Skip to main content
2025年6月15日20時35分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(15)連作版画『農民戦争』

2022年9月7日10時12分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
  • ツイート
印刷
労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

金メダルこそ授与されなかったが、『織匠』は国内で高く評価され、ケーテ・コルヴィッツは版画家として広く知られるようになった。あのレエアタア駅近くの美術展の審査委員会は引き続き出展を求めてきた。

1899年、ケーテは求めに応じて2点を出展することにした。一つは、以前ヘルマン・ザンドクールの個展に出した木版画『グレッチェン』を石版画にしたもの。もう一つは、木版画の『一揆』だった。

この美術展も成功で、彼女は多くの人から激励を受けた。この美術展に、あの社会運動家リープクネヒトがあいさつに来た。そして、彼はケーテに彼としては珍しく弱音を吐いた。

「もう刀折れ、矢尽きたというところですよ。最下層の人々や、惨めな生活をしている労働者たちに自覚を与え、立ち上がらせるために運動を続けてきたのですが、彼らはいざというときにはおじけづき、権力を恐れて尻込みしてしまうのです。もうなすすべはありません」

「彼らの気持ち、痛いほど分かります」。ケーテは言った。「追い詰められた者は冒険する勇気などないのです。なぜって、彼らは家族を守らなくてはならないのですから」

「あなたの言う通りです。もう一度デモンストレーションの方法を考えてみます。あなたの『一揆』を見て、少しは勇気が湧いてきました。ありがとう」。そして、彼は帰っていった。

ケーテは『一揆』の構想をもう少し変えてみようと思った。もしかしたら、その作品が労働者たちを団結させる発火点になるかもしれないと考えた。だが、新しい発想はどこからも湧いてこなかった。

(ああ、私は何と無力な女でしょう。診療所に戻れば3人の子どもの母。家事と育児に忙殺され、制作する時間も皆が寝静まった真夜中の時間しかないんですもの)――と、その時である。ふいに祖父ユリウス・ルップの声が響いてきた。(人生で一番大切なことは、イエス様が教えられたように、最も小さな兄弟の一人に親切にしてあげることだよ)

その時、変化が起きた。一揆の画面の中に炎が見え始め、それはだんだん強くキャンバスに広がった。そして、彼女の脳裏に昔読んだ16世紀の歴史的事件の物語がひらめいた。

農民戦争! そうだ。農民戦争という歴史的逸話だった。

16世紀のドイツ農民は、その土地の領主によってまるで奴隷のように扱われていた。家中の者が早朝から夕方暗くなるまで野良に出て耕作し、秋になって収穫を迎えても年貢としてその大半を領主によって没収され、家に残ったわずかな穀類では1年間の家族の生活をとても支え切れなかった。

借りた金は利子によって膨れ上がり、働けど働けどどん底生活に落ちていった。そして家族は飢餓のために病気になったり死んだりした。そうした動物以下の扱いに耐えかねて、農民たちはついに団結して残虐な領主に対して一揆を起こす。その都度過酷な方法で弾圧を被り、待っていたのは逮捕と処刑だった。

しかし、彼らは勝利した。大きな犠牲を払ったが、やがて彼らはその地位の向上と権利の拡大を自分のものとすることができたのだった。

その年、1903年。『農民戦争』の最初の絵が完成した。題は『一揆』ではなく、『蜂起』とした。

ちょうどこの頃、「フォアヴェルツ紙」の記者として油の乗り切っていた兄コンラードが彼女に、「シンプリチスムス」という雑誌を紹介した。「この編集部の人がおまえの大ファンでね。どうしても挿絵を描いてほしいそうだ」

そこでケーテは、いつかミルクの瓶を持って追いかけたあの妊婦を描いた『働く妊婦』と『死んだ子どもを抱く女』の挿絵2枚を「シンプリチスムス誌」の編集部に送った。

1908年。ついに連作版画『農民戦争』が完成した。それは、<たがやすもの><はずかしめられたもの><刃をとぐもの><地下室の武装した民衆><蜂起><戦場><捕らえられたもの>という7枚続きの劇的場面を描いたものだった。

この版画は、暗くうっくつした社会に光を投げかけた。見る者は、無力な者たちの闘いが、その悲惨な結末にもかかわらず敗北を乗り越えて勝利を勝ち取ることができるのだという確信を与えられたからである。

そして、この作品はリープクネヒトらが予感したように、まさに労働者や貧困にあえぐ者、抑圧された農民たちの覚醒と団結を生み出す発火点となったのだった。

この功労により、ケーテはマックス・クリンガーによって創設された「ヴィラ・ロマーナ賞」を受賞した。

*

<あとがき>

『織匠』で版画家として認められたケーテは、引き続きレエアタア駅近くの美術館から出展を求められ、『グレッチェン』の石版画と、新しく『一揆』の木版画を出展しました。その会場に、社会運動家のリープクネヒトがあいさつに来て、珍しく弱音を吐きます。最下層の人々を目覚めさせ、自立させようと運動を続けてきたが、いざというときに彼らはおじけづき、権力者に盲従してしまう――というのです。

ケーテは自分が制作した『一揆』にもう少し手を加えたら、その作品が労働者たちに力を与え、覚醒させることができるのではないかと考えますが、今一つ強いメッセージを発信できずにいました。そんな時、あの亡き祖父ユリウス・ルップの言葉が心に響いてきたのです。「人生で一番大切なことは、イエス様が教えられたように、最も小さな兄弟の一人に親切にしてあげることだよ」と。

やがてケーテは16世紀の歴史的実話からヒントを得、連作版画『農民戦争』を完成させたのでした。

<<前回へ     次回へ>>

◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
  • ツイート

関連記事

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(14)働く妊婦

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(13)連作版画『織匠』

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(12)労働者街のともしび

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(11)怒りの炎

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(10)泥沼に咲く花

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(5)時の賛歌 臼田宣弘

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 日本人に寄り添う福音宣教の扉(224)音楽が支える聖霊による祈り 広田信也

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • ワールドミッションレポート(6月15日):ベラルーシのために祈ろう

  • ワールドミッションレポート(6月14日):スイス 信仰で買ったトラクター、ローレン・カニングハムとYWAMに託された農場の奇跡

  • ワールドミッションレポート(6月12日):ベルギーのために祈ろう

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 花嫁(27)絶えず喜んでいなさい 星野ひかり

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • フランクリン・グラハム氏、ゼレンスキー大統領と面会 和平求め祈り

  • 淀橋教会、峯野龍弘主管牧師が引退し元老牧師に 新主管牧師は金聖燮副牧師

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

編集部のおすすめ

  • 四国の全教会の活性化と福音宣教の前進のために 「愛と希望の祭典・四国」プレ大会開催

  • イースターは「揺るぎない希望」 第62回首都圏イースターのつどい

  • 2026年に東京のスタジアムで伝道集会開催へ 「過去に見たことのないリバイバルを」

  • 「山田火砂子監督、さようなら」 教会でお別れの会、親交あった俳優らが思い出語る

  • 日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.