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のりぼと神様

のりぼと神様(1)のりぼという少年 星野ひかり

2018年4月6日14時33分 コラムニスト : 星野ひかり
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月のふくらむ、夜でした。星くずが、空いっぱいにかがやいて、それはにぎやかでありました。木々はそよ風にゆれながら、さわさわと音楽をかなでるよう。それを聞きながら鳥たちも、羽を休めてねむりにつきます。

広場には猫たちが、しばをベッドにねそべっており、小さなお池にはフナたちが、月のうつった水の中、光をくぐって遊んでいました。そのそばに、人々のくらす住宅が、のきを連ねておりました。家々の屋根も、星あかりをうつして、てらてらと輝いておりました。

ちょうど広場の裏の家に、のりぼという少年がくらしていました。のりぼは小学校6年生。お絵描きが得意で、近所の野良猫たちが一番の友達。学校はあまり好きではなく、毎朝残念そうな顔をして学校に向かいます。

のりぼとは、あだ名です。のりなりという名前なのですが、お母さんが「のり坊」と呼んでいたのを同級生に聞かれてから、学校の皆が「のりぼ、のりぼ」と呼ぶようになりました。「馬鹿にされてる」そんな気がして、そのことも、学校嫌いの理由です。

のりぼは2階の自分の部屋の窓を開けて、裏の広場に集まる野良猫たちを眺めていました。夜風がぼうぼうと吹いてきて、怪しく香りづいた町の風をはこびます。野良猫たちは寒そうに、ベンチの上で身を寄せ合っています。夜中になると人目を忍んで、猫好きのおばあさんが餌をやりに来るので、猫たちはこの広場に、おばあさんを待って集まります。

のりぼは夜の広場を見つめながら、心に痛みを感じていました。それは一つの不安です。近ごろ、お母さんの具合がよくないのです。

お母さんは、最近ぐっと痩せてきて、ソファに横たわっている時間が多くなりました。そして今日の夕方、病院から帰ってくると、玄関まで迎えに来たのりぼに、しがみつくように抱きついたのです。お母さんの体は柔らかくて、曼殊沙華(まんじゅしゃげ)のようでした。抱きしめ返すと、今すぐハラハラこぼれてしまうようで、のりぼは怖くなって、立ちすくみました。

「お母さん、どうしたの?」。のりぼが聞くと、お母さんは痩せた顔で満面の笑みを作って「今日は疲れたからお夕飯は出前にしよう!」と明るく言うだけでした。

夜は皆で相談してピザをとり、チキンにピザに大きなサラダ・・・豪勢な料理が並びました。お母さんは「いただきます」のお祈りの前に、ピアノで讃美歌を弾きました。「まぶねの中に」という讃美歌です。お母さんがいつも歌っているので、のりぼもそらで歌えます。

お母さんは教会に通うクリスチャンです。どんなことにも感謝して、雨が降っても風が吹いても「ハレルヤ!」と神様に感謝するので、近所の人たちに「ハレルヤおばさん」と呼ばれていました。

のりぼも教会には行ったことがあります。固い椅子に座らされ、いるかいないかも分からない神様のお話をお尻が痛くなるまで聞かされてうんざりしたおぼえは、1度や2度ではありません。ですから、教会に行く日曜日はお父さんとお留守番をしていることもあります。そんな日はお父さんがインスタントラーメンを作ってくれます。普段食べることのないラーメンを食べられる、教会に行かない日曜日はのりぼの楽しみになりました。

讃美歌が終わると「いただきます」とお祈りをして、ピザを手に取り頬張りました。チーズの香りが口いっぱいに広がります。ふと顔を上げると、お母さんがのりぼを見つめていました。

お父さんはせき込んでから「のり坊、お母さんは病気でね、明日からしばらく入院することになったからね」と言いました。「何の病気?」。すかさずのりぼが聞くと、お母さんは「すぐに治るから。風邪をひいただけなのよ」となだめるように言いました。のりぼはとっさに重い病気だと思いました。お母さんは、その微笑とともに今にも消え入りそうだったのです。

そして、2階の自分の部屋に戻るなり、裏の広場を見つめながら風を浴びておりました。隣の部屋はお母さんの寝室です。ガタガタと先ほどから音がして「これはいらないだろう」。お父さんの声もします。入院の準備をしているようです。

「枕が変わったら眠れないのよ。どうしましょう」。お母さんは先ほどと打って変わって元気な声で、のりぼは安心しました。

「きっと大丈夫だ」。そう口に出して言ってみて、ベッドに寝ころびました。「すぐに治る。お母さんが重病で死ぬなんていうのはよくある漫画の話」

*

電話が鳴るたびに、今度こそ「危ない」と思う。そんな生活が始まっていました。お母さんは、重い病気だったのです。

痩せた体には何本ものビニールのチューブが刺さり、酸素マスクの向こうの顔は、半分くらいにやせ細っておりました。麻酔薬でもうろうとしてうわごとをしゃべり、時に起き上がろうとするので、骨ばった足と腕は、ベッドの柵にひもで縛り付けられておりました。

