戦国に光を掲げて―フランシスコ・ザヴィエルの生涯(6)山の難、川の難

2017年11月16日18時59分 コラムニスト : 栗栖ひろみ 印刷

マノエルの死は、ザヴィエルの一行に深い悲しみを与えた。しかし、彼らはいかなる困難が待ち受けようとも先に進む決意を固めた。松浦隆信は、平戸に留まるなら自分の権威にかけて庇護(ひご)すると言ったが、彼らの志が強固なことを知ると、地理に詳しい者に京都までの地図を書かせ、それを持たせて送り出した。

博多に着くと、驚いたことにはアマドールがやって来たのである。彼は鹿児島の町から逃げ出し、ザヴィエルたちが平戸から博多に向かうと聞いて追いかけてきたのだった。この町では聖福寺の仏僧たちと交流を深め、互いの宗教を尊重し合うことができた。そして、香椎(かしい)、宗像(むなかた)を経、黒崎から下関に渡ると、いよいよ困難な陸路の旅が始まったのである。

10月半ばのひどく冷え込む晩、野宿した彼らは寒さのあまり眠ることができなかった。所持品といえば、わずかに米袋、祭服1枚、シャツ3枚、古毛布1枚、聖書と黙想書のみであった。昼も夜も歩き続けるうちに、彼らの靴はすり切れ、足の裏のマメが潰れて、足を引きずりながら一歩一歩這うように進むしかなかった。

そして、険しい山中に分け入ると、彼らは疲労のあまり倒れるように座り込んだ。「もうこれが最後の食料です」。ザヴィエルは、わずかに残った米を取り出し、祝福した。フェルナンデスが枯木を集めてくると、ベルナルドが携帯した釜で炊飯をした。

猿は肺炎にかかったらしく、苦しそうな息をし始め、そのうちにぐったりとなった。「かわいそうに。猿は置いてくればよかったね」とザヴィエルが言うと、アマドールは首を振った。「いいえ。この子は私を親と思っているらしく、片時もそばを離れません」。そして、猿を懐に入れて温めてやった。猿は目を閉じ、その胸にしがみつくようにしていた。

そのうち、一行は川のほとりに出た。きれいな水だったので足の傷を洗い、それぞれが腹いっぱい飲むことによってわずかに空腹を満たしたような錯覚を覚えた。

と、その時である。近くの岩陰から突然山賊が2、3人飛び出してきて道をふさいだ。そして、金を出せと短刀で脅しつつ、一行の持ち物をひったくったが、金目になるものを何1つ彼らが持ってないと知ると、ぺっと唾を吐きかけ、悪態をついた。

そのうち、仲間の1人がアマドールを珍しそうに見ていたが、彼をからかい始めた。「こいつ、真っ黒い皮膚しちょるが、血ィも黒いかな? ひとつ切ってみるか」

そして、短刀をかざして近寄った。その時、キイキイと鋭い声がしたかと思うと、猿が歯をむいて男に飛びかかり、鋭い爪でその顔を引っかいた。「このやろう!」引っかかれた男は、短刀で切りつけようとしたが、一瞬早く、アマドールは猿を両手で抱き、懐に入れてしまった。

男は舌打ちすると、仲間から刀をひったくり、インド人の首から胸にかけて切り下げた。彼は血しぶきを上げて地面に転がり、息絶えた。ザヴィエルたちは大声を上げて駆け寄ろうとしたが、男たちに囲まれ、殴る蹴るの暴行を受けた末、息も絶え絶えになって倒れ伏した。彼らはいまいましそうに一行の荷物を足蹴にすると引き揚げていった。

しばらく後、一行はようやく起き上がると、痛む体を引きずりながらアマドールの亡きがらを埋葬し、十字架を立てて冥福を祈った。そして、キイキイと悲しそうに鳴く猿を懐に入れて出発したが、いくらも行かないうちに猿は鋭い声で鳴いて死に物狂いでもがき、主人が眠る墓に戻っていってしまった。

ザヴィエルは手をひどく引っかかれながら、歯をむいて抵抗する猿を抱いて懐に入れ、歩き出した。猿はそれからずっと鳴き続けていたが、その声がだんだん弱くなってかすれてきたと思うと、すでに肺炎にかかっていた猿は死んでしまった。

山賊たちは物陰から様子を見ていたが、一行が行ってしまうと、1人がこっそり墓に近づき、十字架を引き抜こうとした。「やめんか。どんな祟(たた)りがあるか分からん」。仲間はやめた。その時、地面に紙切れが落ちているのが彼らの目に留まった。1人が拾うと読み上げた。

「誰でも渇く者は、私の所に来て飲むがよい・・・」「何だ、こりゃ。あほらし」。彼らは紙を捨てると歩き出した。しかし、仲間の1人はその紙切れを大切に懐に入れておいた。

後になって彼は山賊から足を洗い、ある大名に召しかかえられることになったが、その主君がキリシタンとなったため、同じ教えに帰依し、殉教を遂げた。その大名とは、摂津守(せっつのかみ)高山右近であった。

<あとがき>

マノエルに続いて、インド人のアマドールも心ない人たちの手にかかり、命を落とすことになります。彼が大切にしていた猿も、肺炎にかかった上、主人を失ったショックで死んでしまいます。ザヴィエルの伝道に大きな損失と言えましょう。

しかし、2人の外国人と1匹の動物の死は、神様の手のうちにあって尊いものとされ、決して無駄になることはなかったのです。悲しみに打ちひしがれ、旅を続けるザヴィエルたちはこの時分かりませんでしたが、その後、素晴らしい奇跡が起こるのです。

山賊の1人が地面に落ちている紙切れを拾うのですが、それは伝道に使うために一行の誰かが懐に入れていたもので、聖句が書いてありました。彼らはそれを捨てて行ってしまうのですが、その仲間の1人はそれを再び拾い上げて懐に入れ、大切にとっておきました。

このことから、この人は後に奇(くす)しくもキリシタン大名高山右近に召し抱えられ、共に殉教の死を遂げたのです。

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栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。派遣や請負で働きながら執筆活動を始める。1980〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、1982〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、1990年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。動物愛護を主眼とする童話も手がけ、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で、日本動物児童文学奨励賞を受賞する。2015年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。編集協力として、荘明義著『わが人生と味の道』(2015年4月、イーグレープ)がある。

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