脳性麻痺と共に生きる(16)水族館で感じたもの 有田憲一郎

2016年9月2日22時55分 コラムニスト : 有田憲一郎 印刷
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電話を1人でかけることが難しい僕は、普段から仲間との連絡や仕事のやりとりなど、全てパソコンのメールがほとんどです。インターネットなどの普及によって、僕のような障碍(しょうがい)を持つ者にとって世界が広がり、生活や人とのつながり、関わりを大きく変えてくれています。

もし、この時代にインターネットなどが普及していなかったら、僕は多くの仲間との出会いや関わりも、仲間と約束をして遊びに出掛けることも、仕事をすることも、そしてこうしてコラムを書かせていただくこともできずに、ただただ家の中でボーッと過ごす毎日だったかもしれません。

先日僕は、女性の仲間にメールをしました。「今度、どこかに遊びに行かない?」。返事が返ってきました。「いいね。遊びに行こう」。そうして何回もメールでやりとりをして水族館に行くことにしました。

ところで、皆さんが出掛けるとき、家を出るまでどれくらいの時間が必要でしょうか。人それぞれだと思いますが、ササーッと準備をして「行ってきます」と玄関を出て、自由に出掛けていくことができるのではないでしょうか。帰りも「ただいま」と玄関を入り、ソファなどでくつろいでいるのかもしれません。

僕の場合、ちょっと出掛けるにも何をするにも時間がかかります。慌てたり急いだりすると余計にできなくて時間がかかってしまいます。どこに行くにも両親に手伝ってもらいながら2時間程度かけて出掛ける準備をしています。

待ち合わせをした最寄り駅で仲間と会って電車に乗るときは、公共交通機関ではありがたいことに障碍者割引があり、障碍者本人と介助者1人は子ども料金で乗せていただけます。また、電車の乗り降りもホームと電車の間が空いているので、駅員さんが渡り板を準備してくれて乗車のお手伝いをしていただけます。

下車する駅には、乗車駅の駅員さんが連絡してくれて、下車駅の駅員さんが渡り板を準備して待っていてくださっています。こういった駅員さんの協力やお手伝いをしていただけることで、車いすでも自由に電車で出掛けられるのは「ありがたいことだなぁ・・・」と感謝しながら、電車を利用しています。

水族館で最初に見たのは、アシカのショーでした。短いストーリー仕立てになっていて、アシカ3頭とお姉さんたちでショーが繰り広げられていました。アシカが持っている才能と能力を引き出し、生態なども紹介していく内容です。

「アシカって、すごいんだな。頭も良くて、賢いんだね」と、感心してしまいます。ショーの間、アシカたちはパートナーのお姉さんから離れることなく、目を見続け、次の指示と合図を待っています。合図が出ると、指示通りに芸を行い、ご褒美の魚をもらいます。僕は「すごい、信頼関係だな」と、少し違う角度からショーを見ていました。

ショーを見ているとき、僕たちは純粋にショーを楽しませてもらい「すごいね」とか、「楽しかった。おもしろかった」「かわいかった」、そんな言葉でショーの感想を終わらせてしまいます。しかし、この素晴らしいショーを見せてくれるのは、アシカたちとパートナーとの深い信頼関係を築くことができているからこそではないでしょうか。毎日のように一緒に過ごし、共に遊び、僕たちの見えないところで日々お互いに厳しい練習を繰り返し行っているのでしょう。

それは、数日でできるものではありません。お互いを信じ、素晴らしい信頼関係を築き、数カ月、数年という時間をかけて、ゆっくり覚え、初めて僕たちにステキな感動のショーを見せてくれているのだと思います。舞台裏では、厳しい想像もできないような苦労と努力をされているのだと思います。

仲間と僕はゆっくりと、魚たちが泳いでいる姿を見て回っていました。水槽で優雅に泳ぐ魚たちを見ていると、自然と心が和んできます。泳ぐ姿に「何を思い、考えながら泳いでいるんだろう」と、魚たちに聞いてみたくなります。そして嫌なことを忘れさせてくれるのです。

幾つもの水槽には、海や川、森などで暮らす魚や爬虫(はちゅう)類たちが生活しています。なかなか見ることのできない生き物たちもいます。水族館では、さまざまな種類の魚や爬虫類たちが暮らしている空間に、僕たちがお邪魔をさせてもらっているような感覚になります。そこで暮らす魚たちに僕たちはどのように映り、魚たちはどんな風に感じているのでしょうか。

