【童話】星のかけら(17・最終回)そして再会 和泉糸子

2016年12月21日07時02分 コラムニスト : 和泉糸子 印刷
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ノードは一人ぼっちの生活になれてしまいました。

この広い大地に仲間はだれもいない。いや、いるのだろうが、どうやったら連絡が取りあえるのか、さっぱりわからない。ずいぶん前には家族がいた。妻のミムラと息子のアルム。隠れながら暮らしていたけれど、いつかは他の仲間に会える日が来ることを信じていたし、家族がいたからささえ合って、はげまし合って、夢をしぼませることなく、山の中をキャンプしながら移動していた。

家族のきずながどんなに大きかったことか。でも、今は一人ぼっち。あの日、たしかにミムラの悲鳴を聞いた。遠くはなれていたけれど、心にまっすぐ伝わってきた。何かあったにちがいない。ミムラは生きているのだろうか。アルムはどうしているのだろうか。考えても、考えても、答えは返ってこない。

家族と別れた場所に行ってみた。けれど、見つけることはできなかった。おそるおそる人家の近くに行ってみたけれど、人の気配がすると、にげ隠れしなければならない身をなげくばかりで、家族を探すことはできずにいた。

山の奥深くにひそんで、木の実を食べ、川の水を飲んで、時には畑の作物を少しもらって、何とか命をつないできた。家族に会えなければ生きていても仕方のない命だと思うけれど、いつかはめぐり会えるという思いが、どうしても消えない。山奥でアルム、ミムラと声に出してさけぶと、こだまが返ってくる。

私は生きている。アルム、ミムラ、生きているのか。返事をしてくれ。

同じことを、ついつい思いながら毎日眠りにつく。夜の間に命は消えず、朝の光と共に、私はまた、一人ぼっちの一日を始める。

ところが、去年不思議なことがあった。家族の気配とはちがうけれど、なにか似たような波長を私は感じた。他の小人がいるのかもしれないと思って、私は我(われ)をわすれて近よると、人間の女の子がたおれていた。

毎年のことだったが、はなればなれになった時が近づくと、矢も盾(たて)もたまらず、家族と別れた場所に向かうのが私の習かんになっていた。その時も、そうやって移動している途中だったので、日ごろの用心をわすれてしまっていたらしい。

女の子は不思議なことに、小人に似たやさしい波長を出していた。そしてつかれ果てて泣いていた。私は初めて、人間に対して、あわれみを感じた。

「ペロがいなくなったの。探しているの。わたしのオウム、見かけなかった?」

その子は私に聞いた。私が小人であるのを、不思議とも何とも思わない、くったくのない表情を見て、人間にも、こんな子がいるのかと、私はびっくりした。

そして私はその子に持っていたわずかばかりの水をあげた。

「わたしチエというの。ありがとう、小人さん」

その子に名前を言うわけにはいかなかった。けれど思いきって「わたしのような小人を以前に見たことがありますか」と聞いてみた。

「ううん、あなたが初めてよ。小人さんってホントにいるのね。会えてうれしかった。助けてくれてほんとにありがとう」とその子は言った。

それから1年になる。また、家族と別れた場所に行ってみよう。

いつになったら私の旅は終わるのだろう。

ノードは、山伝いに里に下りていき、チエと出会った山も通りぬけて、1人とぼとぼと歩き始めました。

カンサイさんと一行はチエのまよった山の中に入りました。

カンサイさん、3人組、小人の3人が少しはなれて、それぞれに笛を吹きました。

「アルムがあなたを探しています
なつかしいお父さん
ここにいるのはぼくの友だち
大丈夫です 出てきてください
アルムがあなたを探しています」

人間の耳には聞こえないが、アルム、ブラン、グリーの耳にはそう聞こえる笛の音でした。

ノードが近くにいれば、出て来てくれるかもしれない。みんなは場所を移動しながら笛を吹きましたが、あたりは静まったままでした。

次の日、一行は民宿を出て、カンサイさんの実家、おチカさんの家に移動しました。那美(なみ)さんが、みんなが泊まれるように準備してくれていました。

おチカさんはアルムやブランと再会して涙を流しました。グリーの話も聞いて、「あんたも大変やったね。でもお父さんとお母さんがいっしょでよかったのう」と言いました。そして、「お父さんに会えるといいねえ。わたしも気をつけてはいたんだけど、ごめんしてな。力が足りんで」と、アルムにあやまりました。

カンサイさんが教会の子どもたちを連れて帰ってきたというので、近所の人たちはたずねて来なかったので、アルムたちも人目を気にせずにすごすことができました。おチカさん手作りの「かきまぜ」というおすしをごちそうになり、畑でとれたてのトマトやキュウリを、那美さんがサラダにしてくれて、みんなは民宿とは一味ちがう、家庭の味を喜んでいただきました。

そして、その次の日、おチカさんもいっしょにキャンピングカーに乗って、アルム親子を助けた場所を教えてくれました。

そこは人家からは少しはなれていたけれど、通る人もたまにあり、車も時に通る場所でしたから、カンサイさんは少し奥まった所に車を止め、小人たちはおチカさんといっしょに車に残って、3人組とカンサイさんだけが探すことになりました。

カンサイさんが笛を吹きました。ユキトも笛を吹きました。シュンスケも笛を吹きました。ケンタも笛を吹きました。4人には聞こえないけれど、笛の音があたりに語りかけました。

「アルムがあなたを探しています
なつかしいお父さん
ここにいるのはぼくの友だち
大丈夫です 出てきてください
アルムがあなたを探しています」

あたりは静まったままでした。
おチカさんが車をおりてきました。アルムを連れています。

「お父さん、アルムです。ぼくも母さんも生きています。
お父さん、ここにいるなら出てきてください。
この人たちは味方です。
大丈夫です。お父さん」

4人はまた、笛を吹きました。

「アルムがあなたを探しています
なつかしいお父さん
ここにいるのはぼくの友だち
大丈夫です 出てきてください
アルムがあなたを探しています」

すると、ざわざわと草むらを踏み分けて、ノードが姿を現しました。

「アルム」
「お父さん」

その後のことは、書く言葉が出ません。うれしさが飛び交い、大きな、大きな風船がパンパンにふくらんではじけるほどのみんなの感動が、あたりの景色を変えるようだったとだけ言っておきましょう。

そうやって、2人の親子は10年ぶりに出会い、「アルムのお父さん救出作戦」は、無事終わったのでした。

「私は大したことをしなかったけれど、この作戦が成功したのは、親子の心と心の結びつきがもたらした奇跡(きせき)のようなものだったと思う。これもみんなの祈りがあり、協力があり、そして神様が助けてくださったからだろう」とカンサイさんは言いました。

3人組にとっても、この夏は大きな体験の時となりました。夏休みの自由研究には書けないことの中に、一番大切なことがあったのだけど、そのことはユキト、シュンスケ、ケンタの4年生3人組の心の一番奥にしまわれた宝物(たからもの)だったでしょう。

星のかけらをプレゼントされてから、何も知らずに始まった冒険。アドベンチャーをたくさん体験して、子どもたちは心と心のきずなの大切さ、あきらめない気持ちの大切さ、友情(ゆうじょう)の大切さ、信じることの大切さを一つ一つ、これからも持ち続けていたいと思わされていました。

キャンピングカーの中で、3人組と小人の3人組、そしてアルムの父ノード、そしてカンサイさんと那美さんは、一夏の体験を共にした親しみをかみしめながら、帰り道をたどっていました。

「富士山よ。今日は、とびきりきれいに見えますね」と、那美さんが言いました。ユキトは富士山の姿をながめながら、冒険はすばらしいと心から思っていました。(おわり)

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和泉糸子

和泉糸子(いずみ・いとこ)

1944年生まれ、福岡市出身。1965年、福岡バプテスト教会で受洗、のちに日本基督教団の教会に転入し、Cコースで補教師試験に合格。1996年より我孫子教会担任教師、2005年より主任担任教師となり、20年間在職。現在日本基督教団隠退教師。

九州大学文学部卒業。東京都庁に勤務後、1978年より2002年まで、船橋市で夫と共にモンテッソリー教育を取り入れた幼児教育や、小中学生対象の教えない教育という、やや風変わりな私塾(レインボースクール)を運営。

童話「星のかけら」は、小学生の孫のために書いたものですが、教会学校の子どもたちが少なくなっている今、お話を通して教会や神様に少しでも出会える場が与えられればうれしいです。

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