Skip to main content
2025年6月15日20時35分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(9)追い詰められる労働者

2022年6月15日16時44分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
  • ツイート
印刷
労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

その翌日、一人の痩せた少年がおずおずと診療所にやってきた。バンコップ家の息子エミールだった。「やあ!」とカールが声をかけると、彼も元気よく「やあ!」と言ったが、途端に激しく咳き込み、背をなでてやるとようやく治まった。

カールは彼を診察したが、見る見るうちに顔が曇った。もはや手の施しようもないほど健康が損なわれていることが分かったからである。その間にケーテは、シロップに咳止めの薬を溶かし込んで、彼に飲ませた。

少し落ち着くと、少年はコルヴィッツ夫妻に笑いかけた。「あのさ、うち大変なんだ。お父さんがお酒飲んで暴れて、よくお母さんのこと殴るの。パンを買うお金もなくてさ。お母さんが内職しても足りないから――で、ぼく工場で働くことにしたんだ」

それから、大切な秘密を打ち明けるようにこっそり言うのだった。「今度お金もらったら、お母さんにショール買ってあげたいの。お母さん夜なべするから体がとっても冷えてね」。「きみは偉い少年だ。でもね、子どもはしっかり栄養をとって毎日元気よく過ごさなくちゃいけないんだ。そうさせてあげる義務が大人にはあるんだよ」。カールが言うと、エミールはまたにっこり笑った。そして、帰っていった。

その翌日。コルヴィッツ夫妻は、バンコップ家を訪ねた。軒が傾いた家に近づくと、中からわめき声とともに物が壊れる音がした。続いてバシッ!と殴りつける音も聞こえた。2人はドアがなくなった入り口から中に入った。バンコップ夫人は額から流れる血を拭きながら慌てて2人を出迎えた。

「先生、この人気が狂っちまいました。私とエミール、この人に殺されます」。「そうやって、いつもおれだけを悪者にしやがって!」バンコップはまたしても夫人に向かっていったので、カールは抱き止めた。すると彼は、ペタンと床に座って泣き始めた。「おれは死にたいよ、先生」。「いつもそう言うけど、あんた死ぬ勇気もないじゃない!」夫人は毒づいた。

バンコップはよろよろとベッドにひっくり返ると、眠ってしまった。「あの、エミール君のことですけどね」。カールはバンコップ夫人に言った。「肺がすっかりやられています。お宅の生活費をわずかなりとも援助させていただきますから、あの子の工場勤めを辞めさせてもらえないでしょうか。もうこれ以上働かせるのは無理です」

「知ってますよ、そんなこと」。彼女は、叩きつけるように言った。「もう前からあの子の体が悪いこと知ってました。だから、あたしは内職をして、昼も夜も働いているんです。それに、辞めなさいって言っても、あの子聞きやしません」。2人は携えてきたわずかな金を彼女の手に押し付けて家を出た。

日がたつにつれて、ケーテは労働者の家庭の悲惨さが分かってきた。夫が病気をするか職を失うかすれば、そのしわ寄せがただちに妻と子どもに及ぶ。妻は子どもを養うために夫の暴力に耐え、自らの健康を犠牲にして働くうちに命を縮めていくのだ。

その日の午後。ケーテは市場に買い物に行き、パンを一斤買った。――とその時、すぐ近くの家から顔を厚いショールで覆った女が出てきた。するとその後から、3、4歳くらいの女の子が2人追いすがり、そのスカートにまつわりついて「パンちょうだい!」とせがんだ。「パンをよう、お母ちゃん!」

しかし、女は子どもを突き退けるようにして歩み去った。その痩せた顔を涙が一筋伝うのが見えた。

「パンがほしいの?」ケーテはそう言うと、籠の中からパン一斤を出して子どもにやってしまった。「お母さん、働いているの?」その尋ねると、2人はうなずき、もらったパンを抱えて家に入っていった。

家に帰ってカールにこの話をすると、その人はゲンナーという人の未亡人だという。彼は腕利きの靴職人だったが、工場で靴が大量に作られるようになってから失業し、その結果精神を病んでカミソリ自殺をした。それで妻は酒場で働きながら、2人の子どもを養っているということだった。ここにも、追い詰められた労働者の姿があった。

その夜ケーテは、母親のスカートに泣きながらまつわりつく2人の子どもの姿をスケッチし、これに「パン」という題を付けた。

*

<あとがき>

バンコップ家の人たちは、悲惨な生活を送る当時の労働者たちの姿をそのまま映し出しているかのようです。失業し、生活苦にさいなまれる労働者はやりきれない思いから妻や子どもに暴力を振るい、妻は子どもたちを養うために夫の暴力に耐え、自らの命を犠牲にして働くうちに、命を縮めていくのでした。

バンコップ家のエミール少年は、けなげにもそんな両親の苦しみを理解し、まだ遊びたい年頃なのに朝早くから深夜まで工場で働くうちに、肺を患うようになりました。コルヴィッツ夫妻は、この家族をどうやって救済したらいいか分からず、途方に暮れるのでした。

そんなある日。ケーテは街角で、追いすがる幼い子どもたちを振り切るようにして、夜の繁華街に出ていく女性を見ます。彼女は、パンを求めて泣いている子どもの姿をキャンバスに留め、「パン」と名を付けました。この作品は後になって、世界中の人々から高い評価を受けることになったのでした。

<<前回へ     次回へ>>

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
  • ツイート

関連記事

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(8)繁栄の陰の悲惨

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(7)人生の掃き溜め

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(6)版画家への道

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(5)祖父の遺言

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(4)この最後の者にも―ユリウス・ルップの説教

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(5)時の賛歌 臼田宣弘

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 日本人に寄り添う福音宣教の扉(224)音楽が支える聖霊による祈り 広田信也

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • ワールドミッションレポート(6月12日):ベルギーのために祈ろう

  • ワールドミッションレポート(6月14日):スイス 信仰で買ったトラクター、ローレン・カニングハムとYWAMに託された農場の奇跡

  • ワールドミッションレポート(6月15日):ベラルーシのために祈ろう

  • 花嫁(27)絶えず喜んでいなさい 星野ひかり

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • フランクリン・グラハム氏、ゼレンスキー大統領と面会 和平求め祈り

  • 淀橋教会、峯野龍弘主管牧師が引退し元老牧師に 新主管牧師は金聖燮副牧師

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

編集部のおすすめ

  • 四国の全教会の活性化と福音宣教の前進のために 「愛と希望の祭典・四国」プレ大会開催

  • イースターは「揺るぎない希望」 第62回首都圏イースターのつどい

  • 2026年に東京のスタジアムで伝道集会開催へ 「過去に見たことのないリバイバルを」

  • 「山田火砂子監督、さようなら」 教会でお別れの会、親交あった俳優らが思い出語る

  • 日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.