Skip to main content
2025年9月16日11時38分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(7)人生の掃き溜め

2022年5月18日18時51分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
  • ツイート
印刷
労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

ケーニヒスベルクに戻って1カ月後。ケーテはスケッチブックを抱えてプレーゲル川沿いに歩いていた。そこには以前家内工業をやっていた家が軒を連ねていたが、その大方は廃屋になっていた。と、その3軒目から激しい子どもの泣き声が聞こえてきたので、思わず彼女は近づいていった。

入り口のドアはなくなっており、窓ガラスは割れていた。暗い家の中で2人の子どもが泣いている。中央のテーブルに一人の女がつくろい物に顔を埋めるようにして突っ伏していた。「母ちゃんが、起きないの」。ケーテの姿を見ると、上の男の子が抱きついて訴えた。

近寄ってみると、まだ息はあるが、どうやら気を失っているらしい。ケーテは町の中央通りに行き、商店街から人を呼んできた。パン屋と家具屋の店主が一緒に来てくれた。

「シュルツさん!しっかりしなさい」。2人が女の肩を揺すぶったが、女はがっくりと倒れてしまった。「病院につれていきましょうや」。家具屋はこう言って、近所から荷車を借りてきた。そして、女を毛布でくるみ、それに乗せると、中央通りにある「救護院」(貧しい人々や行き倒れの人を収容する施設)につれていった。

応対したのは若い医師だった。その顔を見て、ケーテはびっくりした。兄コンラードの友人であるあのカール・コルヴィッツという医師だったからである。彼が北ベルリンの「労働者街」に保険医として勤務していることは兄から聞いて知っていたが、この日は、この施設の医師が研修のため出張していたので、代わりに来ていたのだった。

コルヴィッツ医師は運ばれてきた患者を診療室に入れると、脈を調べ、それから聴診器を当てて丁寧に診察して言った。「体がかなり衰弱している上に、肺炎を起こしています。原因は過労と栄養失調です」。「かわいそうに。旦那が3カ月前に死んじゃったから、このハンナさんが昼も夜も働いて子どもたちを養っていたんだよ」。家具屋はため息をついて言った。「何とかしてあげられないでしょうか?」ケーテは、コルヴィッツ医師に言った。「取りあえず、この人は入院です」。彼は答えた。

そこで皆は患者を2階の病室に移した。その施設には、夜勤の看護師が1人来ていたが、ケーテはしばらく付いていることにし、2人の商店主たちは帰っていった。家具屋は、シュルツの子ども――男の子と女の子をしばらく預かってくれるという。

「久しぶりですね」。コルヴィッツ医師はケーテに言った。それから下の事務所に行くと、コーヒーを入れて彼女に出してくれた。

「『労働者街』でのお仕事大変でしょう? 大勢の人を助けておられることを聞いています」。「あそこはまさに『人生の掃き溜め』と言われている所でしてね。失業者や生活困窮者たちがゴロゴロしている不潔な場所です」。コルヴィッツ医師はため息をついた。「保険医なんて名ばかりで、実際はあそこで診る患者たちは保険に入っていない労働者か生活破綻者ばかりなんですよ」。2人はいろいろと話をしたが、2人の価値観がまるで同じであることにケーテは驚いた。

気が付くと、もう夕方になっていた。コルヴィッツ医師は近くの食堂にケーテを案内した。そこは以前家族と来たことのある店だったので、ケーテは懐かしく思った。2人はパンとソーセージ、そして酢キャベツを食べたが美味だった。

「中流階級以上の人を診る医者はたくさんいます。でも、自分は誰も嫌がって診ようとしない人を引き受ける医者になりたかった。何だかそういう人生の中に真実があるような気がしましてね」。その時、ケーテはなぜか亡き祖父ユリウス・ルップの言葉を思い出した。(人生で一番尊いことは、最も小さな兄弟のために何かしてあげることだよ)

彼女は、突然言った。「何の保障もないのに、そういう場所で気の毒な患者さんを診るのは大変ですね。誰かそばにいて助けてあげる人はいないかしら?」すると、コルヴィッツ医師は真剣なまなざしでケーテを見て言った。「あなたのような人がずっとそばにいて助けてくれたら――いや、これは勝手な願いです」

「もし、こんな私でよかったら、いつまでもおそばにいて、お手伝いさせてください」。これは、そのまま結婚の約束になった。その数日後、カール・コルヴィッツ医師はケーテの両親を訪ねた上で、結婚の申し入れをした。

