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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(11)怒りの炎

2022年7月13日16時56分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1892年。コルヴィッツ夫妻は長男ハンスを授かった。これは夫妻の生活の中に小さなともしびがともされたようであった。ケーテは母として、医者の妻として、版画家として多忙な日々を送ることになった。しかしながら、カールはそうした中にあっても妻の才能が押し潰されてしまうことがないようにと気遣い、制作する時間をとらせるようにあらゆる策を考えたのだった。

そんな中、レエアタア駅近くの美術館でアマチュアの美術展が開かれることになり、作品を募集していることを知った彼は、ケーテに出展を勧めた。そして言った。「ケーテ、今まで描いたものの中にいいものがあるじゃないか。出してごらんよ」

彼女は迷ったが、夫があまり熱心に勧めるので、3点ほど出展してみた。ところが、結果は落選だった。「絵が暗すぎる」「テーマが悲惨で重苦しい」。こんな評価しか与えられなかった。

そんな時、埋もれている芸術家の発掘をしているヘルマン・ザンドクールという画家が個人の出費で美術展を開くことになった。彼は以前、ヘルテリヒ美術学校に展示されていた『ふみにじられたもの』という絵を忘れることができなかった。その強烈なイメージは、彼の脳裏から離れることがなかったのである。そして、それを描いたのが労働者街で長年下層階級の人々の診療に当たっているカール・コルヴィッツ医師の妻であることを知り、カールを通して出展を求めてきた。

ケーテは新たに『グレッチェン』という絵を描き、出展した。川岸で少女が投身自殺をしようとしている絵で、すぐ左で死に神が手招きをしている。すべてのものから背を向けられ、死に追いやられる少女の絶望が、見る人の胸を締め付けるのだった。

ザンドクールはこれに金賞を与え、それが世間の話題をさらったのだった。

翌年1893年。あのゲルハルト・ハウプトマンがベルリンの自由劇場で「織匠」という芝居を上演することになり、コルヴィッツ夫妻の所に入場券が送られてきた。「私は忙しいから、おまえ1人で行ってきなさい。何か制作のヒントが得られるかもしれないよ」

カールはこう言って、診療から事務、患者の応対、そしてケーテに代わって家事や育児まで引き受けてくれたのだった。

「織匠」はシレジアで実際に起きた事件を基にした台本で、国家、資本家、地主から三重の搾取を受けて苦しむ機織り職人とその家族の運命を描いたものだった。そのあらすじは、ある機織り職人が仕事を失い、一家はどん底生活にあえいでいる。そして、ついにおかみさんが死ぬ。機織り職人は我慢できずに、同じように圧迫され苦しんでいる職人仲間たちを集め、協議する。彼らは団結し、一斉に地主の屋敷に押しかけ、石を投げ込み気炎を上げる。

しかし結果は、この一揆は権力者によって鎮圧され、多くの犠牲者たちの死によって終幕となる――というものであった。陰惨な物語であるにもかかわらず、この芝居が観客に与えた感動はすさまじいものであった。打ちひしがれた貧しい階層の者たちは、初めて自分たちの代弁者を見つけたような思いになった。そして、仲間と団結すれば、たとえ一時的に苦しみの中を突き進まねばならなくても、必ずその未来に明るい希望を見いだせるのだということをこの日知ったのである。

ゲルハルト・ハウプトマンは入り口に立って、芝居を見に来てくれた人たち一人一人と握手を交わしていた。彼はケーテの姿を認めると、駆け寄ってその手を握りしめた。「来てくれたんですね」。彼は言った。「大成功でよかったですね。おめでとうございます」。彼女も心から祝福の言葉を述べた。するとハウプトマンは、そっとその耳にささやいた。

「自分はこの芝居の上演によって政府高官や上流階級の人たちに嫌われ、たくさんの友人を失うことになるでしょう。それでもいいと思っています。私は貧困にあえぐ下層階級の人たちや不当に搾取されている職人たちの味方になってあげたかった。そして彼らの人間としての尊厳を回復させ、自立を助けるためにペンを用いて奉仕がしたかったのです。コルヴィッツ夫人。作家が大衆の悲しみや苦しみに寄り添う気持ちを忘れたらおしまいだと思います。あなたが金賞を取った作品を見たけど素晴らしいものでした。どうかあなたも版画を武器として貧困に苦しむ人たちの味方をしてやってください」

そして2人は別れた。後になってこの「織匠」はケーテの制作意欲に火をつけ、彼女はこの作品によってこそ運命を切り開いてゆくことができたのであった。

*

<あとがき>

ケーテの夫コルヴィッツ医師は、彼女が煩雑な診療所の雑務の中に、その才能を埋もれさせてしまうことを懸念し、あらゆる手を尽くして彼女の作品を発表できる機会を探していました。そのうち彼は、ふとレエアタア駅近くの小さな美術館が、アマチュア美術展を開くため作品を募集していることを知り、ケーテに何か出展することを勧めます。

そこで彼女は今まで大切に温めてきた『ふみにじられたもの』の姉妹編として、『グレッチェン』という版画を出展します。これは、川岸で少女が今にも投身自殺しようとしている絵で、多くの人に衝撃を与え、「ヘルマン・ザンドクール賞」を受賞したのでした。

やがてそんな時に、兄コンラードの友人で劇作家として独り立ちしたあのゲルハルト・ハウプトマンが自由劇場で「織匠」という芝居を上演することになり、コルヴィッツ夫妻の所にチケットが送られてきました。この作品との出会いこそ、ケーテが版画家としての道の第一歩を踏み出す道しるべとなったのでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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