銀座で聖地アトスの写真展 写真家・中西裕人氏が撮った修道士たちの祈り

2015年7月24日23時18分 記者 : 土門稔 印刷
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写真家の中西裕人氏。昨年、父で日本のアトス研究の第一人者であるパウエル中西裕一氏(日本ハリストス正教会司祭)と共に3週間にわたってアトスに滞在し、撮影を行った。

写真家の中西裕人氏による写真展「Stavros アトスの修道士」が、7月23日から29日まで、キャノンギャラリー銀座(東京都中央区)で行われている。「Stavros(スタヴロス)」は、ギリシャ語で十字架を意味する。ギリシャ正教最大の聖地アトスは世界遺産にも指定されており、中世より女人禁制を貫いたまま修道士たちが生活全てを祈りにささげている。ギリシャ国内でありながら修道士の自治領であり、入域および写真撮影は特別の許可が必要だという。今回、裕人氏は日本のアトス研究の第一人者である父のパウエル中西裕一氏(日本ハリストス正教会司祭)と共に許可を得て、修道士たちの姿とエーゲ海北部の豊かな自然を撮影した。

初日の23日、人混みでにぎわう銀座中央通りから歩いて3分のギャラリーに足を踏み入れると、そこには繁華街とは全く違う時間と空気が流れていた。会場では、正教の修道士たちのささげるキリエレイソンという祈りの声がかすかに流れる中、「アトスの風景」「修道士の生活」「祈り」「永眠」などのテーマに沿って約40枚の写真が展示されている。

銀座で聖地アトスの写真展 写真家・中西裕人氏が撮った修道士たちの祈り
ギャラリーには、「アトスの風景」「修道士の生活」「祈り」「永眠」などのテーマに沿った40枚の写真が展示されている。

アトス自治修道士共和国は、ギリシャ北部テッサロニキの南東約130キロのアトス山(標高2033メートル)を中心とするアクティ半島(アトス半島)にある。遠くから見ると、海からの交通手段しかない全長約45キロの細長い岬となっており、その沿岸は断崖絶壁となり、他の地域とは隔絶された一種の秘境だ。

アトスには7世紀ごろから修道士たちが暮らし始め、963年に聖アタナシオスが、東ローマ(ビザンツ)帝国皇帝から免税特権を付与され、修道院を創立し厳しい戒律に基づく共同生活という隠修のスタイルを生み出してから聖地として栄えたという。1406年からは女人禁制となり、現在は20の修道院で2500人の修道士が生活しているという。

銀座で聖地アトスの写真展 写真家・中西裕人氏が撮った修道士たちの祈り
海岸沿いに建つ修道院 © Hirohito Nakanishi

「修道士の生活」として撮られた写真からは、普段は目にすることができない修道士たちの表情がうかがえる。トラペザ(食堂)では、黒い僧服を着た修道士たちが集まり、食事をとっている。修道院では食事も祈りの時であり、一人一人が祈りの言葉を読み続け、私語も許されないそうだ。しかし、裕人氏が撮影した日は祭りの日で、普段より少しだけ豊かなごちそうを楽しむ修道士たちの所作はどことなく軽やかで、喜びが伝わってくるようだ。

修道院の食事を写した写真も。パスタのトマト煮、すりおろしたタマネギ、ニンジン、レモン、オリーブオイル、シナモンで煮込みハーブを加えたスープ。斎日(さいじつ)の食事には、パンにオリーブの実とスイカが添えられており、質素だが自然の豊かな恵みを感じる。作家の村上春樹は1980年代後半、『ノルウェイの森』を執筆していた当時、『雨天炎天』というギリシャ・トルコ辺境旅行記で、アトスの修道院での食事を書いていたのを思い出す。

修道院では修道士たちが畑で作物や野菜を作り、ほとんどが自給自足で賄われているそうで、トマトを収穫する姿を写した写真もある。

「祈り」をテーマにした写真では、イコンを制作する様子を撮影した写真が印象的だ。イコンを制作する修道士は、手本となる古いイコンを指示棒に手を置いて正確に「模写」する。イコンに制作者の名前が記されることはない。制作者の想像力は、日常の感覚を超えて神を感じ取ることにかかっているという。

銀座で聖地アトスの写真展 写真家・中西裕人氏が撮った修道士たちの祈り
手本となる古いイコンを指示棒に手を置いて正確に「模写」する修道士 © Hirohito Nakanishi

最も胸を打たれるのは、大祭における祈りの場を撮った写真だ。三角形の祭服(フェロン)を身に付け、燭台など琥珀(こはく)色の装飾に飾られた聖堂で夜通し祈りをささげる司祭たち。ギリシャ各地から訪ねてきた巡礼者たちが、刷毛(はけ)で額に油を塗られ、司祭に接吻して応える様子。そして、キリストの体となったパンと、血となった赤ぶどう酒を信徒がいただく「領聖」の瞬間。しっかりと生活に根付いた素朴で敬虔な信仰の喜びの姿が写真の中に見事に切り取られている。展示された写真を眺めていると、1000年以上にわたり正教の聖地で受け継がれてきた祈りの深さと聖性が伝わってくるようで、深く胸を撃たれる。

撮影した裕人氏は1979年生まれ。日本ハリストス正教会の司祭を務めながら、30回以上アトスを訪ねている父の裕一氏からアトスの様子を聞き、写真家として興味を持ったという。2014年に父子で3週間滞在し、修道士の生活や典礼の様子など、貴重な瞬間を間近で撮影することができたそうだ。

「行く前は、修道院での生活にどんな喜びがあるのだろうと思っていました。でも実際に訪ねてみると、修道士たちは皆、朗らかだし、素朴な生活の中に静かな喜びがある。彼らにとって祈りをささげている時が一番幸せな時間なのだと体で感じました」と裕人氏は語る。

銀座で聖地アトスの写真展 写真家・中西裕人氏が撮った修道士たちの祈り
裕人氏(右)と父の裕一

父の裕一氏は、古代ギリシャ哲学を研究するうちに正教に出会い、司祭となったという。現在は、日本大学の教授として東方キリスト教の奉神礼(典礼)や教会暦などを研究している。何度もアトスを訪れ、半年余り滞在していたこともあるそうで、知人の修道士を通して撮影の許可を得ることができたという。

裕一氏は大祭で祈りをささげる写真を前にこう語る。

「正教では規則や教義よりも、ロウソクの光を目にし、香の匂いを感じ、鳴らされる音を深く聴くというように、五感と体全体を使って祈ります。そして教会の暦に沿って生活するというリズムを大切にします。祈りの中で自分が神にふさわしい生活を実現していけるのか、自分を無にしてどれだけ神を自分の中で受け入れていくことができるのか、深い祈りの中で自分をどこまでも見つめていく。それが正教の信仰なのです」

そして、最後にこう語ってくれた。

「日本で正教を伝えるために、知人の修道士を通して撮影の許可をいただくことができました。写真展を通して、日本でもっと正教を知ってもらいたいと思います。だからこの展示は私にとって『宣教』という目的もあるのです」

「Stavros アトスの修道士」はキャノンギャラリー銀座で、7月23日(木)から29日(水)まで。開館時間は午前10時半~午後6時半まで(日・祝日は休館)。詳細はホームページで。

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