*

<あとがき>

ほんの偶然の出来事が、新しい人生の扉を開いてくれる鍵となることがあります。ケーテとカール・コルヴィッツの出会いもそうでした。たまたま郷里に帰り、スケッチのために貧しい人たちの家々が密集する路地を歩いていたケーテは、過労で倒れたある女性を近所の商店主たちと「救護院」に運んでいきました。

そこで担当医の代わりに来ていた医師のカール・コルヴィッツと出会うのです。彼は北ベルリンのスラム地区「労働者街」の保険医でした。2人は話をするうちに、その価値観も、信仰も、理想も不思議なほど一致することに驚きます。そして、最も惨めな人々のためにその人生をささげたいという思いが同じであることを確認し、やがて結婚することになったのでした。

ケーテの人生は、何とその節目において不思議な出会いに満ちていることでしょう。それはすべて、彼女が最も小さな兄弟のために人生をささげることが神様のご意志であることを示しているのです。

<<前回へ     次回へ>>

◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
  • ツイート

関連記事

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(6)版画家への道

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(5)祖父の遺言

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(4)この最後の者にも―ユリウス・ルップの説教

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(3)最も小さな兄弟の一人にしたこと

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(2)虐げられる職人たち

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • 米保守派活動家で熱心なクリスチャンのチャーリー・カーク氏、イベント中に射殺される

  • キリスト教に回心したウィキペディア共同創設者、所属教会を発表

  • 「聖書を読まなかったら、今の自分はない」 元ヤクザの進藤龍也氏と山崎純二氏が対談

  • イエスの統治を祝う祭典「ジーザス・レインズ」が10周年 ラップ賛美など新しい試みも

  • 主につながり、人々を主につなげよう 万代栄嗣

  • 篠原元のミニコラム・聖書をもっと!深く!!(244)聖書と考える「スティンガース 警視庁おとり捜査検証室」

  • 新しい発見 佐々木満男

  • 「苦しみ」と「苦しみ」の解決(12)「苦しみ」から「光」へ 三谷和司

  • シリア語の世界(32)シリア語聖書の人名・地名小辞典 川口一彦

  • ワールドミッションレポート(9月15日):アンギラ 静かなる島に迫る変化と教会の使命

  • 米保守派活動家で熱心なクリスチャンのチャーリー・カーク氏、イベント中に射殺される

  • 「世界で最も優しい裁判官」 フランク・カプリオさん死去、敬虔なカトリック信者

  • キリスト教に回心したウィキペディア共同創設者、所属教会を発表

  • 「聖書を読まなかったら、今の自分はない」 元ヤクザの進藤龍也氏と山崎純二氏が対談

  • イエスの統治を祝う祭典「ジーザス・レインズ」が10周年 ラップ賛美など新しい試みも

  • 石破茂首相が退陣表明、15年ぶりのクリスチャン首相

  • 「信教の自由を脅かす」 旧統一協会の解散命令巡り特別集会、西岡力氏らが登壇

  • 「苦しみ」と「苦しみ」の解決(12)「苦しみ」から「光」へ 三谷和司

  • 新しい発見 佐々木満男

  • ワールドミッションレポート(9月15日):アンギラ 静かなる島に迫る変化と教会の使命

  • 「世界で最も優しい裁判官」 フランク・カプリオさん死去、敬虔なカトリック信者

  • 米保守派活動家で熱心なクリスチャンのチャーリー・カーク氏、イベント中に射殺される

  • 石破茂首相が退陣表明、15年ぶりのクリスチャン首相

  • 「信教の自由を脅かす」 旧統一協会の解散命令巡り特別集会、西岡力氏らが登壇

  • 牧師を辞めた理由は? 元牧師730人を対象に調査 現役牧師や信徒へのアドバイスも

  • 「聖書を読まなかったら、今の自分はない」 元ヤクザの進藤龍也氏と山崎純二氏が対談

  • ウェールズ聖公会、首座主教にレズビアンの女性主教選出 保守派からは強い批判の声

  • キリスト教に回心したウィキペディア共同創設者、所属教会を発表

  • 「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育

  • イエスの統治を祝う祭典「ジーザス・レインズ」が10周年 ラップ賛美など新しい試みも

編集部のおすすめ

  • 「20世紀のフランシスコ・ザビエル」 聖心女子大学で岩下壮一神父の特別展

  • 「罪のない赤ちゃんを殺さないで」 東京でマーチフォーライフ、中絶の問題を訴え

  • 教育改革が「日本のリバイバルにつながっていく」 牧師の金子道仁参院議員が講演

  • いのちの言葉聖書学校、日本語クラス2期生7人が卒業

  • 淀橋教会で新主管牧師就任式・祝賀会 金聖燮牧師が6代目に

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.