キリスト教から2016米大統領選を見る(4)米国はなぜ「世界の警察」たらんとするのか?

2016年7月18日11時56分 コラムニスト : 青木保憲 印刷
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「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」

「アメリカン・ドリーム」と政教分離 その3
米国はなぜ「世界の警察」たらんとするのか?

今から20年前、「これぞ米国!」と声高に叫ぶような映画が公開された。R・エメリッヒ監督の「インデペンデンス・デイ」である。この映画は、SF好きだった当時のクリントン大統領がホワイトハウスで試写会をしたことでも有名である。

物語は単純明快。巨大な円盤に乗って地球に侵略してきたエイリアンに対して、米国が中心となり全人類が反撃。最終的に勝利を収めるというもの。この総攻撃の日が米国独立記念日(7月4日)であったことから、米国大統領が「この日をわれわれ(人類)の独立記念日として祝おう!」と檄(げき)を飛ばし、鼓舞された全人類連合軍がエイリアンから地球を守る、という大味な一作であった。

今年、この映画の続編「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」が公開された。しかし、意外と言うべきか、前作の熱狂とは程遠い興行収入となっており、関係者を大いに落胆させている。

やはり現実の米国をめぐる状況が、単に「米国万歳! 俺たちについてこい!」とばかり叫んではいられないことが反映しているのだろうか。今回は、米国がどうして「世界の警察」たらんとしてきたのか、その歴史的背景を見ていきたい。

移民流入への反発と「新たな孤立主義」

前回紹介したように、大統領選挙出馬表明の時にドナルド・トランプ氏は、メキシコ移民を「強姦魔(レイピスト)」と攻撃し、「(米国とメキシコの国境に)でっかい壁を造る」と宣言した。これが米国版「万里の長城」だとしてマスコミに取り上げられた。

さらに、過激派組織「イスラム国」(IS)に感化された夫婦が引き起こした銃乱射事件を受けて、「米国に入ってくるイスラム教徒の全体的かつ完全な締め出しを提案する」と表明した。

この発言に拍手喝采を送ったのは、白人の高卒ブルーカラー層であった。彼らは自分たちの仕事を移民たちに奪われ、落ち込んでいくことに懸念を示している。そして、オバマ大統領が不法移民に対して寛容な政策を採り続けていることがこのような現象を生み出していると見なしている。

この鬱屈(うっくつ)とした思いを代弁したのが、トランプ氏だったのである。端的に言うなら「よそ者が米国で大きな顔をするな!」であろう。

トランプ氏の主張は、米国に流入してくる人々を抑止しようというだけに留まらない。2015年8月のアラバマ州大会で、「裕福な国は自国の守りについても責任を持つべきだ」という趣旨で、日本、韓国との軍事的な関わりについて「フェアな同盟ではない」と述べた。

これは、自分が大統領になった暁には、ということだが、日韓に対する米国の消極的な関わり方を示唆するものとして、専門家は彼の発言の真偽を量ろうと躍起になっている。ある識者は、トランプ氏の移民対策、外交政策をまとめて「新たな孤立主義」と評している。

米国の歴史をひもとくなら、「俺たちの国だ!」と真に言えるのはネイティブ・アメリカンだけである。しかし、彼らは入植してきたWASPたちによって辺境の地に追いやられてしまう。

移民たちは自分たちこそよそ者であるにもかかわらず、土地を手にすると、いつしかその意識が「よそ者」から「地主」へと変わっていき、「移民であった過去」を振り返らなくなっていく。

米国の「マニフェスト・デスティニー(明白な使命)」

このような「米国人」意識を人々に植え付けた大きな要因として、「マニフェスト・デスティニー(明白な使命)」がある。これは、人々が東海岸から西に向かって自分たちの土地を拡大してくことを「神からの思し召し」だと受け止める意識のことである。

「西部開拓史」の時代、人々が幌馬車に乗って西へ向かう最前線は「フロンティア・ライン」と呼ばれた。その「フロンティア」で出会うネイティブ・アメリカンとの争いが、「西部劇」として採り上げられ、繰り返し上演されることで、「これは正しいことだ」と米国人の潜在意識に刷り込まれていった。

