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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(10)泥沼に咲く花

2022年6月29日17時31分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

それから3日後、バンコップ夫人が取り乱してやってきた。「先生、来てください! エミールが工場で倒れて、家に帰されてきたんです」。コルヴィッツ夫妻は、取る物も取りあえず、バンコップ家に駆けつけた。

エミールは青白く血の気を失った顔をして寝かされていた。2人はその小さな体を毛布でくるむと、診療所に運んだ。そして、そのまま入院となった。

ケーテは、少しも休まずエミールの看護を続けた。薬により、少し症状が落ち着くと、エミールは目を開け、ケーテにほほ笑みかけた。「先生たちって・・・いいことしてるんだね」。彼は、切れ切れに言った。「困った人を・・・みんな助けているんだもの」

「私たちにできることは少ないわ」。ケーテは、彼の髪をなでて言った。「でも、子どもは違う。大人ができないことをしているの。それはね、大人を元気にすること。子どもがいるだけで、その姿を見ているだけで大人は元気になるの」。ほっと息をつき、ひび割れた唇をほころばせると、そのまま彼は眠りに落ちた。

その翌日。エミールの症状は急変した。ずっと意識を失っていたが、8時ごろに彼はかすかに目を開け、コルヴィッツ夫妻の方に手を伸ばした。「エミール、何か欲しいものない?」その手を握りしめてケーテが尋ねると、彼はあえぎながら言った。「一つだけあるよ。・・・お願いしていい?」「何でも言っていいんだよ。できるだけ私たちはそれがかなえられるようにするからね」。カールも言った。

「じゃあ、言うよ。ぼく、最後に見たいんだ。お父さんとお母さんが手を握り合うのを。だから・・・ここで結婚式挙げさせてくれない?」2人は仰天した。「お願い。最後のお願いになるけど・・・お礼は・・・天国でするからね」。カールに後を任せて診療所を出ると、彼女は一目散に駆けた。

バンコップ家に近づくと、2人が怒鳴り合う声が外まで聞こえた。ケーテが中をのぞくと、椅子を両手で振り上げたバンコップの姿と、夫人の幽霊のような顔が見えた。「バンコップさん、奥さん」。彼女は2人の腕を取ると、家から連れ出そうとして言った。「エミールが、もう駄目なの。それであなたがたに最後のお願いをしたいと言っています」。2人は、化石のようになった。

「おまえ、行ってやれ! おれじゃ駄目だ」。「あんたが行くべきよ! あたしは何度もあの子を連れて診療所に行ってますからね」。「けんかはあとにして!」ケーテは強引に彼らを外に引っ張り出した。「あの子の枕元で、うそでもいいからもう一度手を握り合って見せてやってください。あの子、もうすぐ死ぬわ」。バンコップ夫人は、よろめきながら走り出した。ケーテはバンコップの腕を取ると、その後に続いた。

2階の病室に走り込むと、ベッドに付ききりでいたカールが顔を上げ、かすかに首を振った。もう駄目だという合図である。「エミール!」バンコップ夫妻は子どものもとに駆け寄った。すると、かすかに少年は目を開けた。――と、たちまちその目が輝いた。日頃けんかばかりしている両親が、しっかりと手を握り合っているではないか。

「さあ、エミール。あなたの願い通り、お父さんとお母さんは今から結婚式を挙げますからね」。ケーテが言うと、カールは牧師代理として2人の手の上に自分の手を置き、祝祷をした。エミールの目は星のように輝いた。

「よかった。・・・これで仲直りだね。・・・大好きだったよ・・・お父さん、お母さん・・・おめでとう」。にっこり笑って、自分の手をそれに添えようとして――突然その首ががっくりと落ちた。「エミール!」夫婦は、彼に取りすがって号泣した。この泥沼に咲いた花のように清らかな彼の魂は、天に帰っていったのだった。

エミールの小さな遺体は、町の人々の手によって共同墓地に葬られた。それから数カ月後、すでに健康が損なわれていたバンコップ夫人は、ふとした風邪がもとで肺炎になり、息子の後を追うようにして他界した。バンコップの消息は、それっきり分からなかった。

*

<あとがき>

バンコップ夫妻の一人息子エミールは、子どもながら、貧困が原因となってかつては仲むつまじかった両親が口論ばかりし、互いに傷つけ合うようになったことに胸を痛めていました。それで少しでも家計を助けようと工場で働くうちに、肺を患うようになります。

エミールだけでなしに、当時の欧米では青少年の工場労働が社会問題になりつつありました。これは英国の例ですが、ある少年の日記が公開されました。「ぼくは3時に起きて4時には工場に来ています。一日中働いて夜10時に家に帰り、ごはんを食べて12時に寝ています」

このような深刻な社会問題に対し、ほとんどの人が手をこまねいている中にあって、教会と召命を受けた一部のクリスチャンたちの血のにじむような努力によって、少しずつ社会のモラルが変えられてゆき、やがて少年の違法な労働を禁止する法案が議会を通過することになりました。

神様の働きは人の目には遅く見えても、決して破れることがないのです。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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