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「根拠に基づくスピリチュアルケア」 オックスフォード大でオリブ山病院の取り組み発表

2026年7月6日15時29分 執筆者 : 田頭真一
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関連タグ:オリブ山病院田頭真一スピリチュアルケア英国
「根拠に基づくスピリチュアルケア」 オックスフォード大でオリブ山病院の取り組み発表+
英オックスフォード大学で開催された国際会議「EBMライブ2026」に参加した筆者

6月24日から26日までの3日間、英オックスフォード大学で開催された国際会議「EBMライブ2026」に参加し、示説(ポスター)発表を行いました。

EBMは「根拠(エビデンス)に基づく医療(Evidence-Based Medicine)」の略称です。この会議は、同大の「根拠に基づく医療センター」(CEBM)と、英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」(BMJ)が開催しているものです。私は11年に、オリブ山病院(那覇市)の創設者で父の故・田頭政佐(たがみ・せいさ)と共に初めて参加し、今回で5回目の参加となりました。

今回の発表題目は、「根拠に基づく実践におけるスピリチュアルケア:多元的医療環境におけるキリスト教病院モデル」でした。これは、オリブ山病院で長年実践してきたスピリチュアルケアを、根拠に基づく医療の視点からどのように評価できるかを問うものです。

根拠に基づく医療とは、簡単に言えば「教えられたから」「権威者が言っているから」「これまで慣習として行われてきたから」という理由だけで医療を行うのではなく、本当に患者の益となっているのかを、科学的・客観的な根拠に基づいて問い直していく考え方です。

「根拠に基づくスピリチュアルケア」 オックスフォード大でオリブ山病院の取り組み発表
筆者(左)とオリブ山病院の創設者で父の故・田頭政佐(右)

この視点から見ると、日本では主観的なものと受け止められがちなスピリチュアルケアも、全人医療の一部として正しく位置付けるためには、倫理的であるだけでなく、客観的な根拠に基づいて評価される必要があります。

この考え方は、1983年にホスピスを設立して以来、オリブ山病院が大切に受け継いできた理念そのものです。

ホスピスケアを受けられたほとんどの方が、救われてから地上を去られます。広い意味では老人病棟もホスピスケアの対象であり、さらに広くこの世すべてが、ホスピスケアの対象だと言うことができるでしょう。そして私は神を除外した単なるヒューマニズムの視点ではなく、また単に主観的、心理的な慰めではなく、客観的、歴史的な事実としての神の愛、神の救いの御言葉に焦点を合わせて、ホスピスケアを行っていきたいと思っています。(田頭政佐「ホスピス開設時の振り返り」)

今回の研究は、この理念を現代の医療研究の方法論によって検証しようとするものです。すなわち、新しい考え方を提案したというよりも、田頭政佐が40年以上前から実践してきた理念を、今日の根拠に基づく医療という学術的枠組みの中で再検証する研究でもあります。

発表では、ホスピス患者60例を対象とした予備的な量的解析も報告しました。スピリチュアルケアの介入頻度によって高介入群30例と低介入群30例に分け、疼痛(とうつう)関連アウトカム(痛みに関する指標)などを比較したところ、高介入群でやや良好な傾向が見られましたが、統計学的な有意差には至りませんでした。

発表で私が最も伝えたかったことは、統計結果そのものではなく、その先にある「スピリチュアルケアも科学的評価の対象となり得る」という点です。これまでスピリチュアルケアは、「信仰だから評価できない」「人それぞれだから客観的に論じられない」と考えられることが少なくありませんでした。しかし、だからといって、あらゆる宗教的介入が患者にとって有益であるとは限りません。

「根拠に基づくスピリチュアルケア」 オックスフォード大でオリブ山病院の取り組み発表
宿舎から見えるオックスフォードの街並み

身体的医療が有効性と安全性を検証するように、スピリチュアルケアについても「患者に益となっているのか」「害を及ぼしていないか」を、倫理的かつ客観的に検証する姿勢が必要であると考えています。医療では、あらゆる治療はまず「患者に害を与えないこと(Do No Harm)」が原則です。スピリチュアルケアも例外ではありません。

発表ではまた、キリスト教神学に根ざした赦(ゆる)し中心のケアが患者の平安感と関連していた一方、恐れに基づく実践は苦痛と関連していたことも示しました。

抄録では、次のようにまとめました。

本研究では、臨床文脈におけるスピリチュアルケア評価のための構造的モデルとして、キリスト教的枠組みを用いた。キリスト教神学に根ざした赦し中心のケアは、患者の平安感と関連していた一方、恐れに基づく実践は苦痛と関連していた。これらの知見は、スピリチュアルケアもまた、他の臨床介入と同様に倫理的かつ実証的厳密さをもって評価される必要があることを示している。因果関係を明確にし、スピリチュアルケアの臨床的有効性をより厳密に評価するためには、今後さらに前向きかつ統制された研究が必要である。

会議では、多くの講義や発表を通して学ぶことができました。また、私の発表後には、参加者がポスターの前に立ち寄り、議論してくださいました。特に「宗教的多元社会において、キリスト教病院がどのように患者の信仰を尊重しながらスピリチュアルケアを実践しているのか」「スピリチュアルケアを根拠に基づいてどう評価しようとしているのか」に関心が寄せられました。

「根拠に基づくスピリチュアルケア」 オックスフォード大でオリブ山病院の取り組み発表
参加者との交流

他国の参加者との交流も与えられ、オランダの小児科医とは、根拠に基づく医療の教育について意見交換しました。また、スイスでもスピリチュアルケアの定義を巡る議論が進められていることを伺い、このテーマが国際的にも重要な課題であることを改めて確認しました。さらに、根拠に基づく医療の研究を国際的にリードしてきたCEBMセンター長のカール・ヘネガン教授とも直接お話しし、今後の研究について助言をお願いすることができました。

根拠に基づく医療はこれまで、主として薬剤や手術などの身体的医療を評価してきました。しかし、人間を身体だけではなく、心や霊性を含めた存在として理解するならば、スピリチュアルケアもまた検証されるべき重要な医療実践です。

スピリチュアルケアの必要性は世界的に認識されつつありますが、その定義や評価方法については現在も各国で議論が続いています。今回の発表は、スピリチュアルケアを単なる経験談や主観的印象にとどめるのではなく、他の医療実践と同様に客観的な根拠に基づいて評価し、検証していく可能性を示す第一歩となったと考えています。

オリブ山病院では今後も、聖書に基づき、また客観的な根拠にも基づくスピリチュアルケアの実践と研究を積み重ねていきます。聖書に基づくスピリチュアルケアが、科学的な検証にも耐え得る医療実践として成熟し、その働きが患者の慰めとなり、医療界においてもキリストの愛を証しするものとなるよう、お祈りいただければ幸いです。

◇

田頭真一

田頭真一

(たがみ・しんいち)

1958年沖縄生まれ。関西学院大学神学部、聖書宣教会聖書神学舎卒業。米フラー神学校、日本国立保健医療科学院、米バイオラ大学タルボット神学部、米神学大学院基金を通して英オックスフォード大学で学ぶ。大阪、沖縄、米国で牧師を務め、インドネシア、米国の神学校で教える。社会医療法人葦の会理事長、読谷バプテスト伝道所牧師、日本キリスト教病院協会副会長、沖縄聖書神学校教授、米神学大学院基金客員教授。教育学博士、心理学博士、名誉神学博士。著書に『天国で神様に会う前に済ませておくとよい8つのこと』『老金期』『死という人生の贈り物』など多数。

関連タグ:オリブ山病院田頭真一スピリチュアルケア英国
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