聖山アトス巡礼紀行―アトスの修道士と祈り―(1)ウラノーポリの夕日 中西裕人

2016年1月23日13時04分 コラムニスト : 中西裕人 印刷

はじめに

私、写真家・中西裕人(なかにし・ひろひと)は、2014年よりギリシャ正教最大の聖地アトス(アギオンオロス)に、特別に許可を得て修道院に暮らす修道士たちに密着し、取材を敢行してきました。2015年7月よりキヤノンギャラリーにて全国4カ所巡回展示を行い、その様子をクリスチャントゥデイの7月24日付記事にて取り上げていただき、このたび連載をさせていただく運びとなりました。

写真家として、世界遺産でありながら、いまだ日本においては知られざる聖地について、写真と共に素直な感想をお伝えできればと思います。また父であり日本ハリストス正教会司祭でもあり、20年近くこのアトスの研究を続けてきた中西裕一にも数回登場してもらい連載を進めていけたらと思っています。第1回はアトスまでの道として、必ず巡礼者が立ち寄る場所までの紹介です。

飛行機を乗り継ぎ、日本からおよそ14時間、ギリシャの首都アテネに次ぐ都市テッサロニキへ到着した。快晴の地中海気候を想像していたが、少しどんよりとしていて、乗ったタクシーには雨粒が少し残っていた。空は薄曇りのグレー色、体感温度は夏とは到底思えないほどの涼しさだ。仕事柄、天候を気にする習慣があり、特にギリシャの映像としてよく見る、青い空、青い海、澄んだ空気というものを想像していたが、少し悲しい気持ちになった。タクシーで15分ほど、こぢんまりとしたバスターミナルへ到着した。市内の循環バスやタクシーが乗り入れ、至る所に大きな荷物を抱えたカップルやサンダルを履いた地元民、水着に近い姿の若者がグループでいる。

これから目指すハルキディキ半島は、三本指のような形をしていて、全てがエーゲ海に面しており、島々には及ばないがいわばリゾート地でもある。また、そこまで電車も通ってないことから、生活道路にもなっている。そのうちの最北に位置する半島全体が、今回の連載のテーマでもあるアトス(アギオンオロス)といわれるギリシャ正教最大の聖地であり、ギリシャ人にとって憧れの地である。そこへ行くためには、半島の付け根の街ウラノーポリをまず目指さなくてはならないのである。所要時間はおよそ3時間。

バスは1日5便出ており、早朝は季節にもよるが6時前後から出ている。ターミナルの待合室には小さなコンビニと、ギロピタやパンを販売しているカウンターがあったのでバスを待つ間に頂いた。ギロピタとはギリシャの代表的ファストフードであり、都内でもよく目にするケバブ屋の機械で豚肉を削ぎ、玉ネギ、トマト、ポテトフライにマスタードソースを厚手のピタパンで包んでそのまま食べるものである。カリカリの豚肉とビールの相性は抜群だ。

聖山アトス巡礼紀行・アトスの修道士と祈り(1)ウラノーポリの夕陽 中西裕人
ギロピタ ギリシャの代表的ファストフード 1・5ユーロ

バスを待つこと数時間、バス停とは思えないところに急に止まり、急に乗り出すシステム。日本の深夜バスのような大きさで、中は意外に快適で、指定ではあるが誰もほぼ守っていなかった。

生活道路でもあるためテッサロニキを出て、至る所でバスが停まり、乗り降りを繰り返す。家族連れや通学、高齢のマダムたちがランチ帰りなのか通院なのかと思わせるほどの路線バス感覚である。数時間行ったところには、セットなのかと思わせるほど美しい街が目の前に広がる。石畳にカフェ、絵になる階段にお花を飾ったかわいいお家、これまでファッション撮影で編集者とロケハンを繰り返してきた職業病で心が弾んだ。「ここで撮影したい」「あの号のあの服、ここでやれたら良かったな」などと考えながら、さらにはたまに道の看板に出てくる「アギオンオロス」の文字になんだか心がウキウキしながら、移り行く光景に感動も含みながらバスは進んだ。

