

同じ頃、白金にある明治学院の近くに住む住民は大きな爆発音を聞いた。外に出たところ、校舎が炎上しているのが見えた。消防車が来る頃には、建物はすっかり火に包まれ、あちこちから人が集まってきた。大学の教職員も、学生たちも駆け付けてきた。

そこへワシントン駐在大使から「ヘボン博士死す」との電報が届いた。永眠の時刻は9月21日午前5時と記されていた。不審な出火時刻も同じく、21日午前5時だった。

「あれはヘボン先生のメッセージだよ」。学生の一人が仲間に言った。「先生は、われわれに将来の日本を託され、励ましの言葉をくださったのだ」

*

<あとがき>

日本において大きな使命を果たし終えたヘボンは、夫人と共にアメリカに帰り、イーストオレンジで静かに余生を送っていました。しかし、不思議なことに、日本滞在中はあれほど快活で、ウィットとユーモアに富んだ会話で皆を楽しませていたヘボンがアメリカに帰った途端、人が変わったように無口になり、ほとんど家に閉じこもったまま人と交流しなかったといわれています。

きっと彼はその心に大きな喪失感を覚えていたのでしょう。つまり、日本が国際的に独り立ちするのを手助けすることは彼の人生の最大の喜びであり、生きがいだったのです。これは、彼が死去した日に起きた不可解な事件につながります。

1911年9月21日午前5時。彼の魂が地上を離れたその時、突然大音響と共に爆発が起こり、明治学院のヘボン館が炎上したのです。これについてはさまざまな推測がなされたのですが、誰もが確信したことは、ヘボンは日本人にあるメッセージを残そうとしたのではないか――ということでした。

<<前回へ

◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。その他雑誌の連載もあり。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:ジェームス・カーティス・ヘボン
  • ツイート

関連記事

  • 戦国に光を掲げて―フランシスコ・ザヴィエルの生涯(1)叫び求める声

  • 混血児の母となって―澤田美喜の生涯(1)男まさりの子

  • 生命への畏敬―アルベルト・シュヴァイツァーの生涯(1)動物の苦しみ

  • 社会的弱者の友として―賀川豊彦の生涯(1)暗い出生

  • 非暴力で差別と闘った人―キング牧師の生涯(1)どうして黒人は差別されるの?

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • 教育改革が「日本のリバイバルにつながっていく」 牧師の金子道仁参院議員が講演

  • 米テキサス州洪水、死者100人超える キリスト教サマーキャンプ参加の少女ら多数犠牲

  • 中国・臨汾で2つの「家の教会」の牧師や信者らに有罪判決 最大拘禁9年2カ月

  • Gゼロ時代の津波石碑(4)芥川を自死に至らしめた「ぼんやりした不安」と2つの遺書 山崎純二

  • 見捨てない神 穂森幸一

  • 日本人に寄り添う福音宣教の扉(226)葬儀文化を受け継ぎ、教会がエンディングを支える時代が来る 広田信也

  • 約3年ぶりに死刑執行、日本カトリック司教協議会社会司教委員会と矯風会が抗議

  • 初めの愛に戻りなさい 佐々木満男

  • 第一のことを第一にする人生の祝福 菅野直基

  • コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(7)共同体の重視 臼田宣弘

  • 米テキサス州洪水、死者100人超える キリスト教サマーキャンプ参加の少女ら多数犠牲

  • 学校法人聖学院、新理事長に田村綾子氏

  • 教育改革が「日本のリバイバルにつながっていく」 牧師の金子道仁参院議員が講演

  • 「苦しみ」と「苦しみ」の解決(8)「建物の話」 三谷和司

  • いのちの言葉聖書学校、日本語クラス2期生7人が卒業

  • 紛争地の宗教者らが参加、第3回東京平和円卓会議 赦しの重要性、即時停戦など呼びかけ

  • 約3年ぶりに死刑執行、日本カトリック司教協議会社会司教委員会と矯風会が抗議

  • 聖書から事実を引き出す学び「IBS」を分かりやすく説明する講座 7月12日から

  • 中国・臨汾で2つの「家の教会」の牧師や信者らに有罪判決 最大拘禁9年2カ月

  • 初めの愛に戻りなさい 佐々木満男

  • 米テキサス州洪水、死者100人超える キリスト教サマーキャンプ参加の少女ら多数犠牲

  • 淀橋教会で新主管牧師就任式・祝賀会 金聖燮牧師が6代目に

  • 学校法人聖学院、新理事長に田村綾子氏

  • 「苦しみ」と「苦しみ」の解決(8)「建物の話」 三谷和司

  • いのちの言葉聖書学校、日本語クラス2期生7人が卒業

  • 米国の福音派牧師は半数近くが兼業している 調査で判明

  • 教育改革が「日本のリバイバルにつながっていく」 牧師の金子道仁参院議員が講演

  • 聖書から事実を引き出す学び「IBS」を分かりやすく説明する講座 7月12日から

  • 紛争地の宗教者らが参加、第3回東京平和円卓会議 赦しの重要性、即時停戦など呼びかけ

  • 約3年ぶりに死刑執行、日本カトリック司教協議会社会司教委員会と矯風会が抗議

編集部のおすすめ

  • 四国の全教会の活性化と福音宣教の前進のために 「愛と希望の祭典・四国」プレ大会開催

  • イースターは「揺るぎない希望」 第62回首都圏イースターのつどい

  • 2026年に東京のスタジアムで伝道集会開催へ 「過去に見たことのないリバイバルを」

  • 「山田火砂子監督、さようなら」 教会でお別れの会、親交あった俳優らが思い出語る

  • 日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.