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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(12)労働者街のともしび

2022年7月27日12時10分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1896年。コルヴィッツ夫妻は2人目の子どもを授かり、ペーターと名づけた。ケーテはますます育児と家事、看護助手の仕事に忙殺されるようになった。しかし、そうした中にあっても、彼女は夫カールに助けられながらわずかな時間を見て制作を続けていた。

彼女は、あの感動の芝居「織匠」を一場面ずつ版画で表現できないかと考えた。彼女は診療所を訪れる患者の悩みや苦しみをつぶさに見てきたので、これら下層階級の人々の気持ちを理解できるようになったのである。

失業――ふと、そのテーマが心にひらめいた。そうだ、この作品は失業から始まらなくてはならない。それが彼らの破滅の原因だからだ。

長男ハンスはもう4歳になっていた。彼は生まれて間もない弟ペーターをことのほかかわいがり、母が忙しい時には抱いてあやしたり、ミルクを飲ませたり、片時もそばを離れずに世話するのだった。

そんなある日のこと。診療所に近所の人が駆け込んできた。「先生、大変だ! グレイトーアの奥さんがひっくり返っちまった。子どもが泣いて手がつけられないよ」

グレイトーア夫人は夫を亡くして、昼は内職をし、夜は酒場で働いて一人息子ゲオルクを育てていた。過労から体調を崩しがちになり、どうにかその日仕事に出ようとしたが、倒れてしまい、吐血したのだった。

カールはカバンを抱えてグレイトーア家に駆けつけたが、病人の上にかがみ込んで脈を見ると、もはや助かる見込みがないことが分かった。そして、間もなく夫人は死んだ。

「母ちゃん・・・母ちゃん・・・」。幼いゲオルクは母の体に取りすがって泣いた。近所の人たちは死体運搬車を呼び、その遺体を共同墓地に運んだ。カールは幼いゲオルクの手を引き、取りあえず診療所に帰ってきた。そしてケーテにわけを話した。

「おばちゃん、うちの母ちゃんが、死んじゃったの!」ゲオルクはケーテにしがみつき、またわっと大声で泣いた。ケーテは、その小さな体を力いっぱい抱きしめて言った。「かわいそうにね。でもね、お母さんは死んでいないのよ。天国で幸せに過ごしているわ。そうして、イエス様のそばでゲオルクがいつも元気で幸せでありますようにってお祈りしているのよ」

それから、ゲオルクを風呂に入れ、着替えを済ませてから、その晩は子どもたちと一緒に寝かせることにした。夜中になると、ゲオルクはまた泣き出した。引きつったような声で「母ちゃん! 母ちゃん!」と叫び、静まりそうになかった。

と、その時である。隣で寝ていたハンスがそっと手を伸ばすと、ゲオルクの頭をなでてやり、それから立ってゆくと自分の絵本を持ってきて、たどたどしい口調で読んでやったのである。

「まいごの羊さんの話だよ。・・・ある人がたくさん羊を飼っていました。ある日、その中の一匹がまいごになりました。・・・すると、やさしい羊飼いのおじさんは、けわしい山や谷底まで羊を捜して歩きました。・・・そしてやっといなくなった羊を見つけると・・・自分の肩に乗せて帰ってきました・・・」。いつの間にかゲオルクは顔を涙だらけにしながら眠っていた。

「あの2人はもう兄弟なのよ」。そっとこの様子を見ていたケーテは夫に言った。もう孤児院に彼を入れるには忍びなく、夫婦は話し合いの結果、ゲオルクを養子として引き取ることにし、翌日役所に届けを出したのだった。こうした生活の中にあっても、ケーテはコツコツと制作を続け、それから間もなく『織匠』の下絵が完成した。

そんな時、外で遊んでいたハンスとゲオルクが野犬狩りの車に乗せられる寸前だったというみすぼらしい野良犬を連れてきた。結局この犬もコルヴィッツ家の家族に体を洗われ、毛をとかされ、食物を与えられ、ピティと名づけられて家族の一員となった。

この犬はとてもおとなしくて、人を噛むことなど全くなかった。犬小屋など置く余裕はなかったので、夜はハンスとゲオルクの間で寝ることになり、昼は居間の隅に陣取って子どもたちが遊ぶのをじっと見守っていた。

そのうち、この犬は診療所にも顔を出すようになり、たちまち患者の間で人気者になった。患者たちは診療が終わってからこの犬をかまうようになり、頭をなでたり、その柔らかい毛に触れたりするうちに、つらい現実を忘れ、なごやかな思いになるのだった。おびえて泣く子も「ほら、ワンちゃんがいるよ」と言うとピタリと泣くのをやめた。

やがて診療所から子どもたちの笑い声や犬の声が聞こえてにぎやかになり、通る人はそれを聞いてしばし心の中に小さなともしびをともされたような思いになるのだった。

*

<あとがき>

2人目の子どもペーターを授かった後も、ケーテは育児や家事、診療の手伝いなどに忙殺されながら版画の制作を続けていました。そんな時、困窮生活を送るグレイトーアという寡婦が過労で倒れ、子どもを残したまま急死するという事件が起きました。見かねて、コルヴィッツ夫妻は彼女の遺児ゲオルクを引き取り、養子としたのでした。長男ハンスはこの時4歳になっていましたが、ゲオルクを何かといたわり、2人はまるで双子の兄弟のようでした。

ある日、彼らは町で遊んでいたとき、野犬狩りの車に乗せられようとしている犬を救い、診療所に連れ帰りました。ピティと名づけられたこの犬はコルヴィッツ家の家族の一員となり、診療所の人気者になりました。それから間もなく、診療所からは子どもたちの笑い声や歌声、そして犬がワンワンほえる声が聞こえるようになり、ここを訪れる患者や通行人の心を温かく包むのでした。

この時から、誰言うともなくこの場所を「労働者街のともしび」と呼ぶようになりました。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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