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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(14)働く妊婦

2022年8月24日14時40分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

ところで、政府機関による社会主義思想の取り締まりは、一段と厳しさを増してきた。新聞や雑誌などの報道機関は、頻繁に政府の検閲を受け、中でも「社会民主党」の新聞「フォアヴェルツ紙」や「民主党」の新聞「フォッシュ紙」などが調査の対象となり、締め付けを加えられてきた。

そんなある日。コンラードが診療所を訪ねてきた。政府の秘密機関に張り込みをしてニュースのネタを先取りしていた彼は、無精ひげを生やし、目を充血させていたので、いつも見てきた兄とは少し違った印象をケーテは感じた。

「忙しいのでしょう? 今何を取材しているの?」コーヒーを出しながら彼女は尋ねた。「ドイツ最大のスラム『労働者街』の人々の生活の実態を調査し、政府が行っている下層階級の切り捨てとその莫大(ばくだい)な予算を軍需費に投入している事実――などを摘発するために張り込んでレポートしているのさ」

こう言ってから、いきなりコンラードは妹に言った。「あのクルップ鉄鋼会社が兵器の開発をしていることを知っているかい?」ケーテは首をかしげた。「今リープクネヒトと協力し合って、密かに調べているんだが、政府はどんどん優れた兵器を作って、近い将来、軍事国家として他国への侵略を始めるのではないかな。俺は命に代えても、これを明るみに出すよ」

兄の言葉を聞きながら、ケーテは嫌な予感を覚えた。兄の報道への情熱が、どんどん彼を危険な方向に引っ張っていくように思えたからであった。

「兄さん、何書いてもいいから、死なないで」。思わずケーテは叫んだ。コンラードは笑うと、片手で妹の髪をなでた。これは、子ども時代からの癖が残っていたものだった。その時、ガヤガヤと騒がしい声がしたかと思うと、コルヴィッツ家の子どもたちが入ってきた。一人はよちよち歩きの子どもの手を引いていた。

「こんにちは! いい子さんたち!」コンラードは、相好を崩して2人の子どもの髪をなで、幼児を抱き上げた。「ハンス、ゲオルク、そしてペーター」。ケーテは兄に紹介した。

「おじさん、誰?」ハンスが、じっとコンラードを見て尋ねた。「おじさんはね、お母さんの兄さん、コンラードと言います。このひげはね、ちょっと濃くなってきたけど、怖くないんだよ」。そう言って彼がつるりと手入れしていないひげをなでると、子どもたちは笑って喜んだ。

その時、1階の診療室から患者の治療をしているカールの声が聞こえた。「たびたびめまいが起こるのは、栄養失調のせいでしょう。・・・毎日卵とミルクをとったほうがいいですね」。すると、患者の尖った声が聞こえた。「分かってますけど、私にはそんな余裕はありませんよ」

「・・・仕方ないですな。では栄養剤を出しますから飲んでください。それから・・・もうじき出産でしょう? 努めて体に負担がかからないように」。「私、これから働きに行くんです」。女が立ち上がる気配がした。「家に子ども2人いて食べさせなくちゃなりませんから。ありがとうございました」。そして、女は出ていった。

ケーテは急いで窓を開け、身を乗り出すようにして外を見た。腹が大きくせり出した女が、あえぎながら石段を下り、路地に消えていく姿が映った。とっさに、彼女は買い置きしてあった牛乳瓶を2本抱えると、女の後を追った。

「これ、少しだけどあなたと子どもさんで飲んでください」。その時、ほつれた髪をかき上げた女の目から険しい表情が消え、何とも寂しそうな色が浮かんだ。「ありがとうございます。先生の奥さん」。そう言うと、女は手提げ袋の中に牛乳瓶を入れ、のろのろと路地裏に消えた。

部屋に戻ると、コンラードはカールと何やら話し合っていたが、ケーテの姿を見ると立ち上がった。もう帰ると言う。「泊まっていけばいいのに」。そう言うと、彼はとんでもないというように手を振った。「新聞記者たるものは、昼も夜もないのさ。じゃ、また」。そして、彼は去っていった。

その夜、ケーテは『働く妊婦』のデッサンを始めた。1枚目は大きなおなかを抱えて医師の扉をたたく妊婦。2枚目は同じ妊婦が子どもたちの前を通る姿。3枚目はあえぎながら石段を上る姿だった。

*

<あとがき>

ケーテが生きた時代は、「進歩の時代」と呼ばれ、産業が驚異的な発達を遂げた世紀でした。しかし、クルップ鉄鋼会社に代表されるような巨大な企業は、密かに大砲その他の軍需製品を製造し、戦争という大きな大罪に加担することになりました。これは現代社会にも似通っており、政界と実業界の癒着は国民の生活などないがしろにして、利益のみを追求しているのです。実に、信仰を持たない文明は、世界に苦しみや悲しみのみをもたらし、やがては崩壊へとつながっていくことを教えられます。

コルヴィッツ夫妻の診療所にある日、出産間近の妊婦がやってきます。カールは彼女に、めまいが起こるのは栄養失調のせいだから、毎日卵とミルクをとって出産に控えるように言いますが、これに対する答えは「私、これから働きに行くんです」という言葉でした。

その夜、ケーテは『働く妊婦』という3枚つづりのデッサンを始めます。どんな思いで、彼女はこの版画を制作したのでしょう。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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