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のりぼと神様

のりぼと神様(2)お母さんの死 星野ひかり

2018年4月13日21時06分 コラムニスト : 星野ひかり
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翌日は日曜日でした。お父さんは珍しく、ちゃんとアイロンのかかったシャツを着て「のりぼ、今日は教会に行ってから病院に行こう」と言いました。のりぼは憂鬱(ゆううつ)でした。あんな長い話をまた聞かなくてはいけないんだ、と思ったからです。

そのころ、町はずれの教会では、牧師先生が洗面台で顔に水を浴びせてパンパンとほほを打ち、気合を入れておりました。この教会の戸根牧師は、お母さんのことも何度も見舞いに行き、お父さんとのりぼが今日教会に来ることも聞いていました。「何か助けになることを伝えたい」。そう思っていました。

礼拝の時間が近づくと、続々と礼拝堂の席が埋まっていき、その中にのりぼとお父さんの姿も見えました。のりぼは下を向いて床を蹴るようにふてくされて歩いています。

執事が礼拝の前の祈りと讃美歌を導き、天井の高い教会は美しい調べで満ちました。歌が終わると、戸根牧師は説教台に立ち、コップの水を一口飲みました。眼鏡の奥は、もともとのたれ目が、慈愛に潤んでいっそう優しくほほ笑んでいました。

メッセージが始まると、途中でのりぼとお父さんのことに触れました。「今日はのりなり君とお父さんも見えています。皆様ご存じの通り、お母さんは現在病院で闘病中です。神様は、時になぜこのようなことをなさるのか、と思うことを私たちの人生に与えます。戦争や自然災害、貧困や飢餓のニュースを聞かない日もありません。神様のご計画は、私たちには到底理解できないものも多くあります。しかし、神様がなさるすべての事に理由があり、それは私たちによいことをもたらすためでしかないことを、信じ続けるしかないのでしょう。しかし、私たちは弱いものですから、神様に怒りを持つことも少なくありません。そのような時は存分に訴えていいのです。『神様、どうしてですか?』『なぜですか?』と答えが分かるまで聞き続けることは悪いことではありません。愛する子どもの一生懸命な問いかけを嫌がる親がいるでしょうか。・・・そして、簡単には答えはくれなくても、ゆっくり徐々に分からせてくれる、そんな優しい親が私たちの天のお父様であることを忘れてはいけません」

戸根牧師はそう言って、今日のメッセージを閉じました。お父さんは相変わらず疲れた顔をしていましたが、ほほ笑んでのりぼに言いました。「なんでも神様に言っていいんだってさ。お父さんに言えないことも、神様には話しなさい」「いるかいないかも分からない人に話し続けるの?」と、のりぼは言いました。「話し続けると、あらわれてくるんだ。神様はじれったいところがあってね」

病院へ行くと、珍しくお母さんが酸素マスクを外して、ゆっくりと息をして窓の外を眺めていました。

「お母さん」。のりぼが駆け寄ると、うれしそうに痩せた顔のしわを寄せます。「のりぼ、風がきれいね」。不思議だな、と思いました。窓の向こうの風を感じることもできないのに、どうして風がきれいだなんて言うんだろう、と思ったからです。

「お母さん、風が見えるの?」。のりぼは聞きました。お母さんは満面の笑みでうなずいて「不思議ね。前は見えなかったものが見えるような気がするの。風は七色に輝いて、飴色の帯を引いているようで、きれい。木の葉の一枚一枚も、世界中の色がギュッと詰まったようで、なんて美しいのかしら。世界は輝いているのね。神様の御手の中で」と言いました。

「お母さん、神様のことばかりじゃなく治ることを考えてよ」。のりぼは先を読むように言いました。「そうね。のりぼのためにもよくならなきゃね。こんなに甘えん坊さんなんだもの。・・・でもこうしていると、天国はどんなに美しい所なんだろうなって思うの」

後ろで聞いていたお父さんが「どんな所だと思う?」と聞きました。お母さんは遠く空を眺めて「そうね。世界中のすべての宝石を集めてもこぶし一つにもならないくらい、まばゆい所ではないかしら。花の一つ一つが宝石よりもさんざめいて・・・神様の声が聞こえて、私たちはいつでも神様と共におられるの」と言いました。

お父さんもお母さんも、いずれ来る別れを受け入れているかのようでした。のりぼは「僕は死んだら終わりだと思うよ」と小さくつぶやくと、病室を出て行きました。

のりぼは自販機でヨーグルトジュースを買うと、一気に飲み干しました。こんな時、お母さんが元気なら、すぐに追いかけてきてくれます。しかし今は、誰も追いかけてきてくれません。なんだかすべてが遠い世界の出来事のように感じます。お母さんが病気のことも、先ほどまで教会に行っていたことも。世界が潮を引くように遠のいてゆくのを感じました。

お父さんがのっそりと近づいて「お母さんは眠ったよ。帰ろうか」と言いました。のりぼはうなずいて、お父さんの手を取りました。

*

その夜、お母さんは亡くなりました。真夜中に電話が鳴り、眠りながら息を引き取ったと連絡があったのです。病室に駆けつけると、お人形のようにつややかで、静かに横たわるお母さんの姿がありました。

のりぼは胸に、硬いしこりがあるように感じました。悲しいとか、寂しいとかを感じられなくなった、石のように固いしこりがあるのです。お父さんはベッドの上に泣き崩れ、うっうとしゃくりをあげていました。それなのに、自分は涙も出ず、何も感じられないことが、不思議でした。

お葬式は、教会で行われました。教会では皆で讃美歌を歌って、戸根牧師は天国への希望を話しました。見えない光の溢れる中でお母さんは見送られました。皆、悲しい顔はあまり見せず、天国を信じて明るい顔で、最後に、ひとりひとりが一輪ずつバラを棺桶に入れていき、お母さんは、バラの中で眠っているろう人形のお姫様のようでした。

のりぼはしばらく学校を休んでもいいと、お父さんに言われました。お母さんのいなくなった、がらんどうのお家で、のりぼは何をしていいか分からず、部屋にこもりがちになりました。

引き出しを開け、クレパスと画用紙を取り出して、絵を描き始めました。描いたのは、お母さんが死んだ日に話した天国の絵です。「世界中のすべての宝石を集めてもこぶし一つにもならないくらい、まばゆい所で、花の一つ一つが宝石よりもさんざめいて・・・神様の声が聞こえていつでも神様と共におられる所」。そんな所を絵に描いてみたくなったのです。もしも描けたら、そこにお母さんがいるような気がしたのです。

のりぼはすべてのクレパスを使って、画用紙に描き続けました。お母さんの言っていた天国の世界を、夢中になって描きました。クレパスで画用紙を叩いて、色の点々で描いてゆきます。

お母さんの言っていた風・・・飴色の糸を引く風を描いていたその時です。絵の中から声がしました。「こっちへおいでなさい」。のりぼは驚きました。部屋中を見渡しても声の主はおりません。やはり絵の中から声がしたように思うのです。のぞき込むと、次第に、荒いクレパスの色でできた、ざらついた世界が、部屋の中にもくもくと広がっていきました。(つづく)

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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