時折年老いた女性の看護師さんが来て、たんの吸引をします。ビニールのチューブを喉に下して、喉にたまったたんを取ります。お母さんの喉にビニールチューブが下るたび、自分まで痛みを感じるようで、のりぼは目をそらしました。しかし「お母さんが頑張っているんだ。男の僕がちゃんと見れないようではだめだ」と目を潤ませて、終わるまでしっかり見ていました。

お母さんの意識がはっきりしたことが、焦点の合った目から分かりました。天井をまっすぐ見つめて、酸素マスクの下で口を動かしています。お父さんが話しかけます。「お母さん、目が覚めたの?」

お母さんはのりぼを見つけると、痩せて飛び出た目を潤ませて「のりぼ。大丈夫よ。何にも怖くないの。神様がいるからね」と、声を詰まらせながら言いました。のりぼはお母さんの手を握り「そうだよ、僕は怖くないよ。お母さん、大丈夫だからね」と、前のめりになって言いました。

「お母さんは大丈夫よ」。お母さんは目の脇をしわくちゃにして笑います。「お母さんには神様がついているから。のりぼうが心配よ。神様をちゃんと信じなくちゃね」。そう言って、のりぼの両肩を震える手で持ちました。

「神様はいるの。そしてお母さんは大丈夫」。心電図が波立ちます。お父さんは慌てて「お母さん、のりぼも俺も、みんな大丈夫だからな。お母さんはちゃんと休みなさい」と言いました。

お母さんはお父さんの腕にしがみつき「お父さんも心配よ。最近のりぼと教会も休みがちなんだから。私は忙しいのよ。みんなに神様のことを伝えて、そして夕ご飯も作らなきゃならないのだから・・・寝てるわけにいかないの」。そしてまた目をもうろうとさせて「サバの味噌煮を作ろうと思うんだけど、生姜がないのよ・・・」と言いながら、深く眠っていきました。

その日の病院からの帰り道、めずらしくお父さんと手をつないで帰りました。2人とも心細かったのです。お互いにしがみつくように、ぎゅっと手を握り合って帰りました。

道すがら、家のそばのラーメン屋さんに寄って、カウンターに座り、しょうゆラーメンを2つ頼みました。あつあつの醤油ラーメンが運ばれてくると、のりぼは割り箸を割る手をためらって、聞きました。

「お父さん、お母さんは死んじゃうの?」。「大丈夫だ。お母さん言っていただろう。神様がついているって」。お父さんはそう言って、ラーメンをかきこみました。のりぼもラーメンを少しずつ口に運びました。

「お父さん、神様ってひどいね。信じているお母さんをあんな目に合わせるんだもん」。のりぼが言うと、お父さんは手を止めて、のりぼをじっと見て言いました。

「お父さんだって神様を信じていないわけじゃない。昔は欠かさず教会だって行っていたんだ。神様っていうのはな、はためでは残酷なようでも、本当の愛の人なんだって。人間には目先のことしか見えていないから、分からないんだってさ」

「目先のこと?」。「そうだ。毎日数えきれないくらい、人は死ぬし動物たちも死ぬだろう?でも、お母さんの言うように、天の世界があるとしたら、死なんて水をくぐるようなことでさ、大したことないのかもしれないしな」。そう言うお父さんは、少しやつれて、寂しそうに見えました。

家に帰りつき、玄関の明かりをつけると、のりぼは2階に上がって行きました。歯磨きもせず洋服のままで寝たって、お父さんは何も言いません。お父さんは、いつでも電話に出られるように、居間のソファで眠ります。お父さんも、歯磨きもお風呂もなしで、ソファの上に置いてある毛布にくるまって横になりました。

暗い居間にテレビを明かり代わりにつけ、お父さんは横になったまま、久しぶりにお祈りをしました。

「天にましますわれらの父よ。どうかお母さんがよくなりますように。もし、よくならないようなことがあっても、痛みや苦しみがありませんように。そして、なぜこんなことになったのか、答えをください。ハレルヤ、ちくしょう・・・」

そうしてお父さんは少しだけ泣きました。

のりぼは服のままでベッドに横になり、枕に耳を当てていました。お父さんのすすり泣きが聞こえたような気がしましたが、お父さんが泣くわけがない、と思いました。

「明日もカップ麺かな」とつぶやいて、枕に顔をうずめると、お父さんの言っていた言葉が思い出されます。「天の世界があるなら、死なんて水をくぐるようなもの」。「そんなのでたらめだ」と、のりぼは思いました。

死んだらおしまいだ。お別れということはおしまいなんだ。お母さんの柔らかいにおい、お母さんの炊き込みご飯、お母さんの縫ったマスクにバッグ・・・良いにおいがしていつも笑っていて、頑張り屋で疲れ知らずの、太陽のようなお母さん。

「お別れなんてだめだ。天国があったってなくたってダメなんだ。お別れということはおしまいなんだ」

のりぼは声を殺して泣きました。次第に心が高ぶって、ぜいぜいと泣きじゃくり、ヒックヒックと全身を真っ赤にふるわせて、泣きました。(つづく)

次回へ>>

◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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