結果、彼ら(元移民たち)はネイティブ・アメリカンの土地を奪い、他国から植民地を譲渡されたり、戦争によって土地を得たりしながら、今のアメリカ合衆国になっていったのである。その中心にあったのは、「この(西部)拡大を、神がお喜びになっている」とする意識であり、これを受け入れた者たちが「アメリカ人」となっていったのである。

米国のフロンティアの喪失と海外進出

しかし、世紀の変わり目に困った事態が発生する。それは西へと向かったフロンティア・ラインが、ついに西海岸へ到達してしまったことである。獲得すべき未開の土地がなくなってしまったのだ。

本来ならここで「明白な使命」はその役割を終えるはずであった。しかし、そうはならなかった。彼らは西海岸からさらに西へ進み、ハワイ諸島へ進出した。米国が本格的に海外進出するのに、そう時間はかからなかった。そして、この方向へ舵を切る重要な役割を担ったのが「(プロテスタント的)キリスト教」であった。

1898年、米国はキューバ独立を支援するという名目でスペインに宣戦布告を行った。戦争は、当時スペインの植民地であったキューバとフィリピンで戦われ、米国はこれに勝利した。

これは、米国が帝国主義的な海外膨張政策に打って出た最初の戦争であった。この海外進出の精神的支柱となったのが、会衆派の牧師ジョサイア・ストロングの著書である。彼は『膨張―新しい世界状況のもとで』を1900年に著し、フィリピンを「新たなフロンティア」と見なすことで、米西戦争の正当性を説いたのである。

しかしストロングは、伝統的な植民地主義を奨励したわけではない。彼が着目したのは、米国の経済力である。

ストロングによれば、19世紀末の米国は、史上初めて余剰エネルギーと余剰生産物を保持する大国となった。この米国が世界の低開発地域に貢献し、加えてアメリカ的価値観(キリスト教)によってその地域を「アメリカ化」することは、彼の言葉を借りるなら「世界に対する米国の義務」である。そしてこの義務を果たすきっかけとなった米西戦争は「人類のための戦争」であった、と喝破している。

スペインやその植民地となっているフィリピンを「(カトリック的)中世主義」とし、これを打ち滅ぼしてプロテスタントキリスト教に基づいた「近代主義」を打ち立てること、これこそ、米国に課せられた新たな「明白な使命」となったのである。

この「大義名分」を拍手喝采で受け入れた米国は、今までの孤立主義(いわゆるモンロー・ドクトリン)から政策転換し、努めて海外へ進出することとなった。彼らは、現在を歴史の完成に向かう「途上」と捉えた。

そして米国は、神から与えられた「特別な使命」を遂行し続けなければならない、と思うようになっていった。いつしかこの意識は「米国は世界の警察(とならなければならない)」と膨張していくことになる。

こう考えてくると、米国ほど他国のいさかいや軋轢(あつれき)に敏感で、すぐに「交通整理」をしたがる国家はないことが分かるであろう。第1次・第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争・・・これには枚挙にいとまがないほどである。

ジョサイア・ストロングが米国に与えた「大義」は、こういった政治的経済的分野だけではない。彼の本業である福音宣教もまた、この大義ゆえに飛躍的に成長した。海外宣教団体の成長と拡充である。

現在、フィリピンにキリスト教徒が多く存在するのはなぜか。それは、この米西戦争によって大量の宣教師がこの地へ渡ったからである。つまり、「牧師」ストロングが米国海外政策の転換を担ったということは、それだけ「キリスト教なるもの」が色濃く米国の外国政策に影響を与えていた証左とも言えるのである。

そういった観点で見るなら、トランプ氏がさまざまな「暴言・珍言」を吐こうとも、このアメリカニズムにしみ込んだ「明白な使命」を転換させることはなかなか難しいと言わなければならない。

そして「インデペンデンス・デイ」のような「アメリカ万歳!」映画は、今後もハリウッドで生み出されるであろう。そこにも「明白な使命」の影響を見て取れるというものである。

次回は、トランプ氏を支持しているWASPブルーカラー層に着目して見ていこう。

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会研修牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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