発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから

2019年1月5日19時37分 執筆者 : 田頭真一 印刷
+発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
韓国の発表者である啓明(ケミョン)大学東山(ドンサン)病院教授のファン・ジェソク医師

韓国で開かれたアジアキリスト教病院協会(ACHA)の第23回年次総会(2018年11月8〜10日)は、最終日に2つ目のシンポジウム「発展途上国への医療宣教」が行われた。

シンポジウムではまず、韓国の啓明(ケミョン)大学東山(ドンサン)病院教授のファン・ジェソク医師が「東山病院―受ける者から与える者へ」と題して講演。東山病院の歴史から、これまで「受ける者」であったアジアのキリスト教病院が「与える者」となることの大切さを語った。

東山病院は、19世紀半ばから末にかけて世界各地で医療宣教を行ってきた米国長老教会の働きによって生まれた。医師であり宣教師である献身的なクリスチャンが遣わされ、さまざまな支援を受けて建てられた病院だということができる。しかし今は、東山病院が幾つもの発展途上国に医師を派遣し、宣教する病院となっている。

1990年にバングラディシュに最初の医師を派遣して以来、派遣国を増やし続け、現在ではカザフスタン、ネパール、エチオピア、ハイチ、モンゴル、キルギスタン、カンボジア、ラオス、タジキスタン、フィリピンなどで医療宣教を行っている。

このように現在は多くの国で医療宣教の働きを展開している東山病院であるが、課題もある。多くの場合、短期派遣で留まっており、継続した医療宣教の実現に難しさを感じるという。また、宣教地においてどの医療分野で診察するかの選択も難しい。これまでの経験から、予防医学の重要性や、できるだけ一つの病気に焦点を当てて治療を行うことの大切さ、またこれらの発展途上国における医学教育の大切さを痛感しているという。さらに宣教地も戦略的に選ぶ必要がある。すでに多くを実践している東山病院の働きからの振り返りと反省であったため、非常に重きのある意見として聞くことができた。

発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
タイの発表者であるクワイ川キリスト教病院のプラプノート・バスコンリューングラント事務局長

次にタイからの発表として、クワイ川キリスト教病院のプラプノート・バスコンリューングラント事務局長が「外国宣教の遺産からタイにおける最後の宣教基地へ」と題し、自院の歴史を語った。同院は、米国の合同キリスト教宣教師協会(UCMS)の宣教師によって、1960年にタイのジャングル奥地に開設された診療所がその始まり。69年には、医療宣教の地域が拡大したことで、名称を現在の「クワイ川キリスト教病院」に変えた。その名称から、映画「戦場にかける橋」を思い起こす人も多いかもしれない。同院はその後、数年の休診期間があったが、84年には現在の場所に移転し、外来・入院の両者を行う総合病院として診療を続けている。

特徴としては、ミャンマーとの国境近くにあるため、移民の患者も多く、多民族に多言語で診療を行っていることが挙げられる。タイ人以外に、ビルマ族や、山地族のカレン族、モン族にも医療を提供している。その内容は多岐にわたり、多種の手術もさることながら、熱帯地域に特徴的なマラリヤの治療や移民の間に感染が多い結核の研究も行っている。さらに現在は、新病棟の建築が進んでおり、地域に高度医療を提供する場として機能することが期待されている。

そのような状況から、「外国宣教の遺産からタイにおける最後の宣教基地へ」という発表の題は、まさにクワイ川キリスト教病院の医療宣教に対する決意の現れと感じた。

発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
タイからの参加者

台湾からは、昨年2月に発生した花蓮地震による心的外傷後ストレス障害(PTSD)への対応が発表された。また震災時に、日本のキリスト教病院からも支援があったとして、感謝を表していた。

一方、屏東(ピントン)基督教医院のジョセフ・クワンリュン・ユイ院長は、アフリカのマラウイにおける医療宣教や病院設立、手術、エイズへの対応などを語った。人口10万人に対して17人の外科医がいる日本に比べ、マラウイでは0・43人と、約40分の1の外科医しかいなく、こうした困難な状況の中、今後どのような戦略を練っていくかを述べていた。

発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
昨年2月に台湾で発生した花蓮地震への日本からの支援に対し、感謝を受ける淀川キリスト教病院の石田武理事長
発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
台湾の発表者である屏東(ピントン)基督教医院のジョセフ・クワンリュン・ユイ院長