ギリシャ特有のゴツゴツとした岩山に、等間隔に生える緑深いオリーブの木、そこを縫うように走ること2時間、人もまばらになり、海が目前に広がる。今度は赤い屋根に白い壁、リゾートマンションにホテルが数件。いわゆるリゾートとは違い地元愛され型リゾートの感覚であるが、この数時間でギリシャ感を楽しめる。そしていよいよ海目前の行き止まりの所にバスは停まった。ウラノーポリに到着である。街はメーン通りに海岸通りの2路線が中心でこぢんまりと200メートルくらいの道のり内にレストラン、ホテル、お土産屋が立ち並ぶ、海岸沿いは全てレストラン。テーブル席が砂浜に迫り出し、いわゆるリゾート感が満載である。お店は6割以上がレストランで採れたての海鮮を味わえる。水着を着たバケーションの客も少なくないし、一瞬自分は何をしに来たのかと疑うほど、脱力感と開放感を味わえるそんな街である。

聖山アトス巡礼紀行・アトスの修道士と祈り(1)ウラノーポリの夕陽 中西裕人
ウラノーポリの海岸
聖山アトス巡礼紀行・アトスの修道士と祈り(1)ウラノーポリの夕陽 中西裕人
巡礼者たちが集まる半島の付け根ウラノーポリのメーン通り
聖山アトス巡礼紀行・アトスの修道士と祈り(1)ウラノーポリの夕陽 中西裕人
レストランお土産屋が立ち並びリゾートを思わせる海岸通り
聖山アトス巡礼紀行・アトスの修道士と祈り(1)ウラノーポリの夕陽 中西裕人
バルブーニャ(ヒメジの一種のフライ) シンプルに塩とレモンだけで

明日からアトスへ入る。夕食の後に海に出た。海に落ちる夕日を見ながら、おそらく同じ夕日を修道士たちも見つめているのだろうか。暦(こよみ)も違う、女人禁制、中世から変わらぬ祈りにささげた生活を続ける修道士たちが暮らすアトス(アギオンオロス)は目前と思うとドキドキとワクワクが止まらなかった。

巡礼者たちは明日の朝9時半の船でアトスに入るために、ここに1泊する人がほとんである。いわばここに来なくてはアトスに入れないのである。アトスへの玄関口であるウラノーポリという名は「天国への入り口」という意味だそうだ。まさにこのウラノーポリの今日の夕日は、明日の朝、朝日が上がるアトスの方角を照らし、われわれも含め巡礼者たちを天国へ導いてくれているような気がした。

聖山アトス巡礼紀行・アトスの修道士と祈り(1)ウラノーポリの夕陽 中西裕人
ウラノーポリの海岸で食後に見た夕日

次回予告

日本ハリストス正教会司祭であり、アトス研究を20年近く続け、父でもある中西裕一が、聖山アトスとは一体どのような場所なのかということを分かりやすくお伝えします。

次回へ>>

中西裕人写真展「Stavros アトスの修道士」

写真家・中西裕人は、撮影禁止のギリシャ正教最大の聖地であるアトスに、主席大臣より特別に許可を得て、エーゲ海に囲まれた豊かな風景、そこで暮らす修道士たちの祈りを中心とした生活に密着してきた。世界遺産、女人禁制、暦も違う、中世からの生活が色濃く残る知られざる聖地アトスを氏の父でもある日本ハリストス正教会の中西裕一と共に訪れ、貴重な瞬間を収めた。

キヤノンギャラリー全国巡回を経て、2016年2月6日(土)~11日(水)まで、京都ハリストス正教会生神女福音大聖堂 西日本教区センターにて追加開催。

場所 京都ハリストス正教会 生神女福音大聖堂 西日本教区センター
住所 604-0965 京都市中京区柳馬場通二条上ル六丁目283
問い合わせ 075・231・2453 rxjkx321@yahoo.co.jp
時間 10:00~16:00
入場無料

2月11日(水・祝)13:00~16:00
父、日本ハリストス正教会司祭の中西裕一による特別講演会、ギャラリートーク開催 参加費用500円(申し込みの際は2月7日までに京都ハリストス正教会に直接ご連絡ください)

中西裕人

中西裕人(なかにし・ひろひと)

写真家。1979年生まれ。東京都杉並区出身。日本大学文理学部史学科卒。外苑スタジオ勤務後、雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)専属フォトグラファーを経て独立、雑誌、広告、webを中心に活動中。2014年に洗礼を受ける。父は日本ハリストス正教会司祭であり、年に数回共にアトスを訪れ修道士の生活などに密着した取材を続けている。

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