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鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの生涯

鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの生涯(13)「カーネギー図書館」の設立

2020年7月29日19時02分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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世界一周の旅から帰ったアンドリューは、旅の間に折に触れて書き留めたものを『世界一周』と題する本にまとめてチャールズ・スクリップス社から出版した。この本は各地で注目され、大きな反響があった。

そんなある日。彼がニューヨークの中央公園を散歩していると、一人の女性に声をかけられた。「あのう、カーネギーさん?・・・あなたの本読みましたわ。今まであなたのなさってきた事業を尊敬していましたので、この旅行記を読んでますます感激しました」

「ありがとう。そんなふうに言っていただけて光栄です」。アンドリューはそう言い、彼女と一緒に公園を歩き始めた。初対面なのに何か心を引かれたのだった。そしていろいろ話すうちに、自分がスイスに行ったとき、深く考えさせられることがあったので、今後は今まで働いて蓄えた富を公共の福祉のために使いたいと思っていることを話した。

「まあ、普通の実業家はなかなかそういう考えは持たないものですわ。何か計画なさっていることがありますの?」アンドリューは、故郷ダムファームリンに、自分を育て、見守ってきてくれた返礼として図書館を建てたい考えを述べた。

「私に初めて勉強する楽しさ、知識に対する憧れと意欲を与えてくれたのはあの町です。だから、特に勤労青年に対してこの贈り物がしたいのです」。「それは素晴らしい考えですわ。うまくいくようにお祈りしています」。ルイーズという女性は、彼と堅い握手をしてから立ち去った。

それから間もなく、アンドリュー・カーネギーがダムファームリンの町に公共図書館を寄贈したというニュースが各地の新聞で報道され、彼は実業家であると同時に篤志家としてその立場が高く評価されるようになった。

実業家として知られるアンドリュー・カーネギー氏は故郷に愛の贈り物をし、世界を感動で包んだ。これにより、氏はダムファームリンの市民権を与えられた。

どの新聞もこのような記事を書きたてた。この図書館は「カーネギー図書館」と名づけられた。設計者が入り口の所にカーネギーの名を入れようとすると、アンドリューはそれを拒絶し、入り口扉の上に太陽が光を放っている彫刻を置き、「光あれ」という標語を刻みつけてもらった。

この図書館が完成して間もなく、アンドリューはいよいよ最後の――これまで築いてきた事業とは全く別の計画を実現させるために鉄鋼事業を他の者に任せる決断をした。そこで、今まで手がけてきたすべての事業を統合して「カーネギー兄弟会社」とし、弟のトムや信頼できる友人たちを重役として各事業所に置いてこれを任せた。

1886年11月のこと。思ってもみなかった災いが米国全土に襲いかかった。チフスの流行である。その恐るべき魔手はアンドリューの友人や知人を次々と奪い、ついには愛する母親や弟のトムにまで迫ったのである。

この時、アンドリューはいよいよ福祉事業に着手するために、社会福祉の先進国である東欧の国々を訪問し、そこで得たさまざまな知識を携えて米国に帰ってきたところであった。そして、まず耳にしたのが、母マーガレットの死であった。わずかな時間の差で、その最期を看取ることができなかった。

(お母さん)彼は母親の墓の前に立ち、つぶやいた。(苦労をかけてきましたね。やっと昔のつらい生活を忘れさせてあげたいと思っていたのに。――でも、地上にいたら、まだ苦労が多いと思うから、天国に行ってゆっくり休んでくださいね)

アンドリューの目の前に、過ぎし日の母の姿が次々と浮かび上がり、今もその言葉が聞こえるようだった。(どんなに貧乏しても、人間は誇りを忘れてはいけないよ。立派な心と気品を失ったら、人間としての価値はありません)

それから間もなく、今度は弟のトムが危篤となった。アンドリューが駆けつけると、まだかすかに意識があったトムは微笑して言った。「兄さん、わずかな間だったけど、一緒に働けて本当にうれしかった」。そして最後に、こうつぶやくのだった。(兄さん・・・たった一つだけ心配なことがあるんです。兄さん・・・そろそろ良いお嫁さんをもらったら・・・)

翌日、トムは帰らぬ人となった。

*

<あとがき>

世界一周の旅において、アンドリューは大切な教えを胸に帰ってきました。そして、ある決意を実行したのです。それは、「天に宝を積みなさい」と聖書に記されているとおり、実業家として働いた結果得られた富のうち、余剰のものを神と人にささげる――ということでした。彼はまず手始めに、故郷ダムファームリンに自分を育ててくれた返礼として公共図書館を寄贈しました。彼は少年時代をこの町で送るうちに、数え切れないほどの恩恵をこうむったことを決して忘れていませんでした。

彼は自分の後の世代の人々が、この町の市民として誇りを持ち、高い教養と倫理を身につけ、幸せな人生を築いていってほしいと願い、誰でもその場所を訪れ、自由に本を手に取り、そこから多くのことが学べるようにと願って、この事業を興したのです。当時の実業家で、このように自分自身で得た富を公共の福祉のために用いた人はほとんどいませんでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。12年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。その他雑誌の連載もあり。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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