フィリピンからは、ビサヤス地域医療センター理事長のスーザン・エレアノ・クラロ医師が、フィリピンのキリスト教病院の歴史と現在について発表した。フィリピンにおけるプロテスタント宣教は、医療や教育が伝道と一体化して始まり、診療所や学校が伝道の一環として建てられてきた。

しかし、フィリピンの医療事情はいまだに劣悪だという。10人のうち6人が生涯一度も医師に見てもらわないまま死亡するとされており、平均寿命(2010年)は68・8歳(男性66・11歳、女性71・64歳)と、日本人よりも約15歳も短い。

発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
フィリピンの発表者であるビサヤス地域医療センター理事長のスーザン・エレアノ・クラロ医師

現在の課題としては、移民の増加や高インフレによる経済格差のために、低所得層では感染症が再び広がっている一方、高所得層では生活習慣病が増加していることがある。また、高齢化も進みつつあり、医療保険の不備や、制約の多い医療制度などの課題もある。各医療施設においては、多額の負債や施設・設備の老朽化、看護師や助産師の減少などがある。

これらの課題を乗り越えるためには、病院が地域教会や地方自治体、地域共同体、さらに企業との連携を図り、まず継続性や安定性を確保する必要がある。そして、病院を中心とした保健医療サービスを充実させ、貧しい移民も受けられる公平な医療の提供を確立させる。その上で、在宅や地域を基礎とした保健医療施設や制度を発展させていくことが、これからの目標となるという。

フィリピンのキリスト教病院協会は、このような具体的な働きを通して、人々の全人的な癒やしの業を進め、神の国の支配を宣言していくことを目標としている。そしてそのために、さまざまな課題の中にあっても、教会を土台とした病院が、その保健医療の働きと影響に力を入れ、イエス・キリストがそうであったように、貧しい者や軽んじられている者に第一に仕えていくことを決意している。

発展途上国への医療宣教、アジアのキリスト教病院のこれから
フィリピンからの参加者

以上のように、先進国では想像できないような劣悪な医療事情の中で生活している人々が世界中に多くいることが、今総会では分かち合われた。そして、その中でどのようにキリスト教病院が医療宣教――すなわち、身体的・精神的・社会的・霊的なケアと癒やしを行う全人医療――を、これまでどのように行ってきたか、また現在どのように行っているかを聞き、そして、これからどのように何をしていけばいいのかを問われる、非常に有意義でチャレンジングな総会だった。

その締めくくりは、タイの医療宣教師であるバントーン・ブーンイット牧師による閉会礼拝のメッセージであった。「未来を築く―私たちすべてに対する神からの召命」と題し、ネヘミヤ記から伝えたブーンイット牧師は、ネヘミヤが神からの不可能な働きへの召しに応えた預言者であったと語った。神の業には、ハドソン・テーラーが語ったように「不可能・困難・完成」という3段階がある。それ故、不可能な世界に出ていき、困難な状況と格闘し、そして神が共におられるなら、いつの日か完成の時が来て、神の栄光を称えることになると、力強くメッセージを語った。

「変革:キリスト教病院からの挑戦」を主題とする次期総会は、今年11月にタイで開催される。ブーンイット牧師のメッセージは、まさに次期総会開催国であるタイの意気込みを感じさせるもので、大きな期待を持って今総会を締めくくることができた。(終わり)

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■ アジアキリスト教病院協会第23回総会:(1)(2)(3)(4)

田頭真一

田頭真一(たがみ・しんいち)

1958年沖縄生まれ。関西学院大学神学部、聖書神学舎卒業。米国のフラー神学校、バイオラ大学タルボット神学校、神学大学院基金を通して英国のオックスフォード大学、また日本の国立保健医療科学院に学ぶ。教育学博士、心理学博士、名誉神学博士。日本(大阪、沖縄)の教会、米国(ロサンゼルス、ポートランド)の日系人教会を牧会し、米国、インドネシアの神学校で教鞭を執る。現在、特定医療法人葦の会オリブ山病院理事長、読谷バプテスト伝道所牧師、沖縄聖書神学校教授(宣教学、スピリチュアルケア)、神学大学院基金客員教授。著書に『天国で神様に会う前に済ませておくとよい8つのこと』(東邦出版)、『全人医療とスピリチュアルケア:聖書に基づくキリスト教主義的理論とアプローチの手引き』(オリブ山病院)などがある。

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