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聖ニコラスの生涯

サンタ・クロースと呼ばれた人―聖ニコラスの生涯(37)パンと魚の教会

2026年1月21日20時52分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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サンタ・クロースと呼ばれた人―聖ニコラスの生涯(1)孤児ニコラス+
聖ニコラスの肖像画(画:ヤロスラフ・チェルマーク)

やがて、土台もなくなるほど破壊されたミラの教会堂が建て直され、以前よりも立派な建物として整えられると、各地から続々とクリスチャンたちが戻ってきて、新しく訪れた人々と共に賛美と礼拝がささげられるようになった。

この教会では、亡きシメオンの代わりにヨシュアが助祭に、ユストの代わりにクリスポが長老の一人に立てられた。アペレはそのまま執事の役職を続けた。

あのパン屋のクロエも既に50歳近くなっていたが、まだ店を切り回すだけの元気があり、養子のアデオダートスは31歳で、メリッサというギリシャ人の娘と結婚し、クロエを助けていた。

そして彼らは、今では熱心なクリスチャンとなっており、ミラの教会堂が新しく建て直された最初の聖日礼拝の時、洗礼を受けた。このパン屋の家族は、礼拝が終わると、会堂の後ろにある広い台所で集まった人々にパンの焼き方を教えた。

そして、それぞれが持ち寄った小麦粉を使ってたくさんのパンを焼き、それを町や村の貧しい人々に配ることが大切な行事となった。

そのうち、浜辺に住む漁師たちも日曜日には家族を連れて教会にやって来るようになり、彼らは魚をささげた。これらの食材も台所に運ばれ、漁師たちは魚のさばき方を人々に伝えた。

そして、婦人たちの手によってそれらの魚は調理され、パンと一緒に貧しい家庭に届けられた。こうしてたくさんのパンと魚が教会から貧しい人々に配られることが教会の大切な務めとして認識されるようになり、いつしかこのミラの教会は「パンと魚の教会」と呼ばれるようになったのだった。

さて、ニコラスは、相も変わらず礼拝や教区のための務めがないときには、せっせとあのパンケーキ作りに余念がなかった。ここ2、3年のうちに彼の腕は特に上がり、どんな菓子屋に並べられる上等な商品にも勝るとも劣らない上等のパンケーキを作ることができた。

今日も彼は大きな麻袋に「天使の微笑」のレシピをもとに作ったりんごやすもも入りの焼き菓子を詰め込んで、山の上の村落に出かけた。そこに住む農家の子たちに配るためであった。

以前、こうして袋を担いで坂道を登ったときには、彼はまだ21歳の若者だった。あれから20年もたつ今、しかも長い間迫害下で生き延び、危険をくぐり抜けてきた身にとっては、坂道はかなりきついものがあった。

彼が体をかがめ、ふうふうと息をつきながら歩いていくと、あっちからも、こっちからも子どもたちが駆けてきて、彼の腕にぶらさがった。全て見知らぬ子どもだった。

「おはようございます、司教様」。彼が子どもたちに押されるようにして山道を歩いていくと、農家の人々が頭を下げた。「いいお天気ですねえ。これからどこへ行かれます?」「丘の上の家々を回ってお菓子を届けに行くんですよ」

そして、ニコラスは汗をぬぐって、また子どもたちと歩き出した。すると、一人の子どもが声を張り上げて歌い始めたではないか。

よっこら よっこら 山道歩き
ニコラス様がやって来た。
袋の中には 何がある?
良い子にあげるお菓子です。

ニコラスは、びっくりして足を止めた。「きみ、どうしてこの歌知ってるの?」「お父さんがよく歌っていたもの。農家の人は誰でも知ってるよ」

子どもはにこにこして言った。ニコラスの心は温められた。あの迫害があった年月、そしてその後、身を隠してひっそりと生きてきた年月の間も、子どもたちはこの歌を歌い継ぎ、次の世代の子どもたちに託していたのである。

よっこら よっこら 一緒に歩こう
ニコラス様の菓子配り。

あっちの家から こっちの家に
みんな笑顔でありがとう!

歌に励まされて、ニコラスの足は急に強くなった。彼は家々を回り、貧しい暮らしをしている家の子どもにとびっきり上等のパンケーキを配ったのだった。

「ニコラス司教様。おいしいお菓子をありがとう」。子どもたちは目を輝かせてお菓子の袋を受け取った。あの飢餓の時は、十分に小麦粉を使えなかったから薄い菓子しか作ることができなかったが、今はローマ政府から教会に小麦の配給があり、あの時より厚くてふっくらしたパンケーキを焼くことができたのだった。

*

<あとがき>

コンスタンティヌス大帝によってキリスト教が公認されると、ミラの教会も復興し、教会堂も以前より立派な建物に変わりました。教職者の顔ぶれも新たになり、伝道の第一歩が始められたのです。

クロエのパン屋もますます地域の人々に愛され、31歳になったアデオダートスはメリッサというギリシャ人の女性と結婚し、クロエを助けていました。この一家は既にクリスチャンとなってミラの教会で奉仕をしていました。

彼らは、礼拝が終わると、後ろの広い台所で集まってきた人々にパンの焼き方を教え、できたパンを近隣の地域の貧しい人々に配ることが教会の大切な務めの一つとなりました。また、漁師たちも魚を運んできて、そのさばき方や焼き方を人々に教えることをしたので、それらもパンと共に生活困窮者に配られたのでした。

こうしたことから、いつの間にかこのミラの教会は「パンと魚の教会」と呼ばれるようになったのでした。そしてニコラス自身も、彼らと共にせっせと毎日子どもたちにパンケーキを焼くのでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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