大きな水槽の中では、さまざまな種類の魚たちが泳いでいます。弱肉強食の争いがある種類同士はお互いに別々の水槽に分けられ生活を送っているのでしょうが、同じ水槽の中で大きい魚から小さい魚、そして色とりどりの魚まで喧嘩(けんか)も争うこともなく、一緒に泳いで生存を共にして生きています。

同じ水槽の中で種類の違うさまざまな魚たちの優雅に泳ぐ姿を見て、平和の豊かさと大切さをあらためて感じ、考えさせられます。僕たちが暮らしている人間の社会では、暴動や紛争、人種差別、殺人など、争い事が世界中で起きています。

同じ人間同士が人種の違いや政治の違いだけで争い、戦争という、決してしてはいけない恐ろしい戦いの起きてしまっている地域が存在する現実があります。どうして、争いが起きるのだろうか。水槽の中で優雅に泳ぐ魚たちを見ながら、一緒に行った仲間と考えていました。

ごく一部の権力争いに、罪もない多くの方々が巻き込まれ、尊い命を奪われ犠牲となられることを考えると、胸が痛みます。

水族館を楽しみながら見て回っていると、「憲さん。トイレ、行かなくて大丈夫?そろそろ、行きたいでしょう」と、仲間は僕に聞いてくれました。

僕は、トイレに行くにも誰かの手を借りなければ1人ですることができません。一緒に行った女性の仲間は、体の体勢や姿勢を直し、食事を食べさせてくれ、一緒に楽しみながらも、必要に応じて必要なサポートをしてくれています。しかし、僕のトイレ介助だけはすることができません。

そこでその場にいた男性のお客さんにトイレ介助をお願いすることにしました。「すみません。僕のトイレ介助のお手伝いをしてくれませんか?」。仲間と多目的トイレの近くで数人の方に声を掛け、彼女と一緒に来ていた男性の方が、心よく僕のトイレ介助を引き受けてくださいました。

僕が事前に準備をしておいたトイレ介助のやり方と手順を書いたプリントを男性の方に読んでもらい、伝えながらトイレの介助をしていただき、男性に協力していただけたおかげで、僕は無事にトイレを済ませることができました。

僕のトイレを待っている間、仲間と彼女がこんな話をしたそうです。彼女は仲間に、こう聞かれたそうです。「実は、私も障碍を持っていて精神障碍者なのですが、彼はどのような障碍ですか」。仲間は「彼は、脳性麻痺という障碍なんです。生活するにも誰かの手を借りなければならないけれど、彼はすごい頑張り屋さんの努力家で、海外にも行くし、文章を書いたり、大学などで講演もしているんですよ。彼にはいろいろ教えられます」などと答えたそうです。

その話を聞いたとき、僕は恥ずかしい気持ちもある中で「そんな話をしてくれていたんだ」といううれしさとありがたさ、そして、感謝の思いで胸がいっぱいになりました。

仲間と水族館を訪れた日は、偶然にも僕が相模原市の障碍者施設で起きた事件のことを書き、コラムに掲載された翌日のことでした。一緒に行った仲間は、僕が書いた記事を読んでくれていました。

悲しく痛ましい事件の後に、仲間と水族館に行き、魚たちを通して信頼や命の尊さ、人間社会で起きている争い事や愚かさ、そして、トイレのお手伝いをしてくださった方や話をしてくれた仲間や彼女・・・さまざまな思いとともに、この社会が平和で差別なく共に生きるということの意味を、あらためて考えさせられたような気がします。

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有田憲一郎

有田憲一郎(ありた・けんいちろう)

1971年東京生まれ。72年脳性麻痺(まひ)と診断される。89年東京都立大泉養護学校高等部卒業。画家はらみちを氏との出会いで絵心を学び、カメラに魅力を感じ独学で写真も始める。タイプアートコンテスト東京都知事賞受賞(83年)、東京都障害者総合美術展写真の部入選(93年)。個展、写真展を仙台や東京などで開催し、2004年にはバングラデシュで障碍(しょうがい)を持つ仲間と共に展示会も開催した。05年に芸術・創作活動の場として「Zinno Art Design」設立。これまでにバングラデシュを4回訪問している。そこでテゼに出会い、最近のテゼ・アジア大会(インド07年・フィリピン10年・韓国13年)には毎回参加している。日本基督教団東北教区センター「エマオ」内の仙台青年学生センターでクラス「共に生きる~オアシス有田~」を担当(10〜14年)。著書に『有田憲一郎バングラデシュ夢紀行』(10年、自主出版)。月刊誌『スピリチュアリティー』(11年9・10月号、一麦出版社)で連載を執筆。15年から東京在住。フェイスブックブログ「アリタワールド」でもメッセージを発信している。

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