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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(16)戦争の予感

2022年9月21日15時54分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

ケーテは「ヴィラ・ロマーナ賞」を受けた後も、コツコツと「シンプリチスムス誌」の挿絵を描き続けていた。そのうち、ベルリンで開催される「家内工業博覧会」が出展を求めてきたので、初めてポスターを手がけ、『家内工業で働く女』を仕上げて送った。ところが突然、女の生活を深刻に表現し過ぎているという理由で、政府機関から撤回を命じられたのだった。

1910年。彼女は与えられた「ヴィラ・ロマーナ賞」の特典を受け、イタリアのフローレンスに旅行することになった。彼女は次男ペーターを一緒に連れていった。

ベルリン市内の中学校に通うペーターはもう14歳になっており、太って血色が良く、細かなことに心配りができる性格を持っていた。ハンスとゲオルクは18歳で、ハンスはベルリン大学の文学部に、ゲオルクは工業大学に通っていた。

1週間目に、わずかな休暇を取って夫カールもやってきたので、3人はフローレンスからローマへと足を延ばした。またハンスも大学が休みになったので、一人でベルリンからローマへやってきて合流したのだった。ゲオルクは学業があるので来られなかったが、ここフローレンスでコルヴィッツ家の家族は、恐らく一生に一度きりの水入らずの海外旅行を楽しんだのだった。

夫と息子たちが先に帰り、8カ月後にドイツに帰ったケーテを待っていたのは、愛犬ピティの死であった。18歳になるこの犬は、老衰のため足を引きずって歩くようになっていたが、腎臓の悪化で水ばかり飲むようになり、やがてベランダの隅に大きな体を横たえて死んだという。クララという家政婦が最期を看取ってくれたのだった。

ピティの遺体は診療所の裏の空き地に葬られた。しかし、それからしばらくすると、またペーターがみすぼらしい野良犬を連れてきた。野犬狩りをしていた保健局の車に載せられようとしたところをもらい受けたのだという。この犬はアナトールと名を付けられ、その日のうちにコルヴィッツ家の家族の一員となったのだった。

1912年。ケーテは「商工会議所」から依頼されて、ポスター『子どもの遊び場を作れ』を完成させた。ところが、今回もまた警察から撤回せよとの命令が下った。国家の芸術家への締め付けがじわじわと始まったことを彼女は感じないではいられなかった。

そんなある日のこと。社会運動家リープクネヒトがローザ・ルクセンブルクという女性の同志と共に訪ねてきた。2人は「スパルタクス団」という革命グループを結成したことの報告に来たのだった。

彼らは少し前から勤労青年を集めて自立の意識を高めるために講義やデモンストレーションを行ってきたのだが、集会に集まる労働者たちの数が日増しに増加し、結束も固まってきたことから、ついに「スパルタクス団」を結成した――というわけであった。

「今に戦争が起きますよ」。リープクネヒトは不吉な言葉を口にした。「国家が膨大な軍需費をため込んでいることをあなたのお兄さんの協力で調査することができました。間もなくドイツは戦争を始めるでしょう」

ケーテは彼に自分のポスター『子どもの遊び場を作れ』が警察の命令で撤回させられたことを話してから忠告した。

「国は今、社会主義的な勢力が強くなってきたことを警戒し、神経を尖らせています。思想的統一を図ろうと必死なのでしょう。だから、どうかお願い。彼らに武力行為を起こさせるきっかけとなるような過激なデモンストレーションはやめて」

「私たちは命を抵当に入れています。命を投げ出さなくては、革命はできません。ではごきげんよう」

その瞬間だった。ケーテの耳に祖父ユリウス・ルップの言葉が響いてきた。(剣を取る者は、剣で滅びる――とイエス様はおっしゃった。忘れてはいけないよ)

「どうか命を無駄にしないで! 武力からは何も生まれないのよ!」

彼女は2人にすがるように言った。すると2人は振り返って微笑し、手を振ってから遠ざかっていった。リープクネヒトの言葉を裏付けるように、翌日の朝刊にクルップ鉄鋼会社が世界で最も精巧な機能を持つ大砲を作り、海外に輸出を始めた記事が載せられていた。

この年の秋、ハンスとゲオルクは大学を卒業。ゲオルクは技師となってウィーンに渡り、現地の女性と結婚して住み着くことになった。またハンスは、ベルリンの雑誌社に就職が決まったが心不全となり、就職を諦めて自宅療養をしながら詩を作ることに専念した。

その1週間後、ケーニヒスベルクにいる妹リースベストから、母のケーテ・ループが肺炎により死去したとの知らせが届いた。

*

<あとがき>

かつてわが国でもそうでしたが、国が軍国主義に傾くと、政府による厳しい思想的統制が行われます。ケーテのところにも、少しずつ社会主義への弾圧が爪を伸ばしてきました。

この頃のケーテは、版画の制作活動の他に雑誌社や商工会議所の依頼を受けて挿絵やポスターの制作にも打ち込んでいました。そんな時、家内工業博覧会の依頼で作ったポスター『家内工業で働く女』が政府機関から撤回を命じられ、商工会議所の依頼で作ったポスター『子どもの遊び場を作れ』も警察により撤回を命じられたのです。

打ち沈むケーテのところに、社会運動家リープクネヒトが同志のローザ・ルクセンブルクと共に訪ねてきて、彼女の兄コンラードと協力し合って国家の軍需費の行方について調査を始めたことを告げ、「今にきっと戦争が起こる」と言い残して去っていきます。

ケーテの胸にはまたしても亡きユリウス・ルップの言葉が浮かびます。「剣を取る者は、剣で滅びる」というイエス・キリストの言葉でした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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