神学書を読む(42)『ふしぎなキリスト教』の著者2人による新著『アメリカ』

2019年2月11日13時35分 執筆者 : 青木保憲 印刷
+神学書を読む(42)『ふしぎなキリスト教』の著者2人による新著『アメリカ』
橋爪大三郎、大澤真幸著『アメリカ』(河出新書 / 河出書房新社、2018年11月)

米国を「アメリカ」たらしめているものとは? 2人の社会学者が「キリスト教」と「日本人論」を熱く語り合う、コンテンツ満載の1冊!

新書は玉石混交である。だが本屋の店頭には、必ず平積みにされている。そして、数千円する本に決して引けを取らないものが数多くある。2011年に発刊された『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書)もそのようなベストセラーの1冊である。この本が出た後、さまざまな関連本(『ふしぎな「ふしぎなキリスト教」』〔ジャーラム新書 / 慧文社〕、『「ふしぎなキリスト教」と対話する』〔春秋社〕など)が発刊された。各界に大きな影響を与えたことが分かる。

2018年末に、同じ著者2人(橋爪大三郎氏、大澤真幸氏)による対話形式の新書が発刊された。タイトルは「アメリカ」。何とシンプルであろうか。河出書房新社が60年ぶりに復活させた教養新書レーベル「河出新書」から出版されたという意味でも意義深い1冊となっている。

300ページを超える本書は、本の帯にコンテンツの面白さが披露されている。

「アメリカの何たるかがほんとうに、わかる!」
「アメリカを知ることは、日本を知ること」

このようなコンセプトの下、大きく3つに分けて『ふしぎなキリスト教』コンビの社会学者2人が語り合う、という形式を取っている。第1部は「アメリカとはそもそもどんな国か」、第2部が「アメリカ的とはどういうことか」、第3部が「私たちにとってアメリカとは何か」である。

本書を手にする人の多くは、米国について知りたい人であろう。例えば、トランプ政権のさまざまな「事件」が、毎日のように太平洋のこちら側にいる日本にも届けられる。時としてこれらの出来事は、私たちにとって「理解不能」である。だから「どうしてこんなことが?」「なぜ米国民は黙っているのか?」という率直な疑問が生まれてくる。

本書はそのような疑問に直接答えることはしていない。しかし私たち日本人の目から見て「特異なこと」と思える事柄の中身、すなわち出来事が生み出されるメカニズムや、それらに向き合う米国人の心情、世界観を形成するもの(思想、哲学、宗教)について、社会学者としての観点から分かりやすく解説している。そして、「米国を知るということは、とりもなおさず、米国と向き合っている私たち日本人を知ることである」という反転を見事に展開している。第3部の後半は、もはや「アメリカ」というタイトルを離れ、「日本人論」が主な内容となっている。ここが本書の肝であり、また「私たちの鏡として米国を見るべきだ」というメッセージである。

そのような「鏡としての役割」を持つ本書は、その根底に「キリスト教」への深い理解があるように思われる。そして、一見難しく、奇異に感じられるキリスト教的用語や出来事を、一般の人々に分かりやすく「解説する」ということに心を砕いている。つまり「アメリカ」の根幹を成す「キリスト教」の成分を分析・解説していると言えよう。そういった意味で、本書は米国的キリスト教の入門書としても最適な1冊ということになる。

例を挙げるなら、第1部5章の「大覚醒運動とは何だったのか」では、いわゆる「リバイバル現象」の中核となる「覚醒」の本質について、下記のような解説が加えられている。

認識の図式自体は、信仰のあるなしで、変わりません。因果関係の部分は因果関係でできている。さてその、偶然の部分。信仰をもつと、偶然が、必然になるんですね。なぜかと言うと、それは神の意思である。(中略)こういうことになると、認識している内容は一ミリも変化がないのに、何かが根本的に違っていて、全部が神の意思になる。偶然が全部、必然になるんです。(中略)覚醒の本質とは、そういうちょっとした認識の相転移だと思います。(橋爪氏、67ページ)

ペンテコステ諸派に属する期間が長い私にとって、「リバイバル現象」はある意味、キャンパスの下色のようなものであった。だからそれをこういった形で「成分解説」してもらうと、新鮮な驚きと感動がある。同時に、まったくキリスト教的素養がない人と話をするときに、本書の解説はとても役に立つ。なぜなら「通じる用語」がここに散りばめられているからである。

そんな中でも、特に感銘したのは第2部のプラグマティズムの歴史と解説である。ご存じのように、プラグマティズムは米国で花開いた哲学である。パース、ジェイムズ、デューイという人物名を聞いたことがある人もおられよう。

彼らが「アメリカ」で追究し、「アメリカ」で開花させたこの考え方は、米国の世界観を大きく進展させたと同時に、その土壌で育まれた「米国式キリスト教」を発展させたと言っていい。両氏は「プラグマティズム」と「キリスト教(宗教)」、そして「アメリカ」の関係を次のように述べている。

この対談のはじめの方で、アメリカというのは、宗教的な敬虔と極端に世俗的な冒瀆(ぼうとく)とがショートカットでつながっているように見える、ということが不思議だ、という問題提起をしたわけですが、このパースとジェイムズとの繋(つな)がりに、この疑問を解くひとつの鍵があるようにも思えたからです。(大澤氏、201ページ)

プラグマティズムは、宗教のことを考えている。さまざまなキリスト教の宗派(教会)と自然科学とを考え、これが調和し共存する、アメリカという空間をどう設計すればよいかと考えているのです。それは、宗教であって宗教でなく、哲学であって哲学でなく、科学であって科学でない。ひとつのアメリカ的生き方の提案なんです。(橋爪氏、209ページ)

「神学」とは、端的に言うなら「自分の信じている神、その世界観を共通言語で他者へ伝える体系」であろう。その際、同じ分野に精通している者同士であれば専門用語で事足りる。しかし共通言語としての「神学」が成立し得ない相手である場合(その機会の方が圧倒的に多い)、やはりそれをかみ砕く必要がある。それは言い換えるなら、用語の成分を解説することであろう。確かに成分解説では相手を信じさせることはできない。共感してもらえる可能性も低い。しかし、相手との対話はそれにおいて確実に次の段階へ進む。

本書がさまざまな分野において「鏡としての役割」を果たすことは述べた。それは米国という一国家のみならず、その国家に根付いた「キリスト教」、さらにその恩恵と偏見を最もストレートに受けた「戦後日本人」のアイデンティティーにとっても、同じ機能を果たすことになるだろう。第3部の後半が「日本人論」になっているのは、まさにこここそ、私たち日本人のリアリティーに触れる部分だからである。

神学書の一形態として、社会学者の対談として、そしてある種の日本人論考として、本書は多くの示唆を私たちに与えることであろう。分量は多いが、一気読みしたくなる熱量を持った1冊であることは間違いない。

■ 橋爪大三郎、大澤真幸著『アメリカ』(河出新書 / 河出書房新社、2018年11月)

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会研修牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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