脳性麻痺と共に生きる(15)相模原殺傷事件から3週間を経て今感じていること 有田憲一郎

2016年8月20日14時29分 コラムニスト : 有田憲一郎 印刷
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神奈川県相模原市の障碍(しょうがい)者施設で起きた元職員による入所者を狙った殺人事件から、時間だけが進んでいるような気がします。怒りしか出ないあり得ない驚愕(きょうがく)といえる事件が起き、前回、僕は急いでパソコンに向かいました。

あの記事を書いているとき、「どうしてこのような事件が起きてしまったんだ。もう少し未然に防げなかったのか」と、頭の中でさまざまなことが浮かんでいました。そのほとんどが怒りや悲しみです。

毎日のように流れていた情報は少なくなり、いつしか話題にも上らなくなってきました。そして、事件や容疑者に何かの進展が起きたり、裁判が近くなったりしてくると、思い出したかのように再び大きく取り上げられていくのでしょう。それは、この事件にかかわらず、どのような事件でも同じことがいえます。

「何をどうやって、この事件のことを書いてお伝えすればいいのか」。前回、実は戸惑いと迷いを覚えながらパソコンに向かっていたような気がします。無我夢中というような表現がふさわしいのか分かりませんが、「僕の目線で伝えよう」と必死で書いたことを覚えています。

「この痛ましい事件に関連して、もう少し書こう」。そう思いました。しかし、いざパソコンの前に座ると、キーボードの前で手が止まったまま、数時間も過ごす僕がいました。そして「違うことを書こう」と思っても、頭の片隅であの事件のことを考えていたのでしょう。数週間、何も書けないでいる僕がいたのです。

多くの報道番組で大きく取り上げられていました。事件があった障碍者施設に、多くの方や多くの障碍者仲間が花束を抱え、泣きながら訪れる光景が連日流れていました。多くの障碍者と多くの方の怒り、ご家族の悲しみと苦しみといった心境が、画面を通してひしひしと伝わってきます。そして、僕も自然と涙があふれ出ました。やるせない感情が表に出てきたのです。

逮捕されて数日後、容疑者はこんなことを話したといいます。「保護者の皆さんには、会ってお詫びしたい。会って謝りたい。しかし、障碍者当人たちには謝る気はない。謝ろうとも思わない」と。わが耳を疑ってしまうような、とても信じられない発言をしています。

言葉が出ないというのは、まさにこのことを言うのかもしれません。この発言内容をニュースで聞いたとき、僕は唖然(あぜん)としました。そして、新たな怒りや憎しみが感情として出てきます。

全国の障碍者団体がさまざまな形でコメントやメッセージを出しています。それは、障碍を持っている方一人一人に向けられた応援のメッセージです。僕は涙がこぼれました。

最近の供述で容疑者は、「今回、俺が起こした行動に多くの人が共感し、賛同してくれると思っていた」、そんな話をしているそうです。人間としてそんな残酷な考え方がどのように生まれてしまったのか、そして何が容疑者を狂わせていったのか。多くの方のうちに、怒りとともにやるせない中にも、多くの疑問と真実を知りたい思いがあるのではないでしょうか。

この事件が起きてから1週間後、千葉県の障碍者施設で暴行事件がありました。体が不自由で手足を動かすことも話すことできない重度の障碍を持つ方が、1人の職員に殴る蹴るの暴行を受けていました。

声を出すことも体を動かすこともできない障碍者の方が、抵抗することも助けを呼ぶこともできず、ただ痛みと苦しみに耐えるしかなかった光景が目に浮かびます。別の職員が大きな痛々しいアザや傷に気付き、問いただしたところ、容疑を認めたことから事件が発覚したといいます。

別の事件では、知的障碍者の作業施設で、職員が利用者に対して冒涜(ぼうとく)するような暴言と暴力を行っていた事件がありました。利用者数人と職員1人の密室の作業部屋で起きた事件で、他の職員が不振に思い、隠しカメラを仕掛け、事件が発覚しました。この事件もニュースで大きく取り上げられましたので、皆さんの記憶にも残っていることと思います。

今回の相模原の事件を含め、障碍者に対する暴力発言や暴力行為、そして殺害事件というのは決して少なくはありません。大きくニュースとして取り上げられる事件というのは、わずかなのかもしれません。

僕は、ご存じのように障碍を持って生まれてきました。神様が大切で尊い1つの命をお与えくださいました。そして、この世で生きる権利を与えてくださり、この世での働きをお与えくださっています。

世界中に、障碍を持ちながら精いっぱい生き、必死で生きておられる仲間たちがいます。「生きていることが喜び」そして「生きていてくれるだけでいい」、家族たちのそうした願いがあります。

「一生懸命頑張ろうとしているのに」。事件のニュースで映し出された女性で障碍を持った方の言葉です。彼女は涙ながらに大きな花束を抱え、そう叫んでいました。悔やんでも悔やみきれない怒りと感情が爆発していました。

毎日真剣に障碍者と向き合い、共に生き、必死で命と生活を支え守ってくださっている職員さんやヘルパーさんがいます。真面目に寝る間も惜しみ、限界も感じながら、また腰や体調を崩しながら働いてくださっている多くの方がいてくださいます。支えてくださっている多くの方一人一人への感謝の思いでいつもいます。

そうした中で、障碍者の尊厳を侮辱し、差別以上の扱いをし、殺人を起こした容疑者を、個人として決して許すことはできません。そして、人間としても許すことなどできません。

容疑者には罪を償ってもらうことはもちろん、包み隠さず、真実をうそ偽りなく、全て語ってもらいたいと思います。そして、己(おの)が犯した罪の深さを反省し、犠牲となられた障碍を持つ当事者の方々に真心から謝罪してもらいたい。

今回の事件に複雑な思いと怒りを持ちながら書かせていただきました。

犠牲となられ、尊い命を奪われてしまわれた方、重傷を負われてしまわれた方、心に大きく深い傷を負われてしまわれた方に、心からお悔やみ申し上げます。

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有田憲一郎

有田憲一郎(ありた・けんいちろう)

1971年東京生まれ。72年脳性麻痺(まひ)と診断される。89年東京都立大泉養護学校高等部卒業。画家はらみちを氏との出会いで絵心を学び、カメラに魅力を感じ独学で写真も始める。タイプアートコンテスト東京都知事賞受賞(83年)、東京都障害者総合美術展写真の部入選(93年)。個展、写真展を仙台や東京などで開催し、2004年にはバングラデシュで障碍(しょうがい)を持つ仲間と共に展示会も開催した。05年に芸術・創作活動の場として「Zinno Art Design」設立。これまでにバングラデシュを4回訪問している。そこでテゼに出会い、最近のテゼ・アジア大会(インド07年・フィリピン10年・韓国13年)には毎回参加している。日本基督教団東北教区センター「エマオ」内の仙台青年学生センターでクラス「共に生きる~オアシス有田~」を担当(10〜14年)。著書に『有田憲一郎バングラデシュ夢紀行』(10年、自主出版)。月刊誌『スピリチュアリティー』(11年9・10月号、一麦出版社)で連載を執筆。15年から東京在住。フェイスブックブログ「アリタワールド」でもメッセージを発